物流パートナーは「国内は24時間配達」を標榜

 まず、事業のレイヤー構造から丁寧に見ていきましょう。

 アリババグループの事業を支えているのは、レイヤー構造の最底辺にあるクラウドコンピューティング「アリババ・クラウド」です。アリババグループのすべての事業は、アリババ・クラウドの上で動いています。

 物流を担うのは「ツァイニャオネットワーク(菜烏網絡)」。「中国内では24時間以内に必ず配達」「世界の物流会社とパートナーシップを組み、全世界どこでも72時間以内に必ず配達」というミッションを掲げているグループ企業です。

 EC企業向けには、物流データの監視や異常が発生した物流案件の処理をし、即時に正確な物流の状況追跡サービスを提供。テクノロジーを駆使し、企業の物流情報管理や異常物流の管理に協力して、物流コスト削減や物流サービスレベル向上に寄与しています。フーマーの商品調達時の配送は、ツァイニャオの物流システムの知見が担保しています。

 そして、フーマーが取り扱う生鮮食品の品質の担保には、トレーサビリティーに「アリババブロックチェーン」が使われています。フーマーの店頭では商品パッケージと値札にQRコードが添えられており、スマホのアプリで読み取ると詳しい情報を見ることができます。

 たとえば肉や野菜なら、産地、収穫日、加工日、店舗までの配送履歴がひと目でわかるのです。過去に多くの食品品質問題が起きた中国において、テクノロジーを活用した徹底的な情報開示は消費者の信頼獲得に大きく貢献しています。これほどのトレーサビリティーの実現は、世界でもあまり例がないかもしれません。

アリペイ利用歴をもとに信用情報を付与

 フーマーでの支払いはほとんどがアリペイです。アリペイを通じ、フーマーはオンラインだけでなくリアル店舗においても「どの顧客がいつ、どこで、何を買ったか」という詳細なデータを収集できます。そしてアリペイの利用歴などをもとに、個人に信用情報を付与するのが「ジーマクレジット(芝麻信用)」です。

 フーマーではこの情報が顧客の差別化に活用されていると考えられます。そしてフーマーのマーケティングを担うのは、グループ内のマーケティングテクノロジープラットフォーム「アリママ(阿里妈妈)」です。フーマーに商品を提供している企業は、アリママを使って販促を行うことも可能なのです。

 アリババのデジタルメディア&エンターテインメント事業の1つである「ヨーク(優酷)」は、中国最大の動画配信プラットフォームです。フーマーのプロモーションにも、ヨークの動画が使われています。

 食品のデリバリーに関しては、アリババが2018年4月に約1兆円で買収したフードデリバリー企業「Ele.me」の存在も気になります。フーマーにおける役割は現在のところ明確ではありませんが、Ele.meが中国で競争が激化している食品デリバリー事業の趨勢を占う上で重要なプレイヤーであることは間違いありません。

 2008年設立のEle.meは上海に本拠を置き、中国の2,000都市でオペレーションを行い、130万軒のレストラン、2億6,000万人のユーザーが登録しています。登録ドライバー数は300万人近くにも達するのです。

 2017年時点で、中国の食品デリバリー市場はアリババ、テンセント、バイドゥの3社が競っていましたが、Ele.meの買収により2018年末時点ではアリババグループが過半数のマーケットシェアをとっている状況です。