​今日の見出し

  • 「リグ数」は原油生産に直結しない。直結するのは「掘削済み・仕上げ後の抗井」。後者は前月比約11%増加となるなど、昨年末からの増加傾向を維持。
  • 「掘削済数」と「掘削済・仕上げ後の抗井の数」が示すのは、米シェール開発において、新規・既存のどちらの開発が優先されているか。
  • 現在の米国のシェールの状況は、“新規開発に係る懸念を生産の質と既存開発の数でカバーしている状況”と考えられる。
  • 今週月曜日に米エネルギー省が月次で公表している「掘削稼働性レポート」(Drilling Productivity Report)を公表しました。

このレポートには米国のシェールオイル主要地区の原油生産量や稼働リグ数、新規1油井あたりの原油生産量、掘削済数、掘削後・未仕上げ抗井、仕上げ後・未生産抗井などのデータが含まれています。今回のレポートではそれらのデータから筆者が注目したものを紹介いたします。

足元、関連する要人の発言などからOPECの今後の動向に大きな関心が集まりますが、筆者が世界の石油在庫の急増の主因と考えている米国、その米国の60%のシェアを占める同国のシェールオイル主要地区の原油生産の動向もまた、大きな関心事であると考えています。

図:米エネルギー省が提唱する同国の主要7地区
 

出所:米エネルギー省の資料より筆者作成

今回のレポートでは、「掘削稼働性レポート」(Drilling Productivity Report)を始め、同省が今週公表した週間石油統計、先週金曜日にベイカーフューズ社が公表した稼働リグ数などのデータを交えながら、米国のシェールの動向を探ってみたいと思います。


「リグ数」は原油生産に直結しない。直結するのは「掘削済み・仕上げ後の抗井」。後者は前月比約11%増加となるなど、昨年末からの増加傾向を維持。

以下は先週の金曜日(日本時間の土曜日)に、石油開発サービス会社ベイカーフューズ社が公表した北米のリグ稼働数のデータから、米国のシェールオイル主要地区の石油掘削向けのリグの稼働数を抽出し、その前週比を示したものです。

図:米国のシェール主要7地区の稼働リグ数 単位:基
 

出所:ベイカーフューズのデータより筆者作成

米国の石油開発向けのリグ数のうちおよそ70%が米エネルギー省が提唱するシェール主要7地区のリグ数とみられます。(DJ-NiobraraをNiobraraに、WillistonをBakkenに読み替え)

リグの増加傾向が鈍化することで、米国の原油生産も鈍化するのでは?との見方があります。確かに連想しやすいことです。ただ、以下のように今週米エネルギー省が公表した週間石油統計で米国の原油生産量がさらに増加したことが明らかになりました。

図:米国の原油生産量 単位:千バレル/日量

出所:米エネルギー省のデータより筆者作成

また、以下のとおり、米国の原油生産のおよそ60%を占める(2017年6月現在 筆者推定)米国のシェールオイル主要7地区からの原油生産量についても、今週米エネルギー省が公表した月次の掘削稼働性レポート(Drilling Productivity Report)にて同地区の原油生産量の増加傾向が続いていることが確認されました。

図:米シェール主要7地区の原油生産量合計の推移 単位:百万バレル/日量

出所:米エネルギー省のデータより筆者作成

この地区の原油生産量の合計はグラフのとおり2017年6月時点でおよそ日量547万バレル(日量5,472,533バレル)でした。この水準は2015年3月につけた過去最高水準の日量5,471,924バレルとほぼ同じレベルです。

先週、同省が公表した「短期見通し(Short Team Energy Outlook)」では6月の米国の原油生産量がおよそ日量922万バレルであったことから、シェール主要地区の原油生産量は米国の原油生産量のおよそ60%を占めています。

現在は、この60%の生産量に関わる地区リグの増加が鈍化しても米国の原油生産量が減らない、という図式になっている訳です。

筆者のヒアリング等の調査によれば、米国のシェールオイル生産は、探索→開発→生産というプロセスを経て行われています。以下はその真ん中の“開発”段階をクローズアップしたイメージ図です。

図:シェールオイル生産における開発段階のイメージ
 

出所:筆者作成


※“仕上げ”とは掘削した抗井に対して、油井として原油生産を開始するために行われる、水圧破砕等の最終的な措置のこと。

開発段階は前半の“掘削”・後半の“仕上げ”の2段階に分かれます。また、“リグ”は前半の掘削の段階で登場することがわかります。この点より、リグが最終プロセスである「生産」に直結していないことがわかります。リグは後に油井となる抗井を掘るための掘削機であり、生産をする機械・施設ではない、ということです。

では、生産に近い、開発段階の後半の“仕上げ”に関してどのようなデータがあるのでしょうか?それが「仕上げ済・未生産の抗井」です。

以下は米シェール主要7地区の原油生産量合計と仕上げ済・未生産の抗井の抗井の合計の推移です。

図:米シェール主要7地区の原油生産量合計と仕上げ済・未生産の抗井の合計の推移
 

出所:米エネルギー省のデータより筆者作成


同地区の原油生産量と、開発段階の後半の仕上げが完了した生産前の抗井の数の推移は、昨年末以降、ともに上昇傾向となっています。

米国のおよそ60%のシェアの同地区の原油生産量の動向を追うにあたり、仕上げ済・未生産の抗井の数を追うことが重要であると考えます。少なくとも、稼働リグ数よりもこの仕上げ済・未生産の抗井の数の方が同地区の原油生産量の推移を説明する上で説明力は高いと筆者は考えています。


「掘削済の抗井」と「仕上げ済・未生産の抗井」が示すのは、米シェール開発において、新規・既存のどちらの開発が優先されているか。

また、以下は「掘削済の抗井」と「仕上げ済・未生産の抗井」の推移を同時に示したものです。掘削数とは、掘削機であるリグによって掘削され“掘削が完了した抗井”の数です。

図:米シェール主要7地区の「掘削済の抗井」と「掘削済・仕上げ後の抗井」 単位:基
 

出所:米エネルギー省のデータより筆者作成
 

「掘削済の抗井」と「掘削済・仕上げ後の抗井」について、「掘削済の抗井」は開発段階前半の“掘削”の完了数、「掘削済・仕上げ後の抗井」は開発段階後半の“仕上げ”の完了数、とすることができます。

つまり、これらのデータを追うことで、米国のシェールオイルの開発段階において、新規の掘削に重点が置かれているのか(新規開発重視か)、依存の掘削された抗井の仕上げに重点が置かれているのか(既存開発の継続重視か)をうかがう事ができます。

グラフのデータは「掘削性稼働レポート」という月次データを基にしているため、ベイカーフューズ社が公表する稼働リグ数の週次データよりも大まかなものになるという点に留意が必要ですが、「掘削済数」の伸びが緩やかになっているようです。これは冒頭で述べた足元の稼働リグ数の増加が鈍化傾向にあることと関連していると考えられます。

一方、原油生産量の推移と近しい「掘削済・仕上げ後の抗井」の数については、昨年末以降の増加傾向が継続しています。

現在の米シェール開発についてこれらの2つのデータから考えられることは、リグを稼働させて新たに掘削を行う新規開発重視から、掘削した抗井を仕上げる既存開発の継続重視に切り替わろうとしているのではないか?ということです。

また、掘削済・仕上げ後の抗井と同地区の原油生産量の推移が近しいことから、仕上げが行われることとその抗井から生産が始まることはほぼ同義であると考えられます。つまり、業者が仕上げを行うということは、その業者あるいは関連する業者にその抗井で原油生産を始める意思があるということだと考えられます。

現在は「掘削済・仕上げ後の抗井」の数が増加傾向にあることから、米国のシェールオイル開発を取り巻くムードとしては、リグを稼働させた新規開発よりも、実際の原油生産を前提とした仕上げを実施する動きが強まっており、その動きが足元の同地区の原油生産量の増加を支えていると考えられます。

このような状況が、リグ増加が鈍化しても米国の原油生産量が減らない理由であると考えています。

現在の米国のシェールの状況は、“新規開発に係る懸念を既存開発の数と生産の質でカバーしている状況”と考えられる。

以下は米シェール7地区の新規1油井あたりの原油生産量の平均の推移です。

図:米シェール7地区の新規1油井あたりの原油生産量の平均 単位:バレル/日量
 

出所:米エネルギー省のデータを基に筆者作成

この値は、主要7地区で新たに生産が始まった油井1つあたりの生産開始からおよそ1ヶ月間の原油生産量の平均、というものです。

シェール主要7地区で新しい油井1つからどれだけ原油生産が行われているか?を示すもので、この値が高ければ高いほど、新規油井から効率良く生産が行われていることになります。この値が昨年末以降、7地区平均で頭打ち、つまりこれまで進んできた生産の効率化の流れが鈍化したように見えます。

また、以下は主要7地区の地区別の新規1油井あたりの原油生産量の推移です。

図:シェール主要7地区の新規1油井あたりの原油生産量 単位:バレル/日量

出所:米エネルギー省のデータを基に筆者作成

 
バッケン地区とパーミアン地区で頭打ち感が目立っています。

一方、以下の図は同じ7地区の原油生産量の推移です。

図:シェール主要7地区の原油生産量 単位:百万バレル/日量
 

出所:米エネルギー省のデータを基に筆者作成

新規1油井あたりの原油生産量で頭打ち感が見られたバッケン地区とパーミアン地区でしたが、原油生産量についてはパーミアン地区では勢いを伴ってさらに増加、バッケン地区でも同地区としての高水準を維持、他の地区でも反発傾向にあります。

新規1油井の原油生産量の鈍化は、稼働リグ数の低下が要因とみられる「掘削済」の数の頭打ち感とともに、発展すれば将来のシェール主要地区の原油生産量の減少につながる、現在の米国のシェールが抱える懸念点であると考えられます。

しかし、懸念は生じているものの、“現在のところ”同地区の原油生産量は増加傾向であることは、生産開始後およそ2か月目以降の既存油井からの生産が順調である可能性(既存油井の1油井あたりの生産量が高水準を維持、1油井の生産終了までの期間の長期化などが想定される)があり、“既存油井”では一定水準の“質”が保たれていると考えられます。

そして何より、本レポート半ばで述べたとおり米国のシェール開発において新規から既存の開発へシフトが起きつつある可能性がある中で、生産開始を前提とした仕上げ済・未生産の抗井の増加、そしてその予備軍である掘削済・未仕上げ抗井(DUC)、そしてやや伸びは鈍っているもののその予備軍である掘削数の増加傾向、つまりシェール主要地区の原油生産に結びつくものの“数”が、同地区の原油生産を支えていると考えられます。

現在の米国のシェールの状況は、“新規開発に係る懸念を生産の質と既存開発の数でカバーしている状況”であると考えられます。