毎週金曜日夕方掲載

本レポートに掲載した銘柄

村田製作所(6981)TDK(6762)

1.電子部品セクターの最近の動き-自動車向けは順調だが、スマホ向けは生産調整-

 今回の特集は、電子部品セクターです。電子部品セクターの最近の動きを見て行きます。また、米中貿易摩擦、ファーウェイ問題の電子部品セクターに対する影響を考察します。比較対象として半導体関連セクターに対する影響も考えます。

 グラフ1~5は、経済産業省生産動態統計からとったセラミックコンデンサの生産統計です。コンデンサは、電気を貯め放電する、電圧を安定化するなどの重要機能を持っており、あらゆる電子機器や自動車などに数多く使われています。コンデンサの中でも小型で様々な仕様があるチップ積層セラミックコンデンサ(MLCC)は重要電子部品であり、村田製作所が世界シェア35~40%のトップです。

 セラミックコンデンサの月次生産金額は、おおむね前年比20%以上の伸びを示しています。2019年3月の生産金額は前年比26.7%増でした。これを見るとセラミックコンデンサの需要は順調と言えます。なお、このセラミックコンデンサ生産金額の40~50%が村田製作所と推定されます。

 しかし、生産金額を生産数量と生産単価に分解すると別の光景が見えます。村田製作所がチップ積層セラミックコンデンサについて2019年1月からほぼ全顧客向けの値上げに踏み切ったことから、1月からセラミックコンデンサの生産単価が大きく上昇しています。2018年12月から2019年3月までに24%上昇しました。村田製作所によれば、2019年1-3月期に約60%の顧客に値上げを実施し、続く4-6月期にも残りの30~40%の顧客向けに値上げしたもようです。このため、4-6月期は更に生産単価が上昇すると予想されます。

 チップ積層セラミックコンデンサを向け先別、品種別に見ると、長らく懸案だった自動車向けの古い品種で不採算になっていたものが値上げによって採算ラインに戻ったようであり、値上げには大きな成果があったと思われます。

 一方で、生産数量を見ると、2018年11月まではおおむね前年を上回る生産が続いていましたが、12月からマイナス成長に転じました。それまで好調に伸びていた流通業者向けで流通在庫が増えていました(流通業者の向こう側にはスマホメーカーもいると思われます)。また、今春になるとiPhoneなどの高級スマホの販売伸び悩みの影響も出てきたもようです。そのため生産調整が必要になったのです。6~7月からは今秋発売予定の新型iPhoneの生産に備えた調達が始まるため、生産数量は回復すると思われますが、米中貿易摩擦、ファーウェイ問題によって不透明感も出ています。

 価格動向を予想すると、前述のように4-6月期は生産単価は引き続き上昇すると予想されます。ただし、7-9月期に入って新型iPhone生産に備えた調達が始まると、需給関係を反映して値下げ→生産単価下落が起こりうる情勢です。このため、村田製作所のコンデンサ事業は、4-6月期までは価格効果で前年を上回る増益要因が発生するものの、7月以降は価格下落によって減益要因が大きくなると思われます。

 この結果、村田製作所の会社予想では、今期2020年3月期は17.5%営業減益となる見込みです。

 なお、TDKの場合は、村田製作所のように今期は減益とならず、11.3%営業増益となる見込みです。2018年3月期から個別企業ごとにチップ積層セラミックコンデンサ(TDKのコンデンサ売上高の60%強)の値上げを実施してきたこと、コンデンサ事業の中で村田製作所よりも需要が安定的に伸びている自動車向けの比重が大きいこと、赤字になっているセンサ事業、磁石事業の赤字縮小を見込んでいることによります。ただし、これは米中貿易摩擦やファーウェイ問題の進展によっても左右されます。

 電子部品セクター全体を見ると、コンデンサ以外の電子部品でも昨年から値上げしているものがあります。ただし、昨年は値上げが成功していたものが、今年に入ってスマホ向け中心に民生向け電子部品の需給が緩んできたため、値下げすることがあったり、値上げが上手く行かなかったケースが出ているようです。

グラフ1 セラミックコンデンサ生産金額

単位:百万円
出所:経済産業省生産動態統計より楽天証券作成

グラフ2 セラミックコンデンサ生産金額:前年比

単位:%
出所:経済産業省生産動態統計より楽天証券作成

グラフ3 セラミックコンデンサ:生産単価

単位:円/個
出所:経済産業省生産動態統計より楽天証券作成

グラフ4 セラミックコンデンサ:生産数量

単位:1,000個
出所:経済産業省生産動態統計より楽天証券作成

グラフ5 セラミックコンデンサ生産数量:前年比

単位:%
出所:経済産業省生産動態統計より楽天証券作成

 

2.米中貿易摩擦の影響

 米中貿易摩擦では、これまで3回にわたって中国からアメリカ向けの輸出に対してアメリカの追加関税が課せられています。第1弾は、2018年7月に中国からアメリカに輸出される340億ドルに25%の追加関税が課せられました。第2弾は同年8月に160億ドル、25%、第3弾は同年9月に2,000億ドル、10%でしたが、2019年5月に10%から25%へ追加関税が引き上げられました。

 そして、今年6月末以降に発動される予定の第4弾は、約3,000億ドルに最大25%の関税を課します。この結果、これまで追加関税を免れてきた、携帯電話(スマートフォン)、ノートパソコン、玩具、ゲーム機なども追加関税の対象となります。

 電子部品への影響は、まず、アメリカが中国から輸入する電子製品、特にスマートフォンの価格上昇による需要減少→電子部品需要の減少という形で現れると思われます。また、スマホメーカーが値上げ幅を抑えるために電子部品メーカーに値引きを要求したり、安い電子部品を使うようになることも起こると思われます。

 スマホなどのメーカーは、中国から他国へ生産地を変更しようとすると思われますが、特にiPhoneのような高級スマホはサプライチェーンが複雑なため、生産地の変更に手間取ると思われます。追加関税に対してスマホメーカーと電子部品メーカーが対応するには時間がかかりそうです。