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『ハゲタカ』著者・真山仁氏インタビュー(全3回):前編中編後編

 

リサーチから作品まで3年かかる!ヒット作のヒントの捕まえ方

2018年7月下旬、真山仁氏の事務所にてお話を伺いました

 作品の着想は、新聞の大きな記事やポータルサイトのトップニュースよりは、小さな平記事から得ることが多々あります。小さな兆しでも、これからの社会に影響する印象がある記事に注目しています。

 短編集の『プライド』(2010年発行、新潮文庫)の「絹の道」という短編。着想は、ある日の新聞の社説で読んだ、養蚕農家の減少という記事です。1930年代には、日本は世界一の絹の輸出国でした。養蚕農家は、何万軒もあったことでしょう。ところが、今では国内の養蚕農家は3百数十軒となり、養蚕事業従事者の平均年齢は80歳近いとか。「日本から養蚕農家がなくなっていくのでは?」という驚きを感じ、そこから調べ始めました。

 たとえば、和服で使用する絹は日本製のイメージがありますが、調べを進めると、日本原産の絹の生産量は、1年間に着物10着できるかどうか。ほとんどが輸入した生糸(絹の糸)で作っているのです。

新聞の社説記事からもテーマのヒントが

 養蚕農家が減っているのに、成人式の振り袖や、和服が高騰しているイメージがないのは、中国やベトナムなどの安価な生糸を輸入して日本で加工しているからです。JIS規格のルールでは、最後の工程が日本であれば、日本製となりますので、生糸の原産国は問われないことになります。

 日本人に身近な“着物”の産業構造の変化は、目に見えないところで大きく動いていた、とわかりました。

 このように、気になった新聞記事のネット検索から、専門書の要約などを読んで、現実的に何が問題で、未来はどうなっていくのかを調べていきます。調べた事実から物語へつなげる確信を得ると、本格的に調査と取材を始めます。

 “これでやれる”という判断ポイントは、「取り扱うテーマが3年経っても新鮮に感じられるかどうか」ということ。というのも、本格的な調査や取材に1年以上かかり、執筆にも1年ほどかかります。校正作業などを経て、3年後に本になった時にも、世間にとって斬新で興味深いテーマであるかどうかを基準に、取り組むべきか判断しています。


今や金融業界入門者必読の就活本、ハゲタカシリーズ

シリーズ1作目を出版した当時は、「賞味期限は1年だね」と、少々辛口なご意見をいただきました

『ハゲタカ』シリーズの場合は、他の小説より少し短いスパンで書くことができます。中心となる登場人物が、おおむね固定できていますから。また、『ハゲタカ』シリーズでは章ごとに日付を入れています。そのタイミングだったからこの取引が成立したという時事要因も大きな意味があるわけです。

 ところが、シリーズ1作目を出版した当時、編集者の方々からは「日付を入れると、内容がすぐ古くなる」とか、「賞味期限は1年だね」と、少々辛口なご意見をいただきましたが、おかげさまで生き残ってくれました。結果的に、一種の現代歴史小説のような存在になっているようです。

 バブル崩壊と言われても、今となっては何が起きたかもわからない。けど、小説を読むことで背景がつかめます。また、残念ですが『ハゲタカ』で描いているような企業の問題は、今現在でも引き続き起きています。

 歴史小説は古い時代を描いていますが、普遍的な法則が書かれていれば、それはそれで現代社会でも違和感なく受け入れられます。『ハゲタカ』は4月になると就活の本として売れています。とくに金融業界で新人のための必読書といわれているそうです(笑)。