今週は、日経平均株価(225種)が8月5日(月)に史上最悪の下落幅4,451円を記録したような株価の急落が再来する恐れもあります。

 その理由は先週、米国で発表された景気・雇用指標がかなり悪く、8月上旬と同様に米国の景気後退懸念が台頭し、円高が進行しているから。

 9月3日(火)発表のISM(全米供給管理協会)の8月製造業景況指数は7月より改善したものの、相変わらず好不況の境目である50を下回って低迷。先行指標の新規受注の落ち込みが顕著でした。

 5日(木)発表の給与計算代行会社ADP(オートマチック・データ・プロセッシング)社の8月民間雇用統計も前月比9.9万人増と予想を大きく下回る、3年半ぶりの低い伸びに。

 今週の日本株にとっても大きな打撃となりそうなのは、6日(金)発表の8月雇用統計。失業率は4.2%に低下したものの、8月の非農業部門新規雇用者数は前月比14.2万人増と市場予想を下回り、前月7月分も8.9万人増に下方修正されました。

 悪い指標が相次いだことで、機関投資家が運用指針にするS&P500種指数は前週末比4.25%安と2023年3月以来、1年半ぶりの大幅下落となりました。

 特に打撃を受けたのはAI(人工知能)関連の半導体株です。

 AIバブルを先導していた米国高速半導体メーカー・エヌビディア(NVDA)は前週末比14.0%も値下がり。

 同社を含む米国半導体企業30社の株価を指数化したフィラデルフィア半導体(SOX)指数は12.2%も急落。日本の半導体株も売られました。

 米国の景気後退懸念は重厚長大産業に対する悪影響が強いにもかかわらず、AI関連の半導体株が真っ先に、しかも大幅に売られたのは相場の雰囲気が非常に悪い証拠です。

 一方、先週の日経平均株価は米国経済指標悪化とそれにともなう円高進行で前週末比2,256円(5.8%)安の3万6,391円で終了。

 6日の米国株が大幅続落し、外国為替相場は1ドル=142円30銭台まで円高が進みました。週明け9日(月)の日経平均は、米景気後退への懸念と円高のダブルパンチで取引開始直後から半導体関連が大幅に売られ、前週末終値と比べた下落幅は一時1,100円以上に広がりました。

 その後は円高一服で下げ渋り、午後には半導体関連の見直し買いなどで下げ幅を縮め、終値は175円安の3万6,215円でした。

 日米金利差の縮小で6日に一時1ドル=141円台まで下げたドル円レートがもう一段、円高方向に進むようだと、今週の日本株は「二番底」を探して急落する可能性も高いでしょう。

 今週10日(火)には、11月5日に迫った米大統領選挙に向けて民主党候補のカマラ・ハリス現副大統領と共和党候補のドナルド・トランプ前大統領がテレビ討論を行う予定です。

 政治リスクが台頭し、株式市場をさらに混乱させるかもしれません。

 今週、米国では11日(水)に8月CPI(消費者物価指数)、12日(木)に8月PPI(卸売物価指数)が発表されます。

 市場の関心は物価より雇用や景気にシフトしているため、たとえ物価の伸びが順調に鈍化しても株価浮上のきっかけになりそうにありません。

 12日の前週分失業保険申請件数や13日(金)の9月ミシガン大学消費者態度指数速報値が株価に影響を与えるかもしれません。

先週:製造業指数や雇用統計低調で米国景気後退懸念!一部の内需株は買われる!

 先週は米国の悪い景気・雇用指標が日米の株価を大きく下落させ、8月上旬の暴落の再現フィルムかと思ってしまうような展開でした。

 6日(金)発表の8月雇用統計は新規雇用者数が前月比14.2万人の増加で予想の16.0万人を下回りましたが、失業率は4.2%に低下し、平均時給は前月比0.4%増と伸びが加速。

 賃金の上昇は米国経済の7割を占める個人消費の堅調ぶりが持続することにつながるので、発表された数字自体はそれほど悪いものではありませんでした。

 しかし、6月と7月の新規雇用者数が下方修正されたことが嫌気されました。

 雇用統計の結果を受け、米国の中央銀行に当たるFRB(連邦準備制度理事会)のウォラー理事が0.5%など大幅な利下げに「オープンマインドだ」と発言。

 この発言の直後には、日米金利差縮小の思惑から一時的に1ドル=141円台まで円高が加速。8月上旬と同様、低金利の日本円を高金利の米ドルなど外貨に両替して、海外のリスク資産に投資する「円キャリートレード」の巻き戻しが今週も続きそうな気配です。

 米国雇用統計を受けて、来週18日(水)終了のFOMC(米連邦公開市場委員会)でFRBが無難な0.25%の利下げを行うのか、0.5%の大幅利下げに踏み切るのか、市場が疑心暗鬼になっていることも株価急落の原因でしょう。

 0.25%の小幅利下げでは米国労働市場の下支えには不十分という意見もあります。一方で、通常の倍の0.5%利下げだと「今の米国経済は非常事態だ」とFRBが暗に認めているようなもの。

 どちらに転んでも米国景気後退懸念を払拭できない可能性があります。18日(水)のFOMCで利下げ幅が決定されるまで、相場が非常に不安定になりかねない理由といえるでしょう。

 ただ、先週6日(金)の8月雇用統計が大幅に悪化したわけではないので、今週どこかの時点で再び米国株や日本株が反転上昇する可能性もあります。

 米国の景気後退は急速な円高につながるため、米国株以上に日本株にとって打撃です。

 先週は半導体製造装置の主力株・東京エレクトロン(8035)が前週末比14.7%安、半導体研磨装置のディスコ(6146)が18.8%安と半導体株が総崩れでした。

 すでに株価の上昇トレンドが大きく崩れているため、今週も大幅続落するようならハイテク株の組み入れ比率が高い日経平均株価の急落に拍車がかかるかもしれません。

 一方、先週の業種別騰落率ランキングでは大半の業種がマイナスに沈む中、円高で燃料の輸入コストが下がる電力・ガス業がプラスで首位となり、内需系の小売、食料品セクターも買われました。

 日用品メーカーの花王(4452)が前週末比9.1%高、流通国内最大手で株主優待株としても人気が高いイオン(8267)が5.2%高。

 円高が進行し米国が不景気になっても安定した国内需要が見込める電力・ガス、日用品、小売、食品、陸運などの内需ディフェンシブ株の底堅い値動きは今週も続きそうです。

今週:ハリスvsトランプ討論会に注意!米国CPI発表で落ち着くor来週のFOMCまで乱高下!?

 今週は10日(火)夜に開かれる米国大統領選に向けたハリスvsトランプ両大統領候補のTV討論会に注目が集まりそうです。

 トランプ氏との支持率の差を取り戻しつつあるハリス民主党候補は法人税を21%から先進国で最高水準となる28%に引き上げ、株式の売却益に対する課税強化を打ち出しています。

 こうした政策は米国株にとってネガティブかもしれません。

 一方、トランプ共和党候補は法人税を15%に引き下げ、富裕層に手厚い減税を掲げるなど株高につながりそうな政策を打ち出しています。

 しかし、トランプ氏の過激な言動は米国内を混乱させ、高額関税の導入などは米国の物価を高止まりさせる恐れがあります。

 今週の米国景気指標では11日(水)発表の8月CPIが重要です。

 市場予想は前年同月比2.6%上昇と、7月の2.9%上昇から低下する見込み。予想通りになると、先週の8月雇用統計がそれほど悪くなかったこともあって、不安定な相場が多少落ち着く可能性もあります。

 日本国内でも今週12日(木)に公示され、27日(金)に投開票が行われる自民党総裁選が注目されています。

 国民からの支持率調査で人気トップの石破茂元自民党幹事長が先週2日(月)のテレビ番組で株式の売却益など金融所得課税の強化や海外への金融資産逃避に対する対応を打ち出しました。

 従来の「貯蓄から投資へ」の流れに逆行する発言のため、もし石破氏が自民党総裁に選出された場合は日本株にとって非常にネガティブでしょう。

 現在、最も有力とされる小泉進次郎元環境相は6日(金)の出馬会見で自らの政策を発表。雇用規制の見直しやライドシェアの全面解禁など規制緩和が政策の主軸になっています。

 この記者会見を受けて、タクシー大手の大和自動車交通(9082)が6日に一時、ストップ高まで買われるなど(6日終値は前日比3.0%高)、ライドシェア関連株が注目されました。

 候補者が乱立気味で混戦模様なことや、新NISA(ニーサ:少額投資非課税制度)を始めた岸田文雄現首相以上に日本株にとって明確にポジティブといえる候補が見当たらないことも自民党総裁選相場が全体として盛り上がりに欠ける理由でしょう。

 8月上旬の暴落では暴落後に一気にリバウンド上昇して値を戻す展開でした。

 しかし、今回は来週18日(水)終了の米国のFOMCで利下げ幅が決定されるまで新たな材料に乏しく、だらだらと下げ続ける恐れもあります。

 雇用指標は弱含んでいるものの、米国の景気後退はまだ「懸念」の段階。市場心理が好転し、株価が反転上昇する展開に期待したいところです。