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タックス・インバージョンが促す法人税減税
堀古 英司
ウォール街から~米国株の魅力~
ニューヨークのヘッジファンド運用マネジャーである堀古英司氏による週刊レポート。単なる分析にとどまらず、出来るだけ「裏を読む」という観点で米国経済、市場についてお伝えするコーナーで…

タックス・インバージョンが促す法人税減税

2014/7/30
アメリカの金融市場で今、最もホットな話題と言えばこの、タックス・インバージョン(Tax Inversion: 節税のための本社移転)でしょう。これは法人税のより低い国に本社を移すことによって節税を図る、というものです。
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アメリカの金融市場で今、最もホットな話題と言えばこの、タックス・インバージョン(Tax Inversion: 節税のための本社移転)でしょう。これは法人税のより低い国に本社を移すことによって節税を図る、というものです。アメリカの法人税率は日本と並び、世界で最も高いことで知られていますが、2000年以前から主に、タックスヘイブン(税金がゼロかゼロに近い国・地域)に本社機能を移す動きは散見されていました。しかし今年に入ってからは、特にヨーロッパに狙いを定めたタックス・インバージョン目的と見られる大型の買収が立て続けに発表されています。

現在、アメリカの法人税率は州税を含むと(州税がゼロの州もありますが)、40%近くになります。これに対して、イギリスは2008年に30%であった法人税率の段階的引き下げを実施しており、来年には20%になる予定です。アイルランドの法人税率は以前から12.5%と低いことで知られています。

特にアメリカの製薬大手ファイザーが今年4月に、イギリスの同業アストラゼネカに買収提案を提示したことで、一気に注目度が高まりました。この他にも半導体製造装置のアプライド・マテリアルズ、ペースメーカー製造のメドトロニック、ドラッグストアのウォルグリーン、製薬のマイランなどのアメリカの会社が次々に、主にヨーロッパの会社を買収することによってタックス・インバージョンを実現しようとしています。そして次の標的はどこか、を探す動きも活発で、実際イギリスやアイルランドの特に医療関連銘柄が大幅な上昇率を見せています。

これに対してオバマ大統領は先週末のインタビューで、アメリカ企業のこのような動きは「非愛国的だ」と非難しました。ルー財務長官も同様の発言を繰り返しています。果たして問題の本質はどこにあるのでしょうか?

私は、現行の枠組みの中で個別企業がこのような行動を取るのは当然で、口先で止められるものではないと思います。むしろここ数年の法人税を巡る議論を見ていると、オバマ大統領の方に問題があるとしか思えません。というのは2年前の大統領再選を賭けた選挙で、法人税減税の28%への引き下げを公約していたのは、オバマ大統領自身であったからです。25%への引き下げを公約に掲げていたロムニー候補に対抗するため、というのもあったでしょう。しかし私が度々演説で聞いていたのは、「雇用を海外に移すような愚かな税制は改めなければならない」という主張でした。当時はまだまだ雇用情勢が厳しい時でしたら、当然のことながら、アメリカのビジネス界は、オバマ大統領が再選されれば法人税も引きさげらると見込んでいたと思います。

しかし実際に再選されてから起こったのは2012年末にかけての「財政の崖」や2013年10月のアメリカ国債デフォルト危機です。いずれも法人税減税を求める共和党に対し、オバマ大統領は既に何度も延長されてきた失業保険給付の、更なる延長などと抱き合わせでしか応じない姿勢を貫き、その度に財政協議が暗礁に乗り上げてきたのです。

法人税の引き下げは世界的な傾向です。アメリカ企業は、当然この流れに従ってアメリカでも法人税率が引き下げられると我慢強く公約の実現を待っていましたが、中間選挙が迫ってきて公約は果たされそうに無いので遂に今年、シビレを切らして一気にこのような動きに出てきたのです。そのような意味では「非愛国的だ」と言われても、アメリカ企業にとっては「何を今さら」という感じでしょう。アメリカ企業が非愛国的なのではなく、そもそもオバマ大統領の公約違反が原因なのです。企業は淡々とやるべきことをやっているだけということです。

オバマ大統領の支持率低下もあり、中間選挙では上院で共和党の有利が伝えられています。下院の共和党過半数は間違いないでしょうし、これら一連のタックス・インバージョンの動きがきっかけとなる形で、徐々にアメリカの法人税引き下げ議論が活発化していくでしょう。言うまでもなく、法人税率の引き下げは上場企業全ての資本コストを下げますから、株価の上昇要因となります。

さて法人税引き下げ議論は、日本でも活発になっています。日本の報道でいつも気になる点がありますので、最後に一つ指摘しておきたいと思います。よくあるのは、法人税率が最も高いのはアメリカで40%、次に日本、という図が示されることですが、これはかなり誤解を招く比較だということです。というのはアメリカの会社で法人税がかかるのは、Cコーポレーションという形態を取っている会社のみで、全体の2割に過ぎません(上場企業は殆どがCコーポレーションですが)。他の8割の会社においてはパートナーシップなど、二重課税を避けるため法人税の対象外であることが認められている形態です。ですので確かに法人税率だけを見ると一見アメリカが高いように見えますが、実質的な課税対象を考慮すると、やはり日本の法人税は世界一なのです。法人税率を引き下げて海外に移ろうとする企業を引き留めるだけでなく、海外から企業を誘致して国内の雇用を増やし、経済の活性化を図るか。又は世界一の法人税を維持するあまり、法人税を払う企業自体が日本から居なくなってしまうか。この簡単な二択問題は間違わないようにしていただきたいものです。

(2014年7月28日)

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