FEDモデルで検証してみる「もうはまだなり」?

 では、「高値を更新した米国株はもう高い」ので投資機会はないのでしょうか? 古くからの相場格言に「もうはまだなり、まだはもうなり」があります。「もう相場が天井や底にあると思い、売りや買いに転じても、まださらに一段の上げや下げが待っている可能性がある」との意味です。実際、2009年から強気相場を続けてきた米国株は、高値を更新し、あるいは逆に株価が下落するたびに「高値警戒感」が悲観的な投資家の間で広まりました。

 図表3は、S&P500指数の予想PERと長期金利の推移を長期で示したものです。現在のS&P500指数の予想PERは約17.1倍で、長期金利は2.0%程度で推移しています。
1992年以降の予想PERの平均は約16.1倍で、「予想PERは過去の算術平均よりやや高め」です。ただ、長期金利水準が、同期間の算術平均(4.4%)の半分未満である点にも注目したいと思います。

<図表3>米国市場の予想PERと長期金利はどう推移してきたか

*予想EPSはS&P500指数ベースの12カ月先予想EPS(12 months forward looking EPS)
出所:Bloombergのデータより楽天証券経済研究所作成(2019/7/24)

 本稿では、比較的簡便なバリュエーション手法として知られる「FEDモデル(通称)」で米国株式の水準分析をしてみましょう。これは、FRB議長をしていたアラン・グリーンスパン氏が1997年に米議会に提出した報告書に盛り込まれた指標(モノサシ)として「グリーンスパン・モデル」とも呼ばれました。予想PERの逆数(予想EPS÷株価)である「益利回り」と米長期金利との差(=益利回りスプレッド)を試算し、相対的な高低で「債券と比較して株式が割高なのか割安なのか」を評価するものです。

 このモデル(益利回りスプレッド=長期金利-予想益利回り)では、数値が高いほど株式が債券と比較して「割高」と推定され、数値が低いほど「割安」と推定されます(図表4)。

<図表4>FEDモデル(益利回りスプレッド)で検証する割高感と割安感

*予想EPSはS&P500指数ベースの12カ月先予想EPS(12 months forward looking EPS)<市場予想平均> 出所:Bloombergのデータより楽天証券経済研究所作成(2019/7/19)

 図表4で振り返るとおり、2000年初めの「ITバブル時」にS&P500指数の予想PERは25~26倍に拡大。長期金利は6.7%まで上昇しました。当時の益利回りスプレッドは+2.8%まで上昇する場面(2000年1月)があり、「株式は債券と比較してかつてないほど割高」となりました。その結果として、株式が弱気相場(ITバブル崩壊)を迎えた経緯があります。

 現在に目を転じて、S&P500指数の予想PER(17.1倍)の逆数である益利回りは約5.8%で、長期金利(約2.0%)との差は-3.8%となっています。1992年以降における益利回りスプレッドの平均(-2.0%)と比較すると、「現在の米国株価は金利水準を加味したPER面でみると割高圏」とは言いにくいことがわかります。

 インフレと金利が低位安定するなか、業績見通し(EPS)が年後半から来年に向け回復すると想定するなら、米国株には上昇余地が見込めそうです。「高値警戒感があるうちが花」(上値余地がある)と言えるかもしれません。短期的な株価変動を交えて米国株堅調が続くなら、日本株にも好要因となると考えています。

 

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