【今日のまとめ】
- 人民元が3%切り下げられた
- 輸出不振による労働争議の頻発が背景にある
- IMFの特別引出権の準備通貨に人民元を加えることは、ほぼ確実になった
- 輸出が息を吹き返し、ストライキが減るまでは人民元の切り下げは続く
- 中国経済の鈍化で世界経済は推力を失った
- このタイミングでFRBが利上げすると、ぶちこわしになる
人民元が切り下げられた
最近の中国経済を巡る最大のニュースは人民元が切り下げられたことだと思います。
切り下げ幅は3%です。
輸出不振が切り下げの原因
中国が人民元の切り下げに踏み切った背景には、輸出の不振があります。7月の輸出は-8.3%でした。
ドル高が中国の輸出不振を招いた
米国が量的緩和政策を止め、利上げを視野に入れはじめたことで、去年からこのかた、ドル高基調が続いてきました。
そのことは、人民元もドルにペッグされていることから、実質的な人民元高を意味します。
人民元が他のアジア通貨に比べて強くなり過ぎたことが輸出の不振の一因だったのです。
輸出不振はストライキの増加を招いた
こうした輸出の不振は、広東省を中心とする中国の製造業の拠点における景気減速を招きました。輸出業者の中には資金繰りに困り、従業員への給与の支払いが滞る事例が出ています。
これに対して従業員はストライキにより抗議しています。
中国政府はストライキの頻発を憂慮しています。今回、速やかな人民元の切り下げが実行されたひとつの理由はこれです。
IMFの準備通貨に人民元が加わる
人民元切り下げのもうひとつの動機は国際通貨基金(IMF)の特別引出権(SDR)の準備通貨に、人民元も加えて欲しいということを、中国政府がIMFに対して働きかけていることが原因です。
IMFは大筋としてSDR準備通貨への人民元の採用に賛成の立場を示していますが、条件として人民元を米ドルにペッグすることをやめるべきだとアドバイスしています。
このアドバイスを中国が受け入れ、人民元を切り下げたことで、SDR準備通貨への人民元の採用は、ほぼ確実となりました。
今後の人民元のレートですが、輸出が調子を取り戻し、ストライキが鎮静化しなければ、再度、もう一段の切り下げが行われる可能性も強いです。なぜなら国内の民心を安定させることは中国政府が最も気を配っていることだからです。
世界経済はスローダウンする
中国経済の成長が鈍ってきていることは、世界に影響を及ぼします。なぜなら世界のGDP成長に対する寄与度としては中国が36%を占め、最も貢献しているからです。
このことは今後、世界のGDP成長予想は下がってくることを意味します。実際、米国を除けば、世界は再びリセッションと紙一重のところまで追いつめられていると言っても過言ではありません。原油価格をはじめとするコモディティ価格が急落し、米国債が買われているのは、いずれも景気後退リスクを反映する動きに他なりません。
米国の利上げは世界の流れに逆行
さて、米国では9月か12月に政策金利であるフェデラルファンズ・レートが引き上げられると見られています。
これはアメリカ国内だけの文脈で見れば正しい金利政策なのかも知れませんが、上で述べたような世界の文脈からすれば「空気が読めてない」行為です。
リーマンショック以降、新興国は米ドル建ての借金をずいぶん増やしました。
すでにこのところの人民元の切り下げで新興国通貨は荒れ模様となっています。新興国通貨の下落は米ドル建ての借金の返済負担が雪だるま式に増えることを意味し、これは大きな潜在リスクになります。
そのようなタイミングで米国の連邦準備制度理事会(FRB)が金融引締めを決めると、世界の金融市場は相当荒れることが予想されます。
兎に角、米国と中国という世界で第1位と第2位の経済が、金融政策の面で真逆の事をやろうとしているというのは大変居心地の悪い状況であり、イベント・リスクは極めて高いと言えます。