勘違い4:ブローカーよりもクリーンな仕事だと思っていた

 マーケットの世界では、注文を出す顧客側は「バイサイド」と呼ばれ、注文を受ける証券会社(ブローカー)側は「セルサイド」と呼ばれる。ファンドマネージャーはもちろん「バイサイド」だ。今はそう簡単ではないが1980年代後半では象徴的にいうと、接待をする側は「セルサイド」であり、接待された御礼に注文を出すのが「バイサイド」だった。ビジネス上、精神的にはバイサイドが優位にあるが、より儲かるのはセルサイドである場合が多かったように思う(もちろん個人差はあるが)。

 バイサイドで仕事をされた経験のある方はおわかりいただけると思うが、バイサイドから見て、セルサイドの仕事は「汚く」見える(逆に、セルサイドの人はバイサイドの人を「のろま」だと思うことが多い)。かつての筆者は、バイサイドは自分の運用パフォーマンスの向上と顧客のメリット・喜びが重なる良い仕事だと素朴に思っていた。

 しかし、後年、バイサイドがやっていることは、提供できるかどうか本当はわからないリターンを顧客に期待させつつ手数料を取り、リスクや結果は顧客に押しつける行為なので、「顧客に取り入って、手数料を稼ぐ」というビジネスの本質はセルサイドと同じであることに気づいてしまった。

 運用の世界にあっても、職業に貴賎(きせん:身分の高い人と低い人)はないのだった。現在、どちらも必要な仕事だが、職業倫理としては、自分は顧客から過剰な利益を得ているのではないかと常に自問することが必要だろう。

 当然のことを理解するのに随分時間がかかったものだと、われながら恥ずかしい思いだ。

 

勘違い5:バイサイドの立場は強いと思っていた

 ファンドマネージャーは、投資する側なので、投資先企業の経営者に対し概して強い立場で面会することができる。証券会社からだけではなく、投資先あるいは投資候補先からも「下にも置かない扱い」を受けることができる職業だ。

 かつて勤めた外資系運用会社のイギリス人ファンドマネージャーが「ファンドマネージャーはいい商売だよ。調査を名目に旅行もできるし、相手が社長でも会うことができて、頭を下げなくていい」と言っていたのを筆者は覚えている。現在もそうなのかもしれないが、ファンドマネージャーが企業に丁重に扱われる時代はピーク・アウトしたのではないだろうか。

 近年は、インデックス運用の拡大でファンドマネージャーの意思決定の幅が狭まっている。また、年金基金のような運用資金のスポンサーが株式の議決権行使にあれこれ口を出すようになってきた。企業の経営者から見て個々のファンドマネージャーの重要性が低下しつつあるのではないだろうか。

 もっとも、この点は筆者にとってあまり重大な問題ではない。

 その理由は、筆者が、正直なところ、アナリストやファンドマネージャーが、投資先の企業経営者やCFO(最高財務責任者)にインタビューしたりする行為が、運用パフォーマンスの改善にたいして有効だと考えていないからだ。ビジネスの機微に触れるような内容を、その事業を営む会社の経営者と対等に話せるとか、まして相手を評価できるとか思うのは、多くの場合、僭越(せんえつ)な勘違いだろう。

 筆者の知る限り、昔からファンドの運用はこのような気持ちのいい勘違いに浸りながら上手くできるような甘い仕事ではない。ただし、こうした勘違いの様は対素人顧客向けにはなかなか有効な場合もあるので、ビジネスは複雑だ。