トランプ大統領が選挙対策で側近に対して「ドル安誘導の方策」を探せと命令

 トランプ米大統領がドル安を望む姿勢を強調しており、大統領主導でドル売り介入に動くのでは? との見方が広がっている。

 ニューズウイークやロイターをはじめ複数の報道が出ているが、ニューズウイークの報道によれば、「トランプ大統領は7月に入ってから側近に対して、ドル安誘導の方策を探せと命じた。」という。

【<「強いドル政策」はかなぐり捨てて、再選のために動く可能性>

 ドナルド・トランプ米政権がドル安誘導をする可能性をほのめかしている。過去4つの政権が支持してきた「強いドル政策」を捨てるというのだ。

 トランプ大統領は以前から、中国やEU(欧州連合)などが意図的な通貨安で米国に輸出ドライブをかけていると声高に非難してきた。そのトランプ大統領がドル安誘導も辞さない姿勢に転じたのは、自ら世界の国々に仕掛けてきた貿易戦争のあおりで停滞している米経済の成長を後押しするのが狙いだろう。

 政治的な得点稼ぎのためにドル相場を押し下げたいというトランプ大統領の考え方は、何も新しいものではない。複数の報道によれば、トランプ大統領は7月に入ってから側近に対して、ドル安誘導の方策を探せと命じた。2020年の米大統領選前に景気を押し上げ、再選の可能性を高めるためだ。

 トランプ大統領は7月3日のツイートで、中国と欧州は「為替操作ゲーム」に興じていると非難し、米国もそれに対抗すべきだとの考えを示した。

 世界的な債券運用会社ピムコは、トランプ大統領は今後ドル安誘導に突き進むだろうと確信している。同社のマネージング・ディレクター兼グローバル経済アドバイザーのヨアヒム・フェルズは、トランプ大統領やトランプ政権の高官たちは、ドル安への関心を公言してきたと指摘。このことは、連邦政府が今後、為替市場に介入しかねないことを示唆していると彼は言う。

「主要な貿易国・地域の間でみられる通貨の冷戦は、2018年のはじめから休止状態だったが、いま再燃しつつある」とフェルズは指摘。さらに投資家に対するリポートには、こう書いた。
「米国をはじめとする主要国の政府や中央銀行が、自国通貨の価値を引き下げる直接介入に踏み切って本格的な通貨切り下げ戦争にエスカレートする可能性は短期的にはないものの、もはや完全には排除できなくなった」

<「強いドル政策」はかなぐり捨てて、再選のために動く可能性>

 ゴールドマン・サックスおよびバンクオブアメリカ・メリルリンチのストラテジストも、政府による市場介入のリスクは低いが「高まりつつある」と指摘。ゴールドマン・サックスのアナリストたちは、「トランプ大統領の通商政策にはこれまで何度も驚かされてきたので、市場は『何でもあり』の雰囲気になっている」と言う。】

(2019年7月18日 ニューズウイークTrump Considers Weakening Dollar Ahead Of 2020 Elections 「米ドル安誘導の予測、通貨切り下げ競争も排除できず」)

 トランプ大統領はグローバリストではなくナショナリストであり、米国内の仕事が増え、米国の経済が成長すればよいのである。エスタブリッシュメントと言われる既存のエリートたちにとっては、トランプ大統領の常識はずれな言動は到底我慢ならない考え方だろう。だが、トランプ大統領は単純な価値観に基づいて政策を決めている。

 貿易戦争も、トランプ大統領にとってはグローバルの経済やサプライチェーンがどうなろうが知ったことではない。彼が気にしているのは目の前に積み上がった米国の貿易赤字であり、米国の雇用だ。

 こうした発想の一環にあるのが今回の米中貿易戦争であり、為替相場も貿易戦争の中に含まれてくる。現在、日本との通商交渉は農産物がメインとなっているが、そのうち自動車と為替に飛び火してくるのも時間の問題だろう。