【今日のまとめ】
- ヒラリー・クリントン候補が薬価高騰問題を解決するための政策提言を発表
- 後発医薬品部の予算増額、患者自己負担分の値上げ率に上限を設ける、新規参入を遅らせる和解金の支払いなどの非競争的行為の禁止が提言された
- 今回の政策提言の背景には「エピペン問題」がある
- 製薬会社の強欲というよりは自由競争の欠如が問題
- 略式新薬承認申請(ANDA)の審査待ちのバックログ解消が急務
- クリントンの提言はポイントを突いたものなので、彼女が大統領になると製薬会社の収益環境は厳しくなる
ヒラリー・クリントン候補の政策提言の内容
米国の大統領選挙は11月8日の本投票に向けて熱気を帯びています。いよいよ9月26日には民主党の推す大統領候補ヒラリー・クリントン氏と共和党の推すドナルド・トランプ候補がニューヨークで第一回テレビ討論会を行います。
これに先がけて9月2日(金)にヒラリー・クリントン候補が、最近、注目されている薬価の高騰問題に関し、それを解決するための政策提言を発表しました。
かいつまんで言えば、その提言の骨子は:
- 米国食品医薬品局の後発医薬品部(Office of Generic Drugs)の予算を直ちに増額し、未処理になっている略式新薬承認申請(ANDA)の審査にすぐにとりかかる
- 継続して薬を使用しなければいけない患者の自己負担額の毎年の値上げ率に一定の上限を設ける
- 新規参入を遅らせる目的で先発医薬品メーカーが後発医薬品メーカーへ和解金(Pay-for delay)を払うなどの非競争的な行為を禁止する
などから成っています。今日はこの政策提言が製薬会社に与える影響について考えてみます。
エピペン問題
クリントン候補がこの政策提言を行った背景には「エピペン問題」があります。
エピペンとはアドレナリン自己注射薬を指します。特定の食品に強いアレルギー反応を示す患者は、急性アレルギー反応に襲われたら一刻を争います。そこで応急的にショックを緩和するため、普段からエピペンを携行し、症状が出たら自分でそれを投薬するのです。
この薬が必要な患者にとっては、エピペンは命に関わる重要な薬です。ところがこの薬が400%も値上げされたことから製薬会社の暴利に対し、世間からの風当たりが強くなったというわけです。
エピペンのメーカーは保険会社、ディストリビューター、薬剤給付管理会社(PBM)などの中間業者に支払われるコストが上昇しているのが値上げの背景であると主張しました。
これに対してPBMのロビイスト組織である薬学ケアマネージメント協会(PCMA)は強烈に反発しており、罪のなすりあいの様相を呈しています。
競争の確保の重要性
しかし如何に製薬会社が強欲でも、競争が激しければ無理な値上げは出来ません。値上げが出来る背景には、競合薬が無いという条件が必要になります。
そこで後発医薬品の承認をスピードアップすることが決め手になるのです。
しかし新薬や後発医薬品を承認するためには米国食品医薬品局もそれなりの労力を使い、その薬が安全であることを確かめなければいけません。つまり審査にかかる費用も莫大だということです。
現在、略式新薬承認申請(ANDA)の審査待ちになっている案件は2年分もあります。ヒラリー・クリントンの政策提言の中に後発医薬品部の予算増額が盛り込まれているのはこのためです。
薬品株への影響
今回のヒラリー・クリントン候補の政策提言は全体的にポイントをおさえた、効果的な政策だと評価できます。したがってもし11月の大統領選挙で彼女が勝った場合は製薬会社にとって競争激化と価格プレッシャーを意味することになると思います。つまり薬品株は、引き続き投資しにくい環境になるということです。