毎週金曜日夕方掲載
本レポートに掲載した銘柄
伊藤忠テクノソリューションズ(4739)、ネットワンシステムズ(7518)
1.ネットワークインテグレーターとは何か
今回は、5G(第5世代移動通信)とネットワークインテグレーターとの関わりについて探ります。
ITサービスの世界は、ソフトウェアを開発し情報システムを組み上げる「システムインテグレーター」(富士通、NTTデータ、SCSKなど)、パッケージソフトを開発するパッケージソフト会社(オービック、オービックビジネスコンサルタントなど)、情報システムを動かすための通信ネットワークを構築するネットワークインテグレーター(伊藤忠テクノソリューションズ、ネットワンシステムズなど)などいくつかの分野に分かれます。
今回取り上げるネットワークインテグレーターとしては、まず、富士通、NEC、日立製作所が挙げられます。これらの会社が販売するルータ、スイッチなどの通信機器を使ってネットワークを構築します。NTTグループにも、NTTコムウェアというNTTと外部顧客のネットワーク構築を行う会社があります。
また独立系として、伊藤忠テクノソリューションズ、ネットワンシステムズ、インターネットイニシアティブ(IIJ)などがあります。このうち、伊藤忠テクノソリューションズはシステム開発の能力も持った総合ITサービス会社です。また、ネットワンシステムズはネットワーク構築の専業です。インターネットイニシアティブはネットワーク構築も行いますが、主力事業はインターネットプロバイダーです。ここでは、伊藤忠テクノソリューションズ、ネットワンシステムズと5Gとの関わりを見ていきます。
2.拡大するクラウドサービスとネットワークインテグレーター
ネットワークインテグレーターの業績は順調に拡大しています。
2019年3月期1Q(2018年4-6月期)の業績を見ると、伊藤忠テクノソリューションズは5.7%増収、13.9%営業増益となりました(表1)。前1Qが38.2%営業増益と好調だったことを考えると、順調と言えます。受注は、情報通信向けが前年比17.5%増となりましたが、これはNTTなどの通信会社やインターネットプロバイダー向けのネットワーク構築、特にネットワークの基盤をなす「バックボーン」構築が活発になっているからです(表2)。
また、さまざまな顧客向けにクラウドサービス(クラウドサービスプラットフォームからインターネット経由でコンピューター、データベース、ストレージ、アプリケーションソフトなど、さまざまな ITサービスを必要な時に利用することができるサービス。料金は実際に使った分だけ支払う従量課金が一般的。情報システムの初期投資が軽くなり、使う人的資源も従来より少なくて済む)の構築・運用が好調です。全社受注高は前年比5.3%増と堅調でした。
一方、ネットワンシステムズの今1Q業績は、12.2%増収、営業利益3.6倍と好調でした(表4)。全社受注高は前年比49.6%増でしたが、このうちパブリック向け(主に中央省庁、地方自治体、大学・研究機関向け)が同2.3倍と大きく伸びました。中央省庁向けの大口案件が寄与しました。また、顧客業種を問わず、クラウドサービスの構築が増加しています。ネットワンシステムズでは単純なネットワーク構築よりも付加価値が高いクラウドサービスの構築に注力してきたため、全社営業利益率が上昇しており、これが業績好調に結び付きました。
クラウドサービス市場の中身を見ると、いわゆるパブリッククラウドであるAWS(アマゾン ウェブ サービス)、Azure(アズール、マイクロソフトのクラウドサービス)、グーグルクラウドなどが伸びているほか、ネットワークインテグレーターが企業や省庁向けに独自に構築・運用するプライベートクラウドも伸びています。グラフ1は国内クラウドサービスの規模を表したものです(出所はMM総研)。このうちパブリッククラウドは、2016年度3,883億円だったものが、2021年度に1兆556億円になり、プライベートクラウドは同じく1兆121億円から2兆5,157億円に拡大すると予想されています。
クラウドサービスの利用が増えるに従って、クラウドネットワークの構築ビジネスも増加しています。伊藤忠テクノソリューションズとネットワンシステムズの業績拡大の背景には、クラウドサービスの成長があります。
グラフ1 日本のクラウドサービス市場規模
3.5Gはビジネスチャンスになる
5Gの特色は、数Gbpsクラス(スペック上は受信=ダウンロード10~20Gbps)の高速送受信が可能になること(受信だけでなく送信が高速化すること)、同時多接続、低遅延です(5Gの詳細は、楽天証券投資WEEKLY2018年6月15日号「特集:5G(第5世代移動体通信)と関連銘柄」を参照してください)。映像などの大容量データの送受信やIoT(インターネット オブ シングス、あらゆるものが繋がるつながるモノのインターネット)に向いており、スマートフォン、自動車、FA(ファクトリーオートメーション:工場自動化)、医療、エンタテインメントなど、多種多様な分野への応用が期待されています。
5Gが普及すると、動画データを含む大量のデータがインターネット上を行き来することが想定されるため、通信ネットワークの増強が必要になると予想されます。スマホや他の通信機器と基地局を結び、それとネットワークとを結ぶ「アクセス系」の増強だけでなく、ネットワークの基盤を形成する「バックボーン」の増強も必要になると言われています(図1)。早ければ5Gが本格的に動き出す2020年、遅くとも2022~2023年にはバックボーンの増強需要が発生すると思われます。これは、採算次第ですが、伊藤忠テクノソリューションズとネットワンシステムズにとって重要なビジネスになると思われます。
もう一つ重要なのが、5Gの応用分野における業務用システムの開発です。前述したように、5Gは多種多様な分野での応用が期待されていますが、その場合、5Gを使うための業務用システムが必要になります。この需要は早ければ5Gが日本でエリア限定でスタートすると思われる2019年から発生すると予想されます。
伊藤忠テクノソリューションズはシステム開発の部門を持っているため、5G関連の業務用システム開発の需要が発生した場合にそれに関わる可能性があります。5Gの普及に伴ってデータセンターが増えた場合にもビジネスが増える可能性があります。後述のように会社側も5Gには積極的です。
ただし、ネットワンシステムズはネットワーク構築専業なので、業務用システムには関係しません。5Gへの関わりも採算次第という姿勢です。
図1 通信ネットワークの階層と5G
4.伊藤忠テクノソリューションズ、ネットワンシステムズに注目したい
ネットワークインテグレーターの業績を見ると、伊藤忠テクノソリューションズの業績は情報通信向けネットワーク構築の増加で順調に推移しています。クラウドサービスの構築も順調です。
ネットワンシステムズは、中央省庁向け大口案件を受注したことやクラウドサービスの構築に注力してきたことが寄与して、業績好調です。
ただし、5Gに対しては、前述したように伊藤忠テクノソリューションズはバックボーン増強と業務用システム開発の両方に対して積極的なのに対して、ネットワンシステムズは採算次第という姿勢です。
今1Qが順調だったため、両社ともに今期会社予想業績が上方修正される可能性があります。目標株価は6~12カ月の期間で、伊藤忠テクノソリューションズ3,000円(来期の想定PER[株価収益率]を25倍とした)、ネットワンシステムズ3,000円(同じく25~30倍)とします。両社ともに投資妙味を感じます。
表1 伊藤忠テクノソリューションズの業績
表2 伊藤忠テクノソリューションズの事業グループ別受注
表3 伊藤忠テクノソリューションズの事業グループ別売上収益
表4 ネットワンシステムズの業績
表5 ネットワンシステムズのマーケット別受注高
表6 ネットワンシステムズのマーケット別売上高
本レポートに掲載した銘柄:伊藤忠テクノソリューションズ(4739)、ネットワンシステムズ(7518)