【今日のまとめ】
- インフラストラクチャ投資の原資として海外利益への課税が注目されている
- 2.4兆ドルの海外利益が貯め込まれている
- 米国政府が徴収すべき法人税、6,950億ドルが徴収できていない
- 政府は海外利益送金に対し1回限り、10%の税金を取れる
- しかし米国に送金した利益を、その後、どう使うか?は口出しできない
- 自社株買戻しが最も起こりやすいシナリオ
インフラストラクチャ投資の原資としての海外利益課税
米国企業が、米国の高い法人税率を逃れるため、海外の法人税率の低い国にペーパー・カンパニーを設立し、そこに利益を貯め込んでいる問題が、しばしば取り上げられます。
今回、大統領選挙で、ヒラリー・クリントン候補が、インフラストラクチャへの積極的な投資を選挙公約として打ち出し、その原資として米国企業が海外に貯め込んだ利益を、1回限り、米国へ特別に低い10%という税率で送金することを許すことを提案しました。
これはもともとオバマ大統領が2015年2月の一般教書演説で提案したアイデアで、連邦道路信託基金を増強するための措置として示されたものを手直ししたプランです。
現在、米国企業が海外にキープしている利益は、2.4兆ドルにのぼると言われています。そのうちの一部が米国へ送金される際、政府が10%の税金を徴収すれば、なるほど連邦道路信託基金を膨らませることは可能です。
米国企業の海外利益の現状
非営利調査政策提言団体、シチズン・フォア・タックス・ジャスティス(租税正義のための市民)によると「フォーチュン500」のリストに載るような米国の大企業は全体として2.4兆ドルの海外利益(アンリパトリエーテッド・インカム)を税率が10%以下の低法人税国に貯め込んでおり、そのために本来であれば米国連邦政府が徴収すべき税金、6,950億ドルが徴収できていないと指摘しています。
米国の法人税率は35%なので普通、企業が海外で稼いだ利益を米国へ戻すと、35%の利益が課せられます。ただし、その際、すでに先方の国で企業が法人税を納めている分については、二重課税を防ぐ意味で課税対象から除外されます。すると米国企業が海外利益の米国への送金の際、たとえば「うちは25%の税率を払っている」と言えば、それは先方の国の政府には10%の税金を払っていることを示唆するというわけです。
いま殆どの先進国は20%以上の法人税を課しているので、10%前後ということになるとそれはタックスヘイヴンを利用していると疑われてもしょうがありません。
海外利益を貯め込んでいる企業
下は海外利益をたくさん貯め込んでいるおもな企業のリストです。
なお、このリストは網羅的ではありません。たとえばヒューレット・パッカードのように最近、2つの企業に分社化したことで計算が困難になった企業は除外しました。
このグラフでは、単純に海外利益の絶対額の多寡を比べているのですが、企業の事業規模はまちまちです。だから海外利益の大きさだけを単純比較するのはフェアではありません。
そこでそれぞれの企業の発行済み株式数で上の海外利益額を割算し、「一株当たりアンリパトリエーテッド・インカム」に直したのが、下のグラフです。
さて、上の「一株当たりアンリパトリエーテッド・インカム」が、現在のそれぞれの企業の株価に比べて、どのくらい大きいのか?は「一株当たりアンリパトリエーテッド・インカム」÷(株価)で計算できます。
するとファイザー、IBM、GE、シスコ・システムズ、メルクなどが多いことがわかります。
海外利益を10%の法人税率で送金した場合、その金で何をやる?
さて、海外利益を、一回限り、米国に10%の法人税率で送ることが出来るという法律が出来た場合、その米国に戻したお金で、それぞれの企業が何をするか?ということについては政府が口出しすることは、できないと思います。
もっとも可能性が高いのは、自社株の買戻しでしょう。
すると上のグラフで一株当たりアンリパトリエーテッド・インカムが株価に占める割合の高い企業は、この法案が成立した際には自社株買戻しが入りやすいと結論付ける事が出来ます。