どうして統計不正が起きたのか?
厚労省の毎月勤労統計の不正は極めて悪質です。この他にも程度は違いますが、政府統計をめぐる不正やミスのニュースが次々と明らかになっています。多くの政府統計は中央省庁の官僚だけで作れる代物ではなく、地方自治体の統計調査員が実地で「足で稼ぐ」ことで成り立っています。賃金構造基本統計を作成するための調査では、調査員が訪問して調査するルールでした。しかし、実際には郵送調査を行っており、その事実を25年以上にわたり、厚労省が隠ぺいしてきた疑いが報じられています。
(出所: 2019年2月5日付 毎日新聞朝刊)
調査員による訪問調査では人件費がかさむので、予算不足を取りつくろうために郵送調査でごまかし続けていたようです。政府統計の予算・人手不足はかねてから懸念されていましたが、毎月勤労統計の不正発覚を契機に点検をした結果、長らく放置されていた問題が一気に表面化しています。構造的に予算・人手不足である以上、いくら犯人捜しをしても、不正やミスは再発します。日本の場合、省庁が縦割りで統計業務の効率化がなかなか進まないという問題もありますし、IT化の遅れもあります。税務データを有効活用できていないことも挙げられるでしょう。
日本のGDPは過少推計に
やや大きな話になりますが、日本のGDPは過少推計になっていて、実際はもっと大きいかもしれないという論文があります。日本銀行の職員による論文で、税務データを用いたGDPの試算値が推計されているのですが、2014年度は公表されているGDPと約30兆円の乖離(かいり)があり、過少申告がある税務データを用いた試算値が大きい値になっています。
(出所:『税務データを用いた分配側GDPの試算』)
さらに、GDPは速報と確報の修正幅が大きいこともあり、たびたび精度が疑われています。もし、税務データを用いた試算値が正しいとすると、消費税が5%から8%に引き上げられた2014年度もしっかりと成長していることになり、今年10月の消費増税に合わせた各種の対策がそもそも必要なのかという話になります。
日本の統計はこの他にも多くの問題をはらんでいます。例えば、消費者物価指数の基礎となる「家計調査」は報告する負担が重く回答できる家計が限られますし、「小売物価統計調査」は実店舗ベースです。日本の平均的な姿とは言えなくなってきています。
統計部署の予算や人手を確保して、調査方法の見直しを含め、統計を立て直すことができるか。かつてないほど統計に注目が集まっている今、改革に向けて動き出すことができなければ、二度と立て直す機会は訪れないのではないか。それほど、日本の統計にとって重要な局面にあるように思います。