OPEC側の減産が、実態以上にうまくいっていると評価されている点に注意
現在、“OPECプラス全体として”減産がうまくいっているとみられます。
しかし、問題点は少なくありません。仮に6月の総会で減産順守率を100%に調整する(引き下げる)という、2018年同様の内容で決定した場合、これらの問題点が後の原油相場の下落要因に発展する可能性があるとみています。
問題点を考える上で、OPECプラス24カ国は、OPEC14カ国(サウジなどの減産参加国11カ国、イランなどの減産免除国3カ国)、そしてロシアなどの非OPEC10カ国に分けられることを念頭に置く必要があります。
問題点は2つあり、1つはサウジの減産余力が低下している点です。
以下は、減産に参加するOPEC11カ国をリードするサウジの原油生産量の推移です。2017年1月の協調減産開始以降、最低水準まで減少していることがわかります。
図:サウジアラビアの原油生産量
2017年1月の協調減産開始以降、サウジの原油生産量は、日量およそ980万バレルが底となっています。
サウジを含め、減産に参加する11カ国は、OPECの名の通り“石油輸出国機構”であり、石油の輸出量がその組織の要(かなめ)であると言えます。その輸出量を支えるのが生産量であるため、生産量が減少しては、組織の要を維持することが難しくなります。
生産量が一定水準以下になると、組織そのものが立ち行かなくなるリスクが生じるとみられ、ある一定以上の生産量を維持することが求められます。その一定以上の水準が、日量およそ980万バレルという協調減産開始以降、下回ったことがない現在の水準と考えられます。
サウジを中心としたOPEC11カ国もほぼ同様の状況にあり、サウジもOPEC11カ国全体としても、これ以上減産幅を拡大することが難しい水準まで減産を実施している可能性があります。
6月の総会でより大きい増産枠を獲得するには、減産順守率をさらに引き上げておくことが重要ですが、OPEC側ではこれ以上の削減は困難な状態にあり、協調相手であるロシアを中心とした非OPEC10カ国の削減幅が拡大することが望まれます。
問題点の2つ目は、そのOPECの減産が実態以上にうまくいっていると見えている点です。OPECは現在14カ国あり、そのうちベネズエラ、リビア、イランの3カ国は減産に参加していない減産免除国です。
以下のグラフのとおり、一見するとOPECの減産へ取り組む温度感は非常に高いように見えます。
図:OPEC全体の原油生産量
現在の減産の基準月である2018年10月と2019年4月を比較すると、OPEC全体で日量304万バレル減少していますが、2018年12月にOPECを脱退したカタール(日量およそ60万バレル)を除けば、OPEC14カ国で日量244万バレル減少している計算になります。
そのうち減産に参加している11カ国の減少分は日量124万バレル(50.8%)で、減産免除国3カ国の減少分は日量120万バレル(49.2%)です。減産免除国3カ国(ベネズエラ、リビア、イラン)の生産量減少への貢献度は、減産参加国11カ国に匹敵します。
OPECの減産(OPECプラス全体ではない)はうまくいっているように見えますが、カタール脱退を考慮し、減産順守率に関わる11カ国とそうでない免除国3カ国に分けてみると、OPECの減産は盤石の体制でないことが分かります。
OPECの減産は、カタール脱退の数字上の誤解や、減産をするべき国よりもそうでない減産免除国の生産減少(減産と言わないのは、生産調整ではなく制裁や政情不安に起因した生産減少であるため)によって、減産が順調であるように見えていると言えます。
このような状況で、昨年同様、6月の総会で増産ができることを決定すれば、減産するべき国の増産が始まり、その増産の実態を減産免除国の生産減少がさらに見えにくくするとみられます。
現在の原油市場はどちらかと言えば、上昇要因を強めに材料視する傾向があると筆者は感じています。その意味では、(これも昨年同様ですが)サウジやロシアがイランの減少分を上回る増産をしたとしても、イランの減少分を補うためであるから(容認できる)というムードが生じたり、免除国の生産減少が増産を過少に見せたりする(時には見えなくする)可能性があります。
2018年 10月初旬に発生した世界同時株安の後、原油相場の急落が年末まで止まらなかったのは、下落要因探しが始まった際、実はサウジやロシアがイランの生産減少分を上回る増産をしていたという、見過ごされてきた下落要因が、その時に材料視されたことが要因の一つだったと筆者は考えています。
OPECプラスの減産順守率は100%を超えているとみられますが、OPEC11カ国の減産が限界に達しつつあることが減産免除国の生産減少の裏に隠れていること、非OPECの減産が不十分であることなど、決して盤石ではありません。
仮に6月の総会で増産ができるようになった場合、さらにこれらの点に気を付けていく必要があります。冷静に、現在の減産を、そして総会後の減産の姿を見守ることが重要であると筆者は考えています。
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