iDeCoに加入すべきなのは流行だからでもセールストークを受けるからでもない

iDeCo(個人型確定拠出年金)に関する情報発信が増えてきています。関連書籍は一気に10冊を超える勢いで発刊されていますし(本コラム公開時には超えているかもしれません!)、雑誌や新聞の話題となる回数も増えてきています。

金融機関各社の取り組みも積極的で、セミナーの開催案内や制度案内のDMが届き始めているようです。楽天証券等の新規参入に加え、既存の金融機関のiDeCoプランのてこ入れも行われています。

しかし、iDeCoを「そもそも、なぜ」利用するのか、じっくり考えたことはあるでしょうか。流行だから乗っかるものではありませんし、セールストークをされたからおつきあいで入るものでもありません。

金融機関が積極的にセールストークしてきたからといって、おつきあいで「とりあえず口座だけ作っておくか」と考えてはいけません。なぜなら、個人型確定拠出年金の加入者になる、ということは「口座開設=積み立て開始」であるからです。最初の申込書に書かれた金額について、翌月から自動引き落としで積み立てがスタートし、その金額は60歳まで解約不可能になります。なんとなくおつきあいをした結果、大慌てになるかもしれません。

「そもそも、なぜ」の部分をしっかり理解しておくことが、iDeCoを活用するうえでの大前提です。今回は「なんとなく投資」から脱出する格好の題材である「老後資産形成」というテーマについて、iDeCoを軸に考えてみましょう。

iDeCoに加入すべきなのは公的年金が破たんするから、でもない

ところで、iDeCoという制度を国がプッシュするのは、国が公的年金制度破たんの可能性を自ら認めたものだ、という意見もありますが、これはむしろ逆でしょう。

もし、破たん可能性を軸にiDeCo加入を勧める金融機関があったとしたら、その金融機関は避けることをオススメします。というのも、国の年金をゼロと見込むとすればiDeCoだけでは老後の資産形成は足りません。仮に1.2万円を毎月22歳から60歳まで貯めたところで、1,282万円になりますが(年4%の利回りを想定、口座維持手数料は勘案せず)、これだけでは老後はまったくやりくりできないからです。

総務省家計調査年報によれば、年金生活世帯の夫婦は月27.6万円がかかっており、65歳女性の平均余命約24年を掛けると約8,000万円は必要ということになり、先ほどのiDeCoの水準であろうと歯が立ちません。

実は現在の公的年金水準は夫婦で月21~22万円のモデルが提示されており、女性の平均余命を勘案すればこれは生涯約6,000万円の収入に相当します。これにiDeCoを加える、というのが老後の経済を安定化させるための必須戦略であっても、ゼロからiDeCoのみで老後を備えるというのは無理筋です。

公的年金制度の破たん不安を煽りつつiDeCoセールスをするような金融機関は、おそらくiDeCoだけでは不足ですよと、あなたに他の金融商品(おそらくそれは売り手にとっては利益があるが、買い手にとっては高コストだけの商品)の提案をしてくるに違いありません。

実は公的年金の破たん可能性がきわめて低いことは、一昨年の財政検証により明らかになっています。もちろん、公的年金が給付水準を引き下げているのはその通りですが、給付水準の引き下げを行うほど、破たん可能性は遠のくのが道理です。そして、給付水準の引き下げと支給開始年齢の引き上げは、少子高齢化に悩む先進国のどこも行っているアプローチなのです。

先ほどの概算で示した約6,000万円が額面通り期待できないとしても、公的年金は社会保障制度である以上、我々の最低限度の生活水準を満たせないほどの給付水準になることはありません。スーパーで安い食材をしっかり買い、ドラッグストアで日用品を買い、ユニクロ等で衣料品を買えば、これからの時代も公的年金水準でやりくりすることは可能でしょう。

しかし、公的年金では、今までも、そしてこれからも、約束できない部分があります。それは個人にとっての「豊かさ」を補う部分です。