企業のサバイバル時代から個人のサバイバル時代へ

 平成を振り返ると、「企業は復活を遂げたが、家計は厳しいまま」と言えそうです。そうした厳しい状況の中、個人の老後資金の形成も自助努力・自己責任が問われる時代になりました。

 金融庁が提供している、国民の資産形成促進のためのビデオクリップ教材「制度篇:非課税制度(つみたてNISAとiDeCo・企業型DC)」では、自助努力が謳われていますし、そもそも投資は自己責任。会社を経営するような視点で資産形成をしましょう、とさえ提言されています。

 平成の次の時代はどうなるのでしょうか。楽観的な意見もあるでしょうが、私は不興を覚悟で、敢えて悲観的な立場から警句を発したいと思います。

 平成を通じて、会社は社員を守らなくなりました。利益を給料の形で社員に還元せず、内部留保を積み上げています。老後の生活資金はセーフティーネットの意味合いで政府が担うはずでしたが、そこに自己責任・自助努力が求められています。

 消費税は急速な景気の悪化がなければ、来年10月に10%に引き上げられる予定です。平成元年(1989年)4月に3%の消費税が導入され、30年で10%に達しますが、財政収支を均衡させるにはまだまだ不足だと言われています。

 経済成長率や金利動向等の様々な仮定に依存しますが、マクロ経済や財政の専門家の中には、消費税だけで財政収支を均衡させるには、消費税率を35%まで引き上げる必要がある、という推計をしている方もいます。

 手取り年収が400万円あっても税抜きベースでは300万円も支出できない計算になるので、極めて厳しい試算だと言えます。

 現実的な消費税率に収まるには、累進課税の強化や選択的福祉が導入されるのではないかと考えています。選択的福祉とは一律平等の福祉・社会保障ではなく、収入や資産に応じて、年金の給付を減らしたり、医療費の自己負担率を上げたりする制度です。

 法の下の平等という原則との折り合いをどうつけるのか、導入に際しては国民的な議論が必要ですが、セーフティーネットを維持するには富裕層には我慢して貰わねばならないでしょう。

 平成の30年間、楽観シナリオは実現せず、標準シナリオの達成も難しい状況が続きました。私事ですが、1997年11月の北海道拓殖銀行、山一證券の破綻を機に、当時、浪人生だった私は、志望を歴史から経済に変更しました。経済官僚を志したからです。その後、紆余曲折を経て、2003年に日本銀行に入行、2018年に退職しましたので、ほぼ平成の半分を公的機関の中から見ていたことになります。

 そして、現在はフリーランス。日本で最も倒産から遠い職場と最も不安定な職業の両方を経験しています。平成のツケを次世代に残すことになることについては忸怩たる思いがあります。

 そうした経験をした立場から見えるのは、平成の30年間は企業が防衛・サバイバルモードでしたが、次の世は、個人が防衛・サバイバルモードに突入するだろうということです。「一年の計は元旦にあり」には諸説ありますが、毛利元就の

一年の計は春(新春正月)にあり

一月の計は朔(さくである新月・ついたち)にあり

一日の計は鶏鳴(早朝)にあり

という言葉に由来しているそうです。

 少しの間、仕事を離れての年末年始。一年と言わず、人生百年の計に思いを巡らせる得がたい機会かもしれません。

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