統計史上初、5日連続で台風発生

 今回はハリケーンと原油生産量の関係について述べたいと思います。

 2018年の台風発生がこれまでになく非常に速いペースであることが、8月16日、報じられました。5日連続の台風発生は統計史上初です。

 筆者が日ごろから利用しているスマートフォンの天気予報アプリでは、最近、台風情報を通知する際、「台風19号(ソーリック)」「台風18号(ルンビア)」など、発生番号の後に台風の名称が付くようになりました。連続して発生する台風情報を番号だけではなく、名称を伴って発信することで受け手の混乱が避けれるようにしたのだと思います。

 この台風の名称は、台風が影響を及ぼす西太平洋や南シナ海に面する国々(日本を含む14カ国)がそれぞれ出した計140個の命名リストから、順番に付けられています。

 命名リストの順は、カンボジア、中国、北朝鮮、香港、日本、ラオス、マカオ、マレーシア、ミクロネシア、フィリピン、韓国、タイ、米国、ベトナムとなっており、台風が14個発生すると国が一巡します。

 2018年8月17日(金)現在19号まで発生していますが、20号が発生した場合はシマロン、21号はチェービーとなります。

 19号のソーリックはミクロネシアが提出した名前で、意味は「伝統的な部族長の称号」、18号のルンビアはマレーシアによるもので「サゴヤシ:ヤシの一種」、シマロンはフィリピンで「野生の牛」、チェービーは韓国で「つばめ」です。

 今年の台風15号が、日本が提出した名前「ヤギ:やぎ座の意味」でした。

 日本が提出している名前のリストは、次のとおりです。

 星座という国を問わず認識しやすいテーマを採用しています。日本で観測した場合、南中時でも低い位置にある星座が多いのは、台風が発生する赤道付近の国々での認知度を意識したためだと考えられます。

図1:日本が提出した台風の名前リスト

出所:気象庁のウェブサイトを基に筆者作成

 台風とは、熱帯低気圧が発達して一定以上の風速を有するようになった現象です。ハリケーン、サイクロン、タイフーンも熱帯低気圧が発達したものです。現在地によってハリケーンなのか、サイクロンなのか、タイフーンなのか、呼び方が変わります。

図2:発達した熱帯低気圧の現在地による呼び方の違い(イメージ図)

出所:各種情報を基に筆者作成

 今年の台風17号(名称はバビンカ)は「越境台風」と呼ばれます。経度180度の東側で熱帯低気圧が発達してハリケーン(名称はヘクター)になりましたが、そのハリケーンが経度180度を西に移動したため、台風(国際基準ではタイフーン)となりました。

「5日連続での台風発生」と17号の関連については、国内メディアは8月14日午前3時に発生したとしていますので、越境して台風になった日付を採用しているようです。

 NHC(全米ハリケーンセンター)のウェブサイトによれば、ハリケーンヘクター(台風17号の前身)は元々7月31日に東太平洋上で熱帯暴風雨となりヘクターと命名され、その後発達して8月2日にハリケーンとなりました。

 さらに西に移動し8月5日にハワイ付近を通過、8月6日から8月13日24時までCPHC(中部太平洋ハリケーンセンター)の監視下にあり、その後経度180度を超え(越境し)、8月14日午前3時にタイフーン(日本基準で台風)と認定されたとみられます。

 そこで本レポートでは、大西洋北部および西部、カリブ海、メキシコ湾で発生する熱帯低気圧(発達した場合ハリケーン)が、米国の原油生産、石油精製に与える影響、そしてその影響が原油相場にどのような影響を与えるかについて、確認、考察していきます。

 

ハリケーンの爪痕は米国の原油生産量のグラフではっきりと確認できる

 以下の図は米国の原油生産量の推移を示したものです。

図3:米国の原油生産量の推移

単位:千バレル/日量
出所:米エネルギー省(EIA)のデータを基に筆者作成

 米国の原油生産量はしばしば、短期的に減少することがあります。2005年9月と2008年9月に、グラフは雨垂れのように一時的に下降しました。この雨垂れこそが、ハリケーンの爪痕です。

 米国の原油生産量とハリケーンの関係を知るには、米国で原油生産がどこで行われているかに着目することが必要です。

図4:米国の州別の原油生産量シェア(2018年5月) 

出所:EIA(米エネルギー省)のデータを基に筆者作成

 この図に2005年と2008年の大型ハリケーンの進路を重ねます。

図5:2005年と2008年に発生した主な大型ハリケーンの経路

出所: NHC、EIAのデータを基に筆者作成

 メキシコ湾を直撃し、テキサス州やルイジアナ州などのメキシコ湾岸地区に上陸したことが分かります。この3つのハリケーンはこの年の8月下旬から9月にかけて上図の経路をたどりました。

 

ハリケーンはメキシコ湾の原油生産量を大きく減少させることがある

 図6は、テキサス州とメキシコ湾の原油生産量の推移です。

図6:テキサス州とメキシコ湾の原油生産量 

単位:千バレル/日量
出所: EIAのデータを基に筆者作成

 メキシコ湾の原油生産量がハリケーン襲来時に急減していることが分かります。ルイジアナ州の生産量も減少しているのですが、ルイジアナ州の原油生産シェアは2018年5月時点で1.2%であるため、全体に与えるインパクトはメキシコ湾に比べて低いと言えます。

 ハリケーンの進路次第ではメキシコ湾の原油生産量が大きく減少することが分かります。

 また、ハリケーンのことを考える上で重要なのが風速です。

 

風速50メートル毎秒以上のハリケーンは「メジャーハリケーン」

 ハリケーンは図7のように分類されます。熱帯暴風雨になると名前が付き、ハリケーンになるとカテゴリー分けされます。

図7:熱帯暴風雨とハリケーンの分類

出所:全米ハリケーンセンター(NHC)のデータを基に筆者作成

 カトリーナとリタはカテゴリー5に、グスタフは4まで勢力を強めたメジャーハリケーンでした。

 メキシコ湾の原油生産量の減少には、進路に加え風速も大きく関わっているとみられます。

 8月も半ばを過ぎ、過去に巨大ハリケーンが猛威を振るった時期に入りました。原油相場を見る上でも、重要な時期に入ったと言えます。