勘違い2:インデックスに勝てないがアクティブ運用は残ると思っていた

 筆者は、一貫してアクティブ・ファンドのファンドマネージャーだった。だが、かなり早い時点で、アクティブ運用がインデックス運用に勝てないことを理解し、実感した(最初の運用会社の先輩達のおかげだ)。運用手数料とファンド内の売買コストの影響が大きいが、商品としてのアクティブ・ファンドは、

(1)平均的にはインデックス・ファンドに負ける

(2)アクティブ・ファンドに投資することは経済合理的ではない

(2)については、相対的に優秀なアクティブ・ファンドを(事後的にではなく)事前に選ぶ方法がないためである。これは、投資理論の言う「市場の効率性」とは無関係に成立する頑健な事実だ。しかし、(A)アクティブ運用自体には工夫の余地が多々ありそうに見えたし、(B)アクティブ運用の方が面白いと思う人は一定比率以上残りそうだった。(C)さすがにアクティブ・ファンドも運用フィーを現実的・競争的な水準まで下げるだろう。このため、仕事としてのアクティブ運用は将来も安泰だろうと思っていたのだった。

 現在もアクティブ・ファンドは多数残っているので、「勘違い」の結論を出すのは時期尚早であるかもしれない。しかし、(A)は意外なくらい進歩がなかったし、(B)については運用業界の外から眺めてみると大いに疑問がわくところだった。(C)については投資信託でいうと1990年代半ばにアクティブ・ファンドはむしろ運用手数料が上昇し、現在もおおむねその水準にあり、運用商品として他人に勧められるようなレベルのものになっていない。

 (3)については、運用管理の手数料引き下げを望みたいところだが、ビジネスとして考えると、ブランド品は値下げが難しいのと同様のマーケティング戦略上の問題があり、運用会社にとって簡単ではない。アクティブ運用について、筆者はその仕事が好きであったために、希望を将来に投影し過ぎていたように思える。
 

勘違い3:投資理論の応用は、進歩し続けると思っていた

 筆者は、投資理論の研究をする部署にいたこともあり、世界的に標準となっている投資分析のソフト開発会社に勤めていたこともあるため、広い意味での投資理論の応用に積極的だった。おおよそでいうと「クオンツ・アクティブ」と称されるようなスタイルの運用をしていたとイメージしてもらっていい(そもそも「クオンツ」と「ジャッジメンタル」の区分は無意味だと思っているのだが、その種の話はまた別の機会に取りあげよう)。

 日本の運用業界が「モダンポートフォリオ理論」を大規模に取り入れたのは1980年代半ばくらいからで、理論としてはCAPM(資本資産価格モデル)、APT(裁定価格理論)、ツールとしてはマルチファクター・モデルなどが実務の場で使われ、その後オプション価格理論を中心としていわゆる「金融工学」が流行り、1990年代には「行動ファイナンス」が注目された(個々の専門用語にご興味のある向きは、証券アナリスト試験の参考文献を参照されたい)。

 筆者は、新しい理論が海外から導入され、これを新しい運用方法のいわば「ネタ」として活用していく流れは強化されていくものなのだろうと思っていた。しかし、行動ファイナンスの後に画期的といえる新研究がほとんど登場せず、運用現場のファンドマネージャーの理論やツールに対する理解・習熟が、筆者が思っていたようには進まなかった。

 前者について、たとえば近年の「証券アナリストジャーナル」には、運用方法のネタになるような理論研究の論文はほとんど載らず、企業のガバナンスや金融ジェロントロジー(ジェロントロジーの訳語は「老年学」)といった業界内のオピニオン交換のようなテーマが増えている。また、後者については、ファンドマネージャーの投資理論に対する理解やポートフォリオのリスク分析に対するスキルなどは、1990年代より後退しているかもしれない。

 なお、AIや高速トレードなどは、主として機械の進歩であって、運用理論や運用方法自体の進歩ではないと筆者は理解している。研究分野ごとに研究が進歩し盛り上がる時期と、そうではない時期があるのかもしれない。また、投資理論の応用という意味では、「理論で儲かるものではない」という経験を人々が積み過ぎてしまい、情熱が薄れたのだろうか。

 今の筆者は、肩すかしを食ったような気分で少々残念に思っている。