【今日のまとめ】
- ラグジャリー・ブランド市場は、厳しい環境が続いている
- フォッシル・グループは腕時計ブームが去り苦戦している
- ケイト・スペードは正価とアウトレットのビジネスをハッキリ区別している
- マイケル・コースは百貨店への依存をやめネット販売に注力
- ティファニーは海外旅行客の減少に苦しんでいる
- コーチは商品戦略を一新、良い立場にある
ラグジャリー・ブランド市場の概観
ラグジャリー・ブランドの市場は、たいへん厳しい環境が続いています。
これには四つの理由があります。
まず過去数年に渡って好調だった腕時計のカテゴリーでブームが去ったことが指摘できます。
次にハンドバッグのカテゴリーは、近年、マイケル・コースなどの新しいブランドの参入で、カテゴリー全体が活性化されたのですが、その商機に気が付いたラグジャリー・ブランド各社が雪崩をうつように算入したため、競争が激しくなり、百貨店における過剰在庫を招来しました。
一方、消費者の側に目を転じると中国政府がギャンブルならびに高額商品の消費を抑制する方針を打ち出した事から、香港、マカオ市場におけるラグジャリー・ブランドの売れ行きが鈍りました。また円安を当て込んだ中国から日本に来るインバウンドのブームも一巡した観があります。さらにパリでは去年のテロの後遺症でアジアからの旅行客が減少しています。
最後に米国を中心として消費者の消費行動に変化が出ていることも指摘できます。具体的にはショッピング・モールの客足が減っています。これは景気に対する消費者の漠然とした不安ということに加えて、消費者がスマートフォンを通じてラグジャリー・グッズを買うことがだんだん定着してきていることも関係しています。このためラグジャリー・ブランド各社はネット戦略の強化を強いられています。
フォッシル・グループ
フォッシル・グループ(ティッカーシンボル:FOSL)は腕時計を中心としたブランドです。腕時計は近年、ブームになっていましたが、このところはブームが去り、同社も苦しい経営を強いられています。
スマートフォンが普及するにつれ腕時計をぜんぜんしない若者が増えています。これもカジュアルな腕時計が売れなくなりはじめている原因となっています。
さらに最近はウェアラブルが流行になっており、ウェアラブルで時間を知る用は足りてしまうので、腕時計はさらに出番が無くなっています。
このような大きな時代の流れに対応するため、フォッシルはウェアラブルへの参入を進めています。伝統的なウォッチのデザインを保ちながらウェアラブルの機能性を兼ね揃えた、いわゆる「ハイブリッド」と呼ばれる新製品も企画しています。
伝統的な腕時計市場は650億ドル市場です。一方、今年のウェアラブル市場は400億ドル市場と言われており、ウェアラブル市場を上手く攻略できれば、フォッシルの対象マーケットが拡大することが考えられます。
フォッシルはクリスマス商戦に向けて8つのブランドから成る新製品を出す予定です。通常、クリスマスを含む12月期は1年の腕時計の売上高の約半分が売り上げられる大変重要な時期です。この戦略変更が上手く行くかどうかは未だわからないと思うので、現在のフォッシル株はハイ・リスクな状況に置かれていると考えるべきでしょう。
ちなみに先の第2四半期(6月期)決算は、EPSが予想8¢に対し12¢、売上高が予想6.71億ドルに対し6.85億ドル、売上高成長率は前年比-7.4%でした。グロスマージンは340ベーシスポイント下がり51.9%でした。
同社は銀行団との融資条件に関する合意に基づき、自社株買戻しプログラムを一旦終了させます。
同社を巡る環境は、米国の卸売ライセンス・ブランド腕時計市場を中心として依然としてたいへん厳しいものの、自社ブランド「Fossil」、「Skagen」は善戦しました。
また女性向けハンドバッグに代表される革製品、ウェアラブルが好調でした。
2016年通年のEPSは予想$2.03に対し新ガイダンス$1.80~$2.65が提示されました。売上高は予想30.6億ドルに対し、新ガイダンス30.7~31.7億ドルが提示されています。
DPS 一株当たり配当
EPS 一株当たり利益
CFPS 一株当たり営業キャッシュフロー
SPS 一株当たり売上高
ケイト・スペード
ケイト・スペード(ティッカーシンボル:KATE)はハンドバッグ、小物などを中心としたブランドです。
同社はファッショナブルなハンドバッグで有名ですが、このカテゴリーは新規参入が多く、過当競争の様相を呈しています。
同社の場合、新しいスタイルである「キャメロン・ストリート」が好評です。しかし需要に比べて在庫が不十分だったことで商機を逃した観があります。
売れ筋商品はなるべく正価で販売し、過当競争になっているアウトレットのビジネスとハッキリ区別をつけることで正価のビジネスにおけるブランド・イメージの保全に努めています。
百貨店の客足は低調であり、来店客の買い上げ単価は上がっているものの、卸売市場への出荷には細心の注意を払っています。
8月3日に発表された同社の第2四半期決算はEPSが予想14¢に対し19¢、売上高が予想3.18億ドルに対し3.2億ドルでした。売上高成長率は+13.9%でした。
2016年のEPSは予想78¢に対し、新ガイダンス63~70¢が提示されました。売上高は予想14.1億ドルに対し、新ガイダンス13.7~14億ドルが提示されました。
マイケル・コース
マイケル・コース(ティッカーシンボル:KORS)は若々しいイメージの、流行に敏感な商品を次々に出すことでハンドバッグ・ブームの火付け役となった企業です。
しかし同社は百貨店や卸売市場への依存度が高く、それらのパートナー企業が過剰在庫を抱えて割引クーポンや「フレンズ&ファミリー特売日」などの販売促進に邁進したため、ブランド・イメージが毀損されるリスクに晒されました。
一例として数量ベースでは二桁成長しているのに、売上高が殆ど足踏みしているということは、それだけ製品単価が下がっているということを示唆します。
このような状態を放置するとブランドに傷がつくという考えから、同社は卸売市場への商品の供給を絞り込み、代わりに自社店舗やネット販売など、ブランド・イメージを自分で管理しやすい経路に販売の中心をシフトしています。
8月10日に発表された同社の第1四半期(6月期)決算では、EPSが予想74¢に対し88¢、売上高が予想9.52億ドルに対し9.88億ドルでした。売上高成長率は前年比+0.2%でした。既存店売上比較は-7.4%でした。
ショッピング・モールから客足が遠ざかったこと、観光客の客足が低迷したことなど、同社を巡る経営環境は厳しいです。
同社はデジタル戦略に力を入れており、一例としてLINEでのキャンペーンは2日で100万人のフォロワーを集めました。さらにフェイスブックではジオ・ターゲティング戦略を展開しており、細かくターゲット顧客を絞り込んだ丁寧な販売促進を目指しています。
2017年通年のEPSは予想$4.59に対し、新ガイダンス$4.56~4.64、売上高は予想46.6億ドルに対し、新ガイダンス47.1億ドルが提示されました。
ティファニー
ティファニーは宝石、ジュエリーなどのブランドです。
8月25日に発表された同社の第2四半期(7月期)決算は、EPSが予想72¢に対し84¢、売上高が予想9.31億ドルに対し9.31億ドルでした。売上高成長率は-5%でした。
既存店売上高は米国が-6%、ワールドワイドが-9%でした。
米国の消費者はショッピング・モールから遠ざかっています。観光客に関しては、中国からの観光客が低迷しました。
現在、サンフランシスコ、バンクーバーなどの店舗をリニューアル中で、それが今後の営業成績に影を落とすリスクがあります。
アジア太平洋市場は平均単価の下落、ボリュームの下落などで低迷しました。中国、韓国はまずまずでしたが、香港、マカオ、台湾、シンガポールなどは低調でした。
日本市場は売上高+10%、既存店売上比較+13%でしたが、これは為替に助けられた部分が殆どです。実際、中国から日本への観光客は減りつつあります。
欧州市場はパリのテロ事件の影響で、アジアからの観光客が減りました。このため欧州での既存店売上比較は二桁下落しました。
その反面、ロシアと英国は好調でした。英国はEU離脱を巡る国民投票の後のポンド安で観光客が増え、それが寄与しました。
今回の決算は事前ガイダンスを少し上回ったものの、厳しい環境に鑑み、通年のガイダンスはいままで通りのものを維持することにしました。
2017年度のEPSは予想$3.62に対し$3.60~3.68を予想しています。
コーチ
コーチ(ティッカーシンボル:COH)はマイケル・コースが台頭してきた際、経営陣の対応が遅れ、業績を落としていました。
しかしデザイナーを入れ替え、同社の得意とするサドルバッグなどの伝統を上手く最新のファッションとミックスした商品戦略を打ち出したことで、現在はラグジャリー・ブランド各社の中で最もフレッシュなラインナップとなっており、過剰在庫の問題にも悩まされていません。
8月9日に発表された同社の第4四半期(9月期)決算では、EPSが予想41¢に対し45¢、売上高が予想11.7億ドルに対し11.6億ドルでした。売上高成長率は前年比+15.0%でした。
北米の売上高は+9%でした。また北米の直販は+10%でした。既存店売上比較は+2%でした。これにはネット販売が含まれています。ネット販売は既存店売上比較を1パーセンテージポイント押し上げました。
海外売上高は+15%でした。中国は+5%で、既存店売上比較もプラスでした。その反面、香港、マカオは低調でした。
日本市場はドル建てで+7%、為替要因を除くと-5%でした。
近年買収したスチュワート・ワイツマン部門では、得意のブーツの他に、パンプスやサンダルにも商品を広げています。