このおよそ1年間、米中貿易交渉が米中貿易摩擦に、そしてさらに米中貿易戦争へと激化しました。今回は、この過程で度々注目が集まっている、原油と大豆について解説します。報じられているとおり、大豆は中国が米国から輸入する際の関税引き上げの対象ですが(25%の追加関税)、原油はその対象ではありません。
中国が関税引き上げの対象としているかいないかの違いがありますが、大豆と原油には、“米国産当該品目の不買”、そして“代替国からの購入”という共通項があります。この2つの品目の状況を確認することで、中国の貿易戦争へのスタンスが見えてきます。
米中貿易戦争の全体像を把握。輸入額が大きい米国が有利!?
まずは、米中相互の貿易額について確認します。以下の図は米国の中国向け輸出額(米→中)、および米国の中国からの輸入額(米←中)です。
図:米国の対中輸出入額(1995年~2017年)
2001年の中国のWTO(World Trade Organization/自由貿易を促進する国際組織、日本語では国際貿易機関)加盟を機に、米国の中国からの輸入額(≒中国の米国への輸出額)が増加し始めます。米国への、人件費などのコストを抑えて製造された安価な中国産の商品の大量流入が始まりました。
米国の中国への輸出額(≒中国の米国からの輸入額)も増加する展開になりましたが、その増加の規模は、米国の中国からの輸入額の増加よりも小さいままでした。この貿易の不均衡は拡大の一途を辿ります。以下は、米国の対中、および中国の対米貿易収支(輸出額-輸入額)です。
図:米国の対中国、中国の対米国貿易収支(1995年~2017年)
一般的に、貿易統計には不可避な問題があると言われます。輸出する国とその品目を輸入する国における、当該品目の輸出額と輸入額が同一にならない問題です。輸出国から輸出される際、その額が商品の本体価格に輸送量と保険料が上乗せされることが多いこと、輸出時点と輸入時点に時間差が生じるが、それぞれの時点で参照する為替が異なること、当事国の慣例などが主な要因と言われています。
このため、上図「米国の対中国、中国の対米国貿易収支」において、2つの値の絶対値が同一にならない事象が発生しています。ただ、不可避な問題であるとしても、米中貿易戦争が顕在化する直前の2017年時点で、米国の対中貿易赤字(中国の対米黒字)は3,000億ドル前後に達していたことがわかります。
米国は貿易赤字の解消が急務の国であり、もともと赤字額が最も大きい相手国である中国との貿易赤字を縮小させる動機がありました。拡大の一途を辿る対中貿易赤字を解消すべく、歯に衣着せぬトランプ米大統領が、知的財産権の侵害をきっかけにメスを入れ、米中貿易戦争を激化させたわけです。
上図「米国の対中国輸出入額(1995~2017年)」のとおり、2017年時点で、米国の中国からの輸入額はおよそ5,260億ドル、中国の米国からの輸入額は1,540億ドルです。(UNCTADのデータより)
輸入品に追加関税を上乗せし合う、いわゆる関税の引き上げ合戦において、“数千億ドル相当の輸入品に対して”という報道がありますが、まさにその数千億ドルというのが、これらの輸入額のことです。米国の中国からの輸入額はオレンジ線、中国の米国からの輸入額(グラフ内では米国の中国への輸出額として記載)は青線です。
関税は、通常、国境を越えて運ばれてくる品物に対して、国内産業の保護などを目的に輸入国の税府によって課される税金です。納税義務者は、一般的には輸入業者とされています。関税が引き上がった場合、国外からの安価な品物の流入が抑えられて国内産業保護が強まる、輸入業者の税負担が増える、輸入国の税収が増える、対象品目を輸出していた業者(農家など)の収入減少、同品目の在庫増加、などの影響があります。
特に、相手国および品目を指定した関税の引き上げは、指定された国からの当該品物の流入が減少します。仮に輸入され、国内に流通した場合でも、関税の上乗せ分がコストを上昇させ、当該品物の価格競争力が低下します。
しかし、“米国第一主義(America first)”をかかげるトランプ政権率いる米国と中国の間で、この1年間に行われてきた関税の引き上げ合戦は、特定の品目ではなく数千にのぼり、額にすれば全額に近い品目に対する関税引き上げが実施・検討されています。
その意味では、双方、輸入業者の税負担や税収増加などの税金面、および国内産業の保護、対象品目を輸出する業者への影響などではなく、例えば米国であれば、従来からの大きな懸案である貿易の不均衡の是正、中国であれば、売られた喧嘩を買うことで、米国に対して強硬姿勢を示し、むしろそれを世界の覇権争いの糧にする、などの、より広範囲な目的のために、劇場型ともいえる貿易戦争を行っていると言えます。
米国の中国からの輸入額は、中国の米国からの輸入額よりも大きいため、関税引き上げを行った場合、輸出しにくくなる度合の大きさ(貿易戦争における全体的な負のインパクト)で言えば中国の方が大きくなると筆者は考えています。