毎週金曜日夕方掲載
本レポートに掲載した銘柄
任天堂(7974)、ソニー(6758) 、バンダイナムコホールディングス(7832) 、カプコン(9697)
1.家庭用ゲーム市場の最近の動き
今回の特集は、ゲーム株です。家庭用ゲーム市場の最近の動きを概観し、2020年3月期を展望します。また、グーグルが発表したクラウドゲームサービス「Stadia(スタディア)」の家庭用ゲーム市場への影響を考察します。
家庭用ゲーム市場の昨年2018年11~12月のクリスマスシーズンは、ニンテンドースイッチ中心に好調でした。ニンテンドースイッチは、昨年11月下旬に一時的にソニーの積極的な拡販策の影響を受けたものの、11月下旬から12月下旬までハード、ソフトともに好調でした。VGChartzによれば、2018年11~12月のニンテンドースイッチ・ハード販売台数は前年比37%増、同ソフト販売本数は同2.1倍となりました。
一方、ソニーのプレイステーション4(PS4)は、感謝祭(2018年は11月22日)の翌日のブラックフライデー、その翌週月曜日のサイバーマンデーは、ハードの期間限定値引きなどの積極策で順調でしたが、12月に入るとハード販売が失速しました。VGChartzによれば、2018年11~12月のPS4ハード販売台数は、前年比13%減となり、同ソフト販売本数は同7%増となりました。
グラフ1~4は、ニンテンドースイッチとPS4のハード、ソフト販売本数の推移と、週次ベースでハード1台につきソフトが何本売れたか(週次ソフト販売本数÷週次ハード販売本数)を示したものです。いずれのグラフを見てもニンテンドースイッチに勢いがあることが分かります。ニンテンドースイッチはグラフ2(ハード1台当たりソフト販売本数)が緩やかな右肩上がりのグラフになっていることから、ハードウェアの累積効果(これまでに販売された累計ハード1台につき何本のソフトが売れたか)が強く発現していることが分かります。
一方PS4は、グラフ4が横ばいになっていることから、ハードウェアの累積効果が出尽くした状態になっていると思われます。PS4は2013年11月の発売以来6年目に入っているため、ハードは既に下降局面入りしており、ソフトもいずれ下降局面入りすると思われます。
VGChartzでは、現時点ではソフト販売本数は昨年末までしか公表されていませんが、ハード販売台数は2019年3月16日に終わる週まで公表されています。それによれば、2019年1~3月のハード販売台数は、ニンテンドースイッチが前年比28%増、PS4が同20%減となっています。勢いの差が明らかになっています。
グラフ1 ニンテンドースイッチ・ハード、ソフト販売数量:全世界
グラフ2 ニンテンドースイッチ・ハード1台当たりソフト販売本数:全世界
グラフ3 PS4、ハード、ソフト販売数量:全世界
グラフ4 PS4・ハード1台当たりソフト販売本数:全世界
グラフ5 ニンテンドースイッチとプレイステーション4:ハードウェア販売台数比較
2.ニンテンドースイッチとプレイステーション4の2020年3月期見通し
2019年3月期のニンテンドースイッチ・ハード販売台数は、4Qの伸びによって、会社予想1,700万台を上回る1,800万台が予想されます(2018年3月期は1,505万台)。ソフトも倍増ペースで伸びているため、楽天証券では会社予想1億1,000万本を上回る1億2,200万本を予想します(2018年3月期は6,351万本)。
また2020年3月期を予想すると、任天堂はまだニンテンドースイッチ・ハード販売台数を伸ばす余地があると思われます。楽天証券では2020年3月期のニンテンドースイッチ・ハードを2,000万台、同ソフトを1億6,000万台と予想します(2019年3月期、2020年3月期とも前回予想と同じ)。
ただし、もし任天堂が何もしなければ、2020年3月期でニンテンドースイッチのハード販売台数は頭打ちになると予想されます。ソフトはもう1期伸びて2021年3月期がピークとなり、今回のゲームサイクルにおける任天堂の業績のピークは2021年3月期になる可能性があります。
そこで焦点となるのが、昨年後半から報道されているニンテンドースイッチの新機種が発売されるのかどうかです。最近の報道によれば、性能を向上させた上位機種と機能を制限した下位機種(小型機)を早ければ今年夏に発売するということです。会社側はこれらの報道に関してノーコメントですが、実際に新機種が発売される場合、市場が消滅に向かっている3DSをニンテンドースイッチ小型機が代替することになると思われるため、小型機の業績へのインパクトが大きいと思われます。その場合、業績のピークが1年程度伸びて2022年3月期になる可能性があるため、業績と株価へ良いインパクトが期待できると思われます。
一方でPS4は、前述のように既にハードが下降局面入りしています。オンラインサービスや追加コンテンツの充実を図ってきた効果が出ているため、ソフト販売金額が順調に伸びており、そのため、ソニーのゲーム&ネットワークサービス事業の営業利益も高水準です。ただし、これ以上の業績が期待できるとは思えないため、ソフト販売本数と販売金額もおそらく2021年3月期には下降局面入りすると予想されます。
ソニーのゲーム&ネットワークサービス事業の問題は、「プレイステーション5(PS5)」がいつ発売されるのかということです。ゲーム&ネットワークサービス事業が今のような年間3,000億円以上の営業利益を挙げている状態ではPS5を出すことはないと思われます。ただし、営業利益が減少し始めてそのスピードが速い場合、早めに世代交代を図る可能性はあると思われます。楽天証券ではPS5発売の時期を2021年3月期以降と想定しています。
3.グーグルが新しいゲームサービス「Stadia」を発表した
3月19日、アメリカで開催されたGDC(ゲーム・デベロッパーズ・カンファレンス)において、グーグルは新しいゲームサービス「Stadia(スタディア)」を年内に開始すると発表しました。
スタディアは、CPU、GPUをネットワーク上(クラウド上)に置き、端末にゲームをストリーミング配信するゲームサービスです。ゲーム専用機とダウンロードは必要なく、手持ちのパソコン、スマートフォン、テレビでゲームがプレイ出来ます。ただし、テレビでプレイする場合はクロームキャスト(4,500~5,000円、4K版のウルトラは約9,700円)に接続する必要があります。
グーグルでは年内にサービスを開始する予定で、価格は未定です。月額定額制になる可能性もあります。また、最初の配信地域は北米と欧州の大部分で、日本は未定です。
クラウドネットワークを使ったストリーミングゲームサービスは特に目新しいものではなく、ソニーの「プレイステーション ナウ」や任天堂のサービスがあります。例えばプレイステーション ナウは現時点で400タイトル以上のPS3、PS4のソフトが遊べるようになっています。PS4だけでなく、Windows PCからでも遊べます。料金は定額制で3カ月利用権が5,463円(税抜き)です。ただしソフトは旧作ばかりで新作はありません。これは、ゲーム会社(サードパーティ)にとってもソニーにとっても、新作ソフトは売り切りにしたほうが収益寄与が大きくなるからです。
また、任天堂もニンテンドースイッチでクラウドゲームを数タイトル配信していますが、実験的な意味合いが強いものになっています。ソニー、任天堂のほかにもクラウドゲームを展開している会社はありますが、今のところゲーム市場の中心にはなっていません。
このようにクラウドゲームのサービスは既に複数のサービスが展開されていますが、技術的な課題があります。「遅延」が問題になるのです。要するに、配信されたゲームをプレイする時に、ネットワークの回線スピードが遅いために、操作と画面の変化にタイムラグが生じる場合があるのです。そのため、現在配信されているクラウドゲームのソフトは、遅延があるとプレイしにくい動きの激しいアクションゲーム(格闘ゲームなど)や多人数型のオンラインゲームは少なく、それ以外の1人でプレイする普通のゲームが多くなっています。
この問題をグーグルがどのように解決するのかというと、世界各国のユーザー端末に近いところに大量のサーバーを置いて遅延の問題を解決するもようです(エッジコンピューティング)。この場合、グーグルは大規模な設備投資を行う必要があります。また、ユーザーとのラストワンマイルの回線スピードは、5G(第5世代移動通信)が普及すればかなり解決されると思われます。実際には、このサービスが始まって大勢のユーザーがプレイしてみなければ遅延の程度が受容範囲内かそうでないのか分りません。ただし、グーグルが遅延の問題を解決したとすれば画期的なことです。
このように、スタディアが成功すれば、クラウドゲームが家庭用ゲーム、スマホゲーム、パソコンゲームに続くゲームの一つの分野として定着する可能性があります。