「AI×医療」「AI×自動運転」に注力するテンセントの戦略

 中国政府が発表した「次世代人工知能の開放・革新プラットフォーム」(2017年11月)において、テンセントは「AI×医療画像」に関する国策事業を委託されました。その背景には、もともと医療に関するAI研究で一日の長があったテンセントへの中国政府の期待があると考えられます。

 テンセントは、顔認識などのAI技術を結集し2017年8月に「AI医学画像連合実験室」を設立、食道がんの早期スクリーニング臨床実験の仕組みを整えています。従来医療画像の読影は医師の技量と経験に頼らざるを得ない面がありましたが、AIを活用しより精度を高めようというわけです。

「AI×自動運転」では、テンセントは、米国の電気自動車メーカー・テスラの株式を5%保有するほか、2016年12月には高精度3次元地図プロバイダーのドイツHEREと戦略提携を結びました。テンセントはこの提携をもとに、中国市場向けのデジタル地図サービスを展開するほか、自動運転に利用する高精度位置情報サービスも構築するとしています。2017年11月には自動運転技術に関わる研究施設を北京に開設。2018年11月の広州モーターショーでは、広州汽車と共同でテンセントの「AI In Car」搭載自動車の開発も発表されています。

アリババの「ニューリテール」に対抗するテンセントの「スマート・リテール」

 アリババがフーマーで「ニューリテール(新小売)」を展開しているのに対し、テンセントも同様に、OMO戦略を採用、それを「スマート・リテール」と呼んでいます。

 テンセントは、中国EコマースのBtoC市場でシェア2位の座にある京東(JD)の筆頭株主です。JDは2015年に中国の大手スーパーマーケットチェーン「ヨンフイ」と戦略提携し10%の株式を保有していますが、2017年12月にはテンセントもヨンフイの株式を取得。2017年1月、ヨンフイはフーマーで好評を博しているグローサラントサービスと同じコンセプトを打ち出し、新ブランドのOMO店舗「チャオジーウージョン」をスタートさせました。決済システムでのアリペイ対ウィーチャットペイに加えて、OMO戦略においてもアリババ「フーマー」対テンセント「チャオジーウージョン」という競争が始まったわけです。

 プラットフォームを活用、ユーザーを囲い込むことによって顧客接点をより強固にする。そして、より幅広いサービスにおいてプラットフォームの覇権を握る。それがテンセントの戦略です。短期的には、「オンラインゲーム」での政府規制強化といった収益上の懸念材料はあります。一方、長期的にはテンセントが「テクノロジーの総合百貨店」へと変貌を遂げていくかが注目ポイントとなります。


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