連日、政府統計の問題がTVや新聞などで報道されている「統計不正の影響」について考える
公的統計は「国民にとって合理的な意思決定を行うための基盤となる重要な情報」です。中でも特に重要な基幹統計に不正があると、正しい意思決定ができなくなる懸念が高まります。政治家が政策を間違えることもあれば、有権者がどの政治家に選挙で投票すれば良いかという判断を間違えることにもつながりかねません。企業の経営判断や有価証券投資にも統計は影響を与えることがあります。
毎月勤労統計の不正の影響で、2018年1月以降の賃金の伸び率が実勢よりも高く出ていました。「給料が増えているなら、財布のヒモが緩んで、小売業や個人向けサービス業の業績が良くなるに違いない」と考えた方にとっては、前提条件が崩れたことになります。
統計法には罰則が規定されていて、
第六十条:次の各号のいずれかに該当する者は、6カ月以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する
とあります。厚生労働省が行った不正は第二号に該当すると考えられますので、今後、検察による捜査が行われる可能性があります。
今後の影響は?
国会の会期中に検察が厚生労働省に立ち入ることができるのか、という問題はありますが、過去のメールまで調査するのであれば、専門的なスキルが必要ですし、時間もかかります。なぜ不正が行われたのかという原因究明は、再発を防止するためにも必要なことです。しかし、いくら国会で糾弾してもすぐに不正の原因が明らかになるわけではないので、予算や重要な法案のほうに議論の時間を割くべきだと思います。
今回明らかになった毎月勤労統計で不正が認められる中には、原データが廃棄された期間があります。そのため、正当な手法で行った実勢に近い再集計値は、現在、2012年以降のデータしか公表されていません。リーマン・ショックによる不況期や東日本大震災が起きた直後の重要データが確認できず、研究者やエコノミストは困惑している状態です。また、今年は5年に一度の財政検証があります。財政検証とは聞き慣れない言葉ですが、国民年金および厚生年金の財政の現況や見通しを作成することで、将来の公的年金を展望するという重要な検証です。