紙幣刷新で日銀は儲かる?損する?
差し引きで日本銀行がかなり儲けるように思えますが、日本銀行は金融機関が預けた日銀当座預金からの引き出しに応じて銀行券を発行するため、金融機関と日本銀行では同額の交換になり利益は出ません。むしろ、紙幣を印刷局から購入する費用が負担になります。
では、日本銀行はどうやって利益を得ているのかというと、銀行などの金融機関から国債等を購入して、利子を得ています。最近では、ETFの配当金も増えています。購入した金額(資産)と同じ額だけ当座預金(負債)が増えるので、購入しただけでは利益は生まれず、利子や配当が通貨発行益(シニョリッジ)になります。
紙幣のデザイン決定は財務大臣なので、改刷には時の大臣の想いが反映されることがあるようです。2004年の改刷は2002年8月に公表されたのですが、小泉純一郎首相も塩川正十郎財務相も慶應義塾大学出身。当時、福沢諭吉が1万円札の肖像に続投した理由が取り沙汰されました。
実業家・渋沢栄一になったのは、意外だった
公式には、「発行枚数が一番多い1万円札の肖像は見慣れた顔が良い」という趣旨でしたが、信じていない方も多かったと思います(私自身もそうです)。現在の1万円札の発行枚数は約1.6倍になっていますし、改刷の報道まで渋沢栄一の顔をご存じない方もいらしたと思いますので、やはり当時の公式見解は苦しい気がします。
実業家が紙幣、しかも最高額面に選ばれることは世界的にも珍しいです。米国100ドル札のベンジャミン・フランクリンは事業で成功し、発明家の顔を持つとはいえ、政治家としての業績で採用されました。渋沢栄一も多彩な顔を持ちますが、第一国立銀行(合併等を経て、現在のみずほ銀行)などを設立した実業家として知られています。麻生太郎財務相らしいセレクションと言えそうです。
デザインは公表されましたが、今後、細部が詰められていく予定です。現在発行している紙幣の作製方法を踏襲するのであれば、国立印刷局に勤める工芸官が背景の幾何学模様を除き、紙幣の原画を手書き・手彫りして原版を作成します。
虫眼鏡でないと確認できないマイクロ文字も手彫りです。工芸官は1mm幅に10本以上の線を彫ることができると伺ったことがあります。改刷に向け、印紙や証紙などの原版を作りながら、日々、腕を磨いているそうです。
改刷が約20年に1度なのは、工芸官の技術継承を確実なものにするためでもありますし、各種の作業や手続きを知る方の知恵を伝えるためと言われています。偽造券が増えなくとも、30年経ってしまうと、20代で改刷に関わった方は50代になります。
現場から離れている方もいれば、退職・転職される方も増えます。バラバラに改刷したのでは、ATMやレジ、自販機などの改修コストがかかり過ぎるので、一斉に20年周期で改刷することは理に適っています。