現在のスイスプライベートバンク

 ただ、その秘匿性は2007年、HSBCの子会社(ジュネーブに拠点を置くプライベートバンク)が起こした「スイス・リークス事件」がきっかけで大きな転換点を迎えます。これは簡単にいうとHSBCの子会社が機密情報を漏洩してしまい、世界数百件以上の顧客が、脱税に関与していたのです。これにより2009年、当時のオバマ大統領の要請によって一部の秘匿性は撤廃されています。これを理由にスイスのプライベートバンクから一部資金が他国へ流出しましたが、スイスのプライベートバンクの地位が特段崩れたわけではありません。むしろ他国との競争力も上がり、現在ではサービスが日々向上しているといわれています。
 

プライベートバンクの運用 

 スイスプライベートバンクの特徴は、他の金融機関とは異なり、「資産運用」ではなく、「資産保全」を第一に考えています。重要なのは、コアな資産が、スイス国内のインフレに対応することが大切であり、期間も30年~50年先を考えて戦略を練っていきます。過去30年のスイスのインフレ率を見ても2~3%(データ:IMF)となっています。

 それに対し、欧米諸国の金融機関は、世界株式(MSCIやFTSE等)の上下に連動するような戦略が中心となる傾向ですので、大幅にリスク管理が違います。

 簡単にスイスの金融の歴史とプライベートバンクの特徴を書きましたが、ネガティブな印象をお持ちになった方もいるかもしれません。しかし、スイスを知る上で表も裏も知っておくことは、世界の金融事情を知る上で大いに役立ちますので、覚えておきましょう。

 

参考文書

『スイスの歴史』著:森田安一

『黒いスイス』著:福原直樹

『スイス人銀行家の教え』著:本田健