【今日のまとめ】
- ウエスタン・ユニオンは代理店モデルを採用している
- マネーグラム・インターナショナルはウォルマートの離反で苦戦
- ズームはペイパルから買収提案を受けた
- キウイは急成長かつ潤沢な営業キャッシュフローを誇っている
- ペイパルはイーベイからスピンオフされ独立の株として取引開始される
国際送金サービスとは?
国際送金サービス(Global money transfer services)は、銀行間の電信送金(Wire transfer)以外の方法で、遠くの相手にお金を送金するサービスの総称です。
普通、機関投資家や企業は銀行間電信送金で送金します。しかし銀行間電信送金は手数料が高いので、少額の送金には向きません。また個人の場合、銀行口座を持っていない相手には送金出来ません。これは銀行サービスが普及していない新興国の場合、特に障壁となります。
国際送金サービスは、小口の送金や決済に適しています。そして銀行口座が無い人でもお金を受け取ることが出来ます。
国際送金サービスの市場は巨大で、急成長しています。世界銀行の試算によれば、2014年の国際送金サービスの送金額は1,870億ドルでした。最も大きな市場はインド、中国、フィリピン、メキシコでした。
国際送金サービスの業者の中には、ウエスタン・ユニオンのようにテレックスの会社から送金サービスに転身したところもありますし、キウイのようにインターネットが登場した後で、その国固有の事情を反映し、ユニークなビジネスモデルを考案した企業もあります。つまりビジネスの構築に際しては、これといった決まった法則は無く、各社がユニークな特徴を出しているのです。
主な企業にはウエスタン・ユニオン(ティッカーシンボル:WU)、マネーグラム・インターナショナル(MGI)、ズーム(XOOM)、キウイ(QIWI)、ペイパル(PYPL)があります。
なお国際送金サービスは米国愛国者法(USA PATRIOT ACT)と呼ばれるマネーロンダリングを防止するための法律によって厳しく規制・監視されています。米国財務省の中の外国資産管理局(OFAC)が監督当局になります。
ウエスタン・ユニオン
ウエスタン・ユニオン(ティッカーシンボル:WU)は1850年代に電報の会社としてニューヨーク州ロチェスターで創業しました。1950年代にはテレックス網を構築し、商社や通信社にとって欠かせない通信手段となりました。しかしファックス、電子メールなどの普及で、テレックスは次第に廃れてしまいました。
そこで同社は広範な通信ネットワーク網を活用し、送金サービスの事業に参入しました。そしてこの事業でマーケットシェア・リーダーだったファースト・データ・コーポレーションと1995年に合併しました。2006年にファースト・データは送金サービス事業をウエスタン・ユニオンとしてスピンオフし、株式上場されました。
このように歴史のある会社なのでウエスタン・ユニオンと言うブランドは消費者に認知され、信頼されています。
世界200か国に50万か所の代理店があり、送金依頼を受け付け、あるいは届いたお金を受取人に渡すサービスを行っています。
現金を送りたい人はウエスタン・ユニオンの代理店で現金を渡し、代理店は受取人の最寄のウエスタン・ユニオンの代理店にメッセージを送ります。そのメッセージを受け取った代理店は、受取人にお金が届いたことを知らせ、本人が代理店に来たら、その場で現金を支払います。
これが同社の基本サービスですが、最近はウェブサイトからの送信も受け付けるようになっていますし、現金だけでなく銀行口座でお金を受け取る、あるいはマネー・オーダーでお金を受け取ることも一部のロケーションでは可能になっています。
ウエスタン・ユニオンは送り手からフィーを徴収します。そのフィーの中から、送り手側の代理店、ならびに受取人の側の代理店の両方に、コミッションを支払います。
このように同社のサービスは代理店を介する関係で比較的割高ですが、ウォークイン、すなわち「一見さん」のお客でもお金を送り、受け取ることが出来る点が強味となっています。
同社の送金回数は着実に増えています。
ただ同社のサービスを利用するのは主に移民や出稼ぎ労働者であることから、政情不安の影響を受けることがありますし、新興国の為替の急落などもリスクになります。
ウエスタン・ユニオンは積極的に自社株を買い戻しています。
- 【略号の読み方】
- DPS 一株当たり配当
- EPS 一株当たり利益
- CFPS 一株当たり営業キャッシュフロー
- SPS 一株当たり売上高
マネーグラム・インターナショナル
マネーグラム・インターナショナル(ティッカーシンボル:MGI)は普段、あまり銀行に縁の無い人々を主な顧客としています。このグループを同社は「アンダー・バンクト(Underbanked)」と呼んでいます。世界銀行の試算では世界の人口の約半分がアンダー・バンクトに分類されるとしています。
マネーグラム・インターナショナルは世界200か国の35万か所に代理店を持っています。
同社は2014年からコールセンターをポーランドのワルシャワに移転し、そこから27か国語による24時間体制のサポートを行っています。
同社はもともとヴィアド・コーポレーションの一部門でしたが2004年に独立会社としてスピンオフされました。それ以降、プライベート・エクイティからの出資を含め、数度の資本再構成を経験しています。
同社の代理店の中で最大のものはウォルマート(ティッカーシンボル:WMT)で、代理店フィーの22%を占めています。ウォルマートは去年から自社で国際送金サービスを開始しており、マネーグラム・インターナショナルのビジネスを圧迫しています。
ズーム
ズーム(ティッカーシンボル:XOOM)はすべての送金を、ネットないしは携帯電話を通じて受け付けます。
お金を送金しようとするユーザーは、アメリカの銀行口座を開設する、ないしはクレジットカード、デビット・カードを持っている必要があります。どの銀行でもOKです。
キャッシュを受け付けない関係で、代理店などにコミッションを払う必要はありません。同社の送金はACH(自動クリアリングハウス・システム)と呼ばれる決済システムを通じて処理されます。ACHは処理に時間がかかりますが、銀行間電信送金より安いです。
ズームの顧客は米国に加えて32か国でお金を受け取ることが出来ます。それに加えて5か国で公共料金などの支払いをすることが可能です。母国の家族に代わって、公共料金をアメリカから支払うことも出来ます。
お金の受け取り手は、自分の慣れている手法でお金を受け取ることが出来ます。具体的には銀行口座への振込、パートナー店舗におけるキャッシュの受け取り、またドミニカ共和国とフィリピンでは自宅までキャッシュを届けるサービスもあります。
携帯電話送金アプリは2013年半ばからサービス開始しており、現在、ズームの送金額の55%は携帯からの送金となっています。
同社がこれまでに扱った送金額は下のグラフのように推移しています。
ズームの稼働顧客数は下のように推移しています。
新規顧客獲得コストは下のようになっています。
だんだん新規顧客獲得コストが増えているのは、懸念材料です。
送金回数は下のように推移しています。
ズームは2012年から2013年にかけて発行済み株式数が505万株から3,791万株に急増した関係で、一株当たりの売上高が大幅に下がっています。
なおズームは7月1日にペイパルから買収提案を受けました。一株当たり25ドルの提示価格です。
キウイ
キウイ(ティッカーシンボル:QIWI)はロシアを中心とする国際送金サービス会社です。本社はロシアのオフショア金融センターの役目を果たしているキプロスのニコシアに所在しています。
同社はオンライン・ペイメント、モバイル・ペイメントなどの送金・決済サービスを提供しているほか、18万か所にのぼる現金を受け取る、あるいは払い出すキオスク(=代理店)ならびに現金自動預け払い機(ATM)網を持っています。ロシアやカザフスタンでは銀行の店舗が少ないため、キウイのATMは重宝されています。
消費者はキウイを通じて支払をしようとする際、まずキウイのATMに自分の携帯電話の電話番号を入力し、現金を預け入れします。するとキウイのオンライン口座(バーチャル・ウォレット)に残高が記載され、そこから公共料金の支払いや送金、プリペイド式携帯電話の料金支払い、オンライン・ショッピング、プリペイド・カードの取得、ローンの支払いなどが可能になるわけです。
同社はオラクルのデータベースに基づいた独自の決済ネットワークを構築しています。またキウイというブランドはロシアではよく知られており、ビザカードとも提携しています。
現在、キウイのバーチャル・ウォレットは1,720万人に利用されています。
ロシアの電子マネー市場は年率20%で成長しています。
ロシアで電子マネー市場が急成長している理由は、伝統的にロシアは銀行サービスが未発達で、現金による決済が90%近くを占めていたことによります。また国土が広く、銀行の支店網も充実していませんでした。
キウイのユーザーは携帯電話使用料などの毎月発生する支払いをキウイで行っているため、安定したリピート・ビジネスが見込めます。
ひとたびインフラストラクチャを構築してしまえば、その後の費用は固定的なので営業レバレッジが発生します。同社の営業キャッシュフローは潤沢で、急成長しています。
一方、同社を巡るリスクとしては、まず競合他社の存在が挙げられると思います。ロシア国内ではズベルバンクなどの銀行がインターネット・バンキングを提供していますし、検索エンジンの会社、ヤンデックス(ティッカーシンボル:YNDX)がヤンデックス・マネーというサービスを展開しています。
次にロシアに固有なリスクもあります。ウクライナ紛争でEU、米国など西側諸国がロシアに対し経済制裁を実施しています。この関係でルーブルは急落しており、ロシア国内はインフレに見舞われています。キウイは為替変動リスクにさらされるだけでなく、ロシア経済の低迷は送金のボリュームにも影響するリスクがあります。
最後に同社のビジネスモデルにまつわるリスクとしては、同社の代理店が消費者に課すフィーは代理店が任意に決めており、キウイにそれを変更する権限が無いことが指摘できます。
それらを断った上で、同社の業績を見ると大変安定的に成長しているし、営業キャッシュフローの多さも目を見張るものがあります。
なお7月17日の時点で100ルーブルは1.76ドルです。このレートを2014年のEPSに当てはめるとドル建てのEPSは$1.62になります。
ペイパル
ペイパル(ティッカーシンボル:PYPL)は1998年に創業されたデジタル・ペイメントの企業です。
同社は現在、1.62億の稼働口座数を誇っています。
1日あたり1,250万回、年間で39.6億回のデジタル・ペイメントを処理しています。
同社はイーベイ(ティッカーシンボル:EBAY)の一部門でしたが、スピンオフされることになり、7月20日から独立の会社として正規の取引(regular-way)が開始されます。
ペイパルは消費者ならびにマーチャントに対してトランザクション・フィーを課すことで売上高を上げています。それに加えて各種付加価値サービスを提供し、それらに対するフィーならびに金利収入も得ています。
ペイパルの2014年の年間売上高は80.3億ドル(前年比+19%)、取扱高は2,346億ドル(同+26%)でした。
いま単純に同社の年間売上高を取扱高で割算すると3.4%となります。ざっくり言ってこれが同社の手数料率だとみなすことが出来ます。
同社の業績は下のように推移しています。
なお2014年のプロフォーマ(Pro Forma=見積もり上の)一株当たり利益(EPS)は31¢でした。