※この記事は2018年3月16日に掲載されたものです。

 

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第2章 資本主義に飲み込まれるか、味方にするか?

<第1話>資本主義より、マシな仕組みがないだけ

 金曜日の夕方、木村隆一は外回りから戻り、営業日報を書いていた。すると、隣に座っている2つ先輩の高田から「おう木村、今日一杯飲んで帰るか?」と誘われた。

「ぜひ行きましょう!」といつもなら即答するのだが、今日は先生のところに行かなければならない。お酒の誘惑をぐっと我慢し、「すいません、ちょっと嫁が風邪でダウンして帰らなきゃいけないんすよ」と返した。

「それは帰ったほうがいいな」と返事ととともに、すぐ他の後輩に声をかけてくれたので、ホッとした。

 隆一の会社は秋葉原にあるので、JRに乗り、新橋に向かった。先生のいる日比谷神社は新橋の飲屋街のすぐ近くで、「なんでわざわざこんなとこにいるんだ。もっと静かなところでもいいのに」と独り言をブツブツ言いながら、向かった。

 神社の横の階段を降り、ドアをノックすると、先生が笑顔で迎えてくれた。

「よく来たね、時間通りだ。誘惑の多い金曜日の夜にちゃんと来るのはいい心がけです。投資で成功するには自制心が必要ですから」との一週間ぶりの先生の声になぜだかうかれ、「当然じゃないですか、せっかく、先生に認められたのですから」と馴れ馴れしく答えた。

「まだ認めたわけではないが、君のひとまずの熱意は買いましょうか。意志ある所に道は開ける、ですから」

 先生はこの前と同じように、挽きたてのサントス豆で淹れたコーヒーのカップを持ち、ソファに腰を下ろした。隆一はアメリカンキルトのカバーがかかったソファに座る。今日はどんな話が聞けるのかと気持ちが高ぶってきた。

「ところで、君が先週来てから1週間経ったけど、何か変化はありましたか」

「そういえば、妻に投資とギャンブルの違いを説明しようとしたんですが、よくわからない、そんなことよりも給料を上げる努力と方針を説明してほしい、と言われましたよ」

「なかなか君の奥さんも強いね」先生は愉快そうに笑った。

「先生、笑い事ではないですよ。妻にも理解してもらえるように知識を身につけたいです。妻に説明をしていて何か上滑りしている感じでした。きっと、私自身がまだ腑に落ちてないから、妻にも伝わらないんだな」と隆一は自分を納得させていた。

 先生はコーヒーを一口飲む。そして、「確かに、まだ1回来ただけだから、腑に落ちていなくて当然だと思います」と続けた。