執筆:窪田真之

今日のポイント

  • 都心は不動産ブームの様相。その恩恵で、大手不動産株は、最高益更新中。ところが、不動産株は上値が重い。不動産市況がやや過熱していることが警戒されている。
  • 個人投資家には、不動産株よりも、平均分配利回りが約4.1%のREIT(リート:上場不動産投資信託)の方が人気ある。

(1)不動産ブーム続く

アベノミクスが始まった2013年以降、景気回復と異次元金融緩和の効果で、不動産需給が改善しました。今、都市部は、不動産ブームの様相を呈しています。

 

<都心5区オフィスビルの賃料・空室率平均の推移:2013年1月―2017年5月>

(出所:三鬼商事、都心5区は東京都千代田区・中央区・港区・新宿区・渋谷区)

三鬼商事の調査によると、2013年1月に8.56%であった都心5区の空室率は、2017年5月に3.41%まで低下しています。平均賃料は、2013年中は低下が続き2013年12月に16,207円/坪となりましたが、そこから上昇に転じ、2017年5月には18,801円/坪となっています。

都市部に優良不動産を保有する大手不動産会社は、不動産ブームの恩恵で、最高益の更新が続いています。

 

<大手不動産の連結純利益>

(出所:各社決算短信)

 

(2)上値の重い不動産株

不動産業は市況産業です。過去に、不動産市況の上昇下落に対応して、ブームと不況を繰り返してきました。不動産業は今、ブームの渦中にありますが、不動産市況に過熱感が出始めていることが意識され、不動産株は上値が重くなっています。2018年に都心でオフィスビルの大量供給がある不動産の「2018年問題」が意識されている面もあると思います。

以下の「東証不動産株価指数の動き」をご覧ください。ここに、2001年以降の、不動産市況の推移が表れています。

 

<東証不動産株価指数の動き:2001年1月―2017年7月11日>

(注:2001年1月末の値を100として指数化、楽天証券経済研究所が作成)

2001年は不動産不況のさなかにありました。その後、不動産市況は回復に向かい、2005-07年に不動産ミニバブルと言われるブームがありました。このブームは2007年で終わり、その直後から、不動産市況は大きく下がりました。

私は、2007年に不動産ミニバブルが盛り上がり、崩壊した経緯をよく覚えています。2005年の頃から、「都心の不動産がファンドの買いで大きく上昇しているが、バブルでないか?」とささやかれ始めていました。ところが、今振り返ると、2005年はまだ、バブルの入り口でした。07年にかけて、不動産市況、不動産株ともさらに大きく上昇しました。いったいいつまで上昇が続くかわからなくなった頃、突然、転機が来ました。2007年以降、不動産市況がピークアウトすると、不動産ファンドから解約による投げ売りが増え、下げが加速しました。

2013年から、不動産市況は回復に転じ、今、まさにブームとなっています。このブームはいつまで続くのでしょうか?不動産株価指数だけは、先にピークアウトを織り込み、上値が重くなっています。

(3)長期投資を考えるならば、不動産株よりREIT(リート:上場不動産投資信託)が有望

不動産株の上値が重くなる中、REIT(リート:上場不動産投資信託)の株価は堅調でした。ところが、最近、世界的な金利上昇のあおりで世界的にREIT価格が下がっており、日本のREIT価格も低下してきています。その結果、分配金利回りは全体に上昇しています。

 

<東証REIT指数と不動産株価指数の動き比較:2012年末―2017年7月11日>

(注:2012年末の値を100として指数化、楽天証券経済研究所が作成)

アベノミクスがスタートしてからの動きを比較したのが、上のグラフです。異次元金融緩和を導入したことを好感して、最初は、東証REIT指数・不動産株価指数ともに急騰しました。ただし、その後の値動きがまったく異なります。東証REIT指数は、高値圏で堅調な動きを続けていますが、不動産株価指数は、2015年後半から、大きく下がっています。

どちらも主に不動産に投資するものですが、利益の分配方針の違いが、パフォーマンスの差に出ました。REITは、毎期の利益をほぼすべて投資家に分配します。分配金方針のわかりやすさと、相対的に高い分配金利回りから個人投資家に人気となりました。ちなみに、現在、REITの平均分配金利回りは、約4.1%です。個人投資家には、不動産株よりも、REIT(リート:上場不動産投資信託)の方が人気があります。

一方、不動産株は、投資家への利益還元方針が不明瞭です。大手不動産会社で、配当金利回りが1%前後と低く、個人投資家の投資ニーズが高まりません。

決算説明会を聞くと、REITは、開示が透明で、分配方針も明確ですが、不動産株の決算説明会では、投資家にとってのメリットがよく理解できません。

<大手不動産株と、REITの利回り比較:2017年7月11日時点>

(注:楽天証券経済研究所が作成)

不動産市況にやや過熱感があることを考えると、今、積極的に不動産株に投資すべきタイミングではないと思います。ただし、都心の優良オフィスビルに投資している日本ビルファンド投資法人や、ジャパンリアルエステイト投資法人には、分散投資しても良いと思います。

以上