【今日のまとめ】

  • 米国のeコマース市場は着実に成長している
  • アマゾンは利益重視の経営に舵を切った
  • イーベイはペイパルをスピンオフすることで含み価値の顕在化を目指す
  • フリーランス・エコノミーの登場とともに新しいeコマース企業が登場している
  • エッツィーは美しく、心のこもった商品を買いたいというニーズに応えている

eコマース企業の近況

米国の消費者は実店舗ではなくネットでモノを買うことが多くなっています。これを反映してeコマースが全消費に占める割合は着実に増えています。

2014年第4四半期のeコマース比率は6.7%でした。

アマゾン

1月30日に発表されたアマゾン(ティッカーシンボル:AMZN)の2014年第4四半期決算は、EPSが予想16¢に対し45¢、売上高が予想296.3億ドルに対し293.3億ドル、営業利益が予想1.8億ドルに対し5.91億ドルという内容でした。

第1四半期の売上高に関しては予想229.6億ドルに対し、新ガイダンス209~229億ドルが提示されました。同じく営業利益に関しては予想1.46億ドルに対し、新ガイダンス5,000万ドル~1.45億ドルが提示されました。

このように売上高とガイダンスが予想を下回ったにもかかわらず、アマゾン株は決算発表後しっかりした展開になりました。その理由は下のグラフに見られるように営業マージンが黒字に戻ったからです。

アマゾンはこれまで利益を犠牲にしてマーケットシェアを取りに行く、積極的な経営戦略を敷いてきました。

当初投資家はアマゾンのそういう戦略を支持していたのですが、去年の後半になって赤字幅が増えるにつれ、「そろそろ赤字を何とかして欲しい」という声が強まりました。

そこで今回は費用をある程度絞り込み、「出そうと思えば、ちゃんと利益を出せるのだ」ということを証明したわけです。

イーベイ

イーベイ(ティッカーシンボル:EBAY)が1月22日に発表した2014年第4四半期の決算はEPSが予想の89¢に対し90¢、売上高が予想の49.3億ドルに対し49.2億ドルという内容でした。2015年のEPSは予想$3.26に対し、新ガイダンス$3.05~$3.15が提示されました。

イーベイは今年の後半にペイパル部門を別会社としてスピンオフする計画です。そうする理由は本体のマーケットプレース部門の成長率がグロス・マーチャント・ボリューム(=取扱高)ベースで+2%程度しか成長しておらず、一方のペイパルは+20%以上成長しているからです。

両者を切り離すことでペイパルの価値を顕在化させるのがスピンオフの狙いです。

ペイパルは自社株を買い戻しており、これが一株当たり利益の数字を押し上げています。

フリーランスの時代到来で新しいeコマース企業が誕生

日本でも最近、派遣やパートなどの正社員ではない雇用形態が増えていますが、アメリカではフリーランスが労働力の3分の1を占めており、その数は5,300万人にのぼります。

ピュー・リサーチ・センターの2012年の調査によれば、米国の中流家庭の85%が「10年前に比べて生活の水準を維持することが困難になった」と感じているそうです。そのような状況下で、女性を中心に、家計の足しにするために、手芸・工芸などの趣味を生かして副業を始める人が増えています。

こうして作られた作品を気軽に販売するためのマーケットプレースとしてエッツィー(Etsy)というサイトが登場し、新しいトレンドを生んでいます。

アマゾンなどのeコマース大手との違い

エッツィー(ティッカーシンボル:ETSY)のビジネスモデルはアマゾンとはかなり異なります。

なぜならエッツィーは手芸・工芸品の作り手と、「ここにしかない」ユニークな作品を求める消費者を、ウェブ上で引き合わせることを目指しているからです。

従って工場で大量生産された画一的な商品を仕入れて倉庫に在庫として保管し、受注するたびにそこから発送するという小売業のビジネスモデルではありません。この面では中国のeコマース企業、アリババ(ティッカーシンボル:BABA)に似ています。

エッツィーは売り手がエッツィーのサイトに商品を掲載する毎に20¢の掲載料を徴収し、さらにその商品が売れた際には売値の3.5%をフィーとして受け取ります。商品そのものは出品者から消費者に直接発送されます。

この商品の発送の部分は、イーベイに似ています。

手作りのトレンド

今日の消費者は、アップルのiPhoneに代表されるように、高度にエンジニアリングされ、アジアで組み立てられたハイテク商品を日頃愛用しています。

その一方で、誕生日やクリスマスなどの特別な日には、世界に一つしかないようなユニークな手作りのギフトをプレゼントしたいと望んでいます。

そのような美しく、気持ちのこもった商品を発見できる場所が、エッツィーなのです。

エッツィーでは刺繍(ししゅう)、絵画、彫刻、置物、ネックレス、指輪、バッグ、スカーフ、蝋燭(ろうそく)、ブランケットなど、あらゆる商品が出品されているほか、ビンテージのコレクター・アイテムなども見つけることが出来ます。

そのような作品を買い求める消費者は、作り手との連帯感を重要視します。ウェブを通じてコミュニティを形成すると言う点では工務店、庭師などを紹介するサイト、アンジーズ・リスト(ティッカーシンボル:ANGI)に似ている面があると思いますが、アンジーズ・リストは会費を取る、いわゆるサブスクリプション・モデルであり、その点がエッツィーとは異なります。

量販店では当たり前になっている、SKU(ストック・キーピング・ユニット)による管理という発想は、エッツィーにはありません。

現在、エッツィー上では3,000万アイテムが出品されています。また140万人の作り手がエッツィーに出品しています。2014年末の時点でのアクティブ・セラー数は135万人でした。

2011年からエッツィーを通じて自分の作品を売っている、ベテランの売り手の場合、一人当りで平均して年間4,300ドルほどの売上がありました。

これまでにエッツィーを通じて1,980万人が商品を購入しました。

このうちの4分の3がリピート・バイヤーです。2011年からエッツィーで買い物をしている常連客の場合、2014年は平均して年間195ドルの買い物をしました。

フリーランスの作り手を、どう支援する?

エッツィーに出品する作り手の大部分は、工場ではなく、自宅で制作に励んでいます。作り手の4分の3は「自分がやっていることは、ビジネスだ」と自覚しています。

ただこれらのクリエーターの強みはあくまでも魅力的な作品を作る事であって、ビジネス・マネージャーとしての資質があるかといえば、必ずしもそうとは限りません。

従ってエッツィーは、それらの商売が得意じゃないクリエーターを、どう支援するか考えてあげる必要があります。

典型的な出品者は、自分の時間の半分を制作に割き、残りの時間で商品の発送管理、経理などの雑務をこなしています。どのように自分の作品をプロモーションしてゆくかについては、余りアイデアが無い人が多いです。

そこでエッツィーはプロモーテッド・リスティングというカタチでその商品をハイライトし、販売促進することを有料で請け負うサービスを展開しています。広告を出すことも出来るし、ギフトカードを使えるようにすることもしています。

さらにクレジットカードによる決済を可能にし、商品が売れたときはウェブサイトからダイレクトに発送ラベルが印刷できるようなサービスも展開しています。

これらのもろもろのサービス・フィーが、エッツィーの売上高の42%を占めています。

エッツィーのウェブサイト上で成立した売買は、グロス・マーチャント売上高(GMS)と呼ばれます。去年のGSMは19.3億ドルでした。

なおGMSのうち30.9%が海外でした。

エッツィーの売上高は下のグラフのように推移しています。

2014年のそれぞれの売上項目の成長率は、マーケットプレースでの掲載料・フィーが+38.4%、プロモーション・フィーに代表される、売り手に対するサービスが+92.7%でした。

エッツィーのこれまでの業績は下のグラフのようになっています。

【略号の説明】
DPS 一株当たり配当
EPS 一株当たり利益
CFPS 一株当たり営業キャッシュフロー
SPS 一株当たり売上高

リスクについて

さて、エッツィーのリスクですが、まず作り手が本当に手作りで、気持ちを込めた商品を出品しているかどうかが常に問われると思います。折角、ここでしか手に入らないユニークな商品を買い求めようと思ったのに、実は大量生産されていた……というのでは表示に偽りがありますし、買い手をがっかりさせます。

ただどこまでが手作りで、どこからが量産品か? という定義は、案外難しいです。そして作り手の側からすれば、より沢山の商品を販売することで売上を伸ばしたいと考えるのは自然なことです。

次に作り手が成功すればするほど、エッツィーを必要としなくなる可能性もあります。エッツィーで販売する限り、売買成立時に3.5%のフィーを払わなければいけないので、それを避けたいと考える作り手も出てくると思われます。

またエッツィーが米国以外のマーケットに展開した場合、国際間の商品の発送でトラブルが生じたり、納税の問題などが生じる可能性もあります。

またこれはアリババでも起こった問題ですが、商品が偽物だったり、品質がわるかったりすると買い手がエッツィーを信用しなくなるリスクもあります。