年金への影響

 年金の将来見通しには、人口動態だけではなく、経済成長率や物価、そして賃金の予測が必要で、そのためには過去のデータを長期間にわたって参照する必要があります。5年前の財政検証はアベノミクスの成功を前提としていましたので、今年の財政検証は厳しい結果になると予想されていました。統計の不正で前提となるデータの正当性まで問題になると、財政検証の作業は難航する可能性があります。前回のスケジュールを踏襲すると、7月の参議院選挙前に検証結果が公表される見込みでしたので、公表時期が気がかりです。
 

海外投資家の視線

 日本人投資家だけではなく、海外投資家の視線も気になります。毎月勤労統計はGDP(国内総生産)の雇用者報酬の推計などに使われており、こうしたデータはOECD(経済協力開発機構)などの国際機関に報告されています。また、賃金の動向は経済が好調かどうかを考えるための尺度の一つなので、この数字に不正があると国際的な信用を損ないかねません。不幸中の幸いで、今は海外ではブレグジット(EU[欧州連合]からの英国脱退)や米中貿易摩擦の話題が中心ですが、国会で統計不正についての論戦が長引くと、さすがに海外から悪い意味で、必要以上に注目されかねないと思います。
 

個人投資家への影響

 投資にはいくつかスタイルがあり、企業分析を中心にして個別銘柄を購入する手法もあれば、マクロ経済を分析して当該国のインデックス(日本で言えばTOPIX[東証株価指数]など)で運用する手法もあります。政府統計の不正は、企業に例えるなら粉飾決算のようなものですので、投資家が及び腰になるのではと懸念されます。毎月勤労統計の不正で、すでに雇用保険の過少給付が生じていますし、不足分を給付する事務費用に約200億円もかかる見込みです。こうした分かりやすい実害だけではなく、前向きな国会審議のための時間が失われ、国民の意思決定をゆがめ、さらには国際的な信用が失墜しかねないという事態になっています。