先週の日経平均株価(225種)は前週末比283円(0.7%)高の3万8,647円まで上昇。円高で下落、円安で上昇と為替相場に連動するような値動きでした。

 8月30日(金)の米国市場では、重要物価指標が予想通りの上昇鈍化を示したことで利下げや景気のソフトランディング(軟着陸)見通しが優勢となり、景気敏感株の比率が高いダウ工業株30種平均が2日連続で史上最高値を更新。

 機関投資家が運用指針にするS&P500種指数も前週末比0.24%上昇し、7月16日に付けた史上最高値まであと0.3%強の高値を回復しました。

 ニューヨーク外国為替市場で1ドル=146円10銭台まで円安が進行。月が替わった週明け9月2日(月)の日経平均は円安が収益増加に貢献する外需株中心に上昇し、終値は前週末比53円高の3万8,700円でした。取引開始直後に400円以上値上がりし、一時1カ月ぶりに3万9,000円台を回復しましたが、戻り待ちの売りに押されました。

 先週、最も注目されたのはAI(人工知能)バブルの主役株である米高速半導体メーカー・エヌビディア(NVDA)の決算でした。

 28日(水)発表の2024年5-7月期の売上高は予想を超える前年同期の2.2倍まで増加。

 しかし、注目の2024年8-10月期の売上高見通しは前年同期比約80%の増加で、市場予想の平均値は上回ったものの、強気の予想値を下回りました。同社にはあまりに高すぎる期待感があるため、エヌビディア株は前週末比7.73%安と失望売りに沈みました。

 ただ、エヌビディアをはじめ米国の主要半導体企業30社の株価を指数化したフィラデルフィア半導体(SOX)指数は週間で1.34%の小幅安で踏みとどまり、半導体株ひいては全体相場に急落が波及することはありませんでした。

 それは先週の日本株市場も同じ。

 半導体関連の主力株・東京エレクトロン(8035)は前週比4.8%安でしたが、エヌビディア以外のAI半導体メーカーにも半導体検査装置を販売するアドバンテスト(6857)は4.1%高と売り買いが交錯しました。

 エヌビディアの成長が今後、多少鈍化してもAI半導体の需要自体は高止まりするという見通しが「脱エヌビディア」の流れにつながったのかもしれません。

 今週は、米国経済のソフトランディングが続いて株価が続伸するかどうかの試金石となる米国の雇用関連指標が相次いで発表になります。

 中でも注目は6日(金)発表の8月雇用統計。

 前回、8月2日発表の7月雇用統計は非農業部門の新規雇用者数が前月比11.4万人増と予想を大幅に下回り、失業率も4.3%に悪化。

 労働市場の落ち込みが米国経済のハードランディング(景気後退)懸念につながり、8月上旬の世界同時株安の元凶になりました。6日発表の8月雇用統計でも失業率の悪化が続くようだと、株価が再び乱高下する可能性が高いでしょう。

 また9月3日(火)には米国ISM(全米供給管理協会)の8月製造業景況指数、5日(木)には8月ISM非製造業景況指数も発表。

 これら米国の景気・雇用指標が悪化すると、景気後退で米国の金利引き下げペースが速まるという思惑から日米金利差縮小で急速な円高が進行する恐れもあります。

先週:株式市場に脱エヌビディアの動き、景気敏感株や中小型株、小泉進次郎関連株がにぎわう!

 先週発表のエヌビディアの決算は2024年8-10月期の売上見通しが超強気の予想に届かなかったことで下落しましたが、市場予想の平均値は上回っているため、AIバブルに対する期待が完全に冷めてしまったわけではないようです。

 30日(金)には、AIブームの蚊帳(かや)の外で株価も低迷していた米国半導体メーカー大手のインテル(INTC)が業績の足かせになっていた半導体受託生産部門の分離を検討しているというニュースが伝わり、前日比9.49%も急騰。

 エヌビディア株を売って他の半導体株を見直し買いする動きも広がりつつあります。

 米国の経済指標では、29日(木)発表の2024年4-6月期の実質GDP(国内総生産)の改定値が旺盛な個人消費を背景に前期比年率換算3.0%増に上方修正。

 30日(金)発表の7月個人消費支出の価格指数(PCEデフレーター)も市場予想通り、前年同月比2.5%増。前回6月と同じ伸び率でした。

 これらの指標を受け、米国では利下げ開始が確実視される9月18日(水)終了のFOMC(米連邦公開市場委員会)以降も緩やかな利下げが続き、景気はそれなりに堅調な状況が持続するという見通しが台頭。エヌビディアが下落しても全体相場は上昇をキープする「脱AIバブル」の動きにつながりました。

 米国の中央銀行に当たるFRB(連邦準備制度理事会)が9月以降、利下げをするにせよ、そのペースが緩やかな場合は日米の金利差縮小も緩やかなものになります。

 そのため30日の為替市場では1ドル=146円台まで円安が進行。円安になると上がりやすい日本株にとっても、FRBの利下げが緩やかなものであることがベストシナリオといえるでしょう。

 一方、先週の日本株市場では海運会社や大手商社、自動車株など株主還元に積極的な外需系大企業の株が買われる一方、銀行株やインバウンド(訪日外国人)需要で沸いた百貨店株、食品株などが下落する展開でした。

 コンテナ船運賃の高止まりが続き、配当利回りが5%に近い日本郵船(9101)が前週末比3.8%高。

 追加の自社株買いに対する期待が高まったトヨタ自動車(7203)が2.9%高。

 一方、三井住友フィナンシャルグループ(8316)が3.4%安となったほか、地銀株の多くが売られました。

 三越伊勢丹ホールディングス(3099)が5.8%安となるなど、百貨店株をはじめとしたインバウンド関連株の人気には陰りが見えています。

 しかし、金利が低下すると成長性に対する期待感から買われることが多い中小型の成長株は先週も好調で、東証グロース市場250指数は前週末比4.4%高と3週連続で反発上昇しました。

 また、東京電力ホールディングス(9501)がAIデータセンターなどの電力需要に対応して送電網の増強に4,700億円の巨額投資を行うと報じられると、30日(金)には古河電気工業(5801)が前日比4.7%高となるなど電線メーカーの株価が上昇しました。

 9月下旬に予定される自民党総裁選の有力候補と目される小泉進次郎元環境相関連株も8月を通じてにぎわいました。

 小泉進次郎氏が再生可能エネルギーの普及に力を入れていることから、同事業を手掛けるレノバ(9519)は8月上旬の暴落をものともせず前月比13.0%も上昇。

 小泉氏の地元である神奈川県地盤の老舗百貨店・さいか屋(8254)が前月比43.4%も急騰するなどマネーゲームの様相を呈しています。

 日本株も半導体関連という「主役」が低迷する中、主役交代とまではいかないものの、銘柄物色の輪が広がりつつあるのは良い傾向といえるでしょう。

今週:円安持続なら日本株続騰!米国の雇用・景気指標に一喜一憂する展開!?

 今週は9月2日(月)の米国市場がレイバーデー(労働者の日)で休日のため、2日から3日(火)の日本株は比較的穏やかな展開になりそうです。

 特に先週8月30日(金)に1ドル=146円台に達した円安がさらに進行するようなら、外需系の大型株の続騰や半導体株の見直し買いに期待が持てるでしょう。

 9月4日以降は米国の雇用関連指標の動向に注意が必要です。

 4日(水)には7月の雇用動態調査(JOLTS)の求人件数、5日(木)には給与計算代行会社ADP(オートマチック・データ・プロセッシング)社の8月民間雇用統計や最近持ち直しつつある前週分の新規失業保険申請件数が発表されます。

 6日(金)の8月雇用統計では非農業部門の新規雇用者数が前月比16.5万人増に回復し、失業率も4.2%に低下する予想になっています。

 予想以上の場合は株価にとってポジティブでしょう。

 7月雇用統計のように予想を大幅に下回り、失業率も悪化するようだと非常にネガティブ。一時は「気の迷い」と思われた米国の景気後退が再び不安視され株価急落の引き金を引く恐れもあります。

 雇用悪化が鮮明になるとFRBによる利下げ回数や利下げ幅が大きなものになります。

 それは日米金利差の想定以上の縮小につながり、急速な円高ドル安に直結。日本株にとっては米国株以上のダメージになりかねません。

 生成AI関連株に関しては、大規模言語モデルを駆使したオープンAI社の「ChatGPT」の世界的普及が株式市場の人気に火を付けました。

 しかし、生成AIがビジネスシーンなどで実際に有効活用され、マイクロソフト(MSFT)など巨大IT企業や新興のソフトウエア企業が実際に確かな収益を上げるまでに至っていないのも事実。

 米国の調査会社ガートナーは生成AIが過剰な期待が集まる流行期から幻滅期に入ったというレポートを発表して話題を呼んでいます。

 依然として米国巨大IT企業などのAIデータセンター向け半導体需要は高水準なものの、今後は生成AIのビジネス活用やスマートフォンのようなデバイス化がAI関連銘柄のさらなる上昇には必要でしょう。