【今日のまとめ】
- ハンバーガー市場は巨大で寡占されているが、曲がり角に来ている
- 食材がどこから来ているか? に関して消費者が強い関心を持ち始めている
- フレッシュな食材をその場ですべて調理するコンセプトが支持されつつある
- ハビット・レストランツは軽くてヘルシーな炭焼きハンバーガーでアピール
- シェイク・シャックはライフスタイル・ブランドとしてカルト的な人気がある
曲がり角にきた巨大市場
アメリカのハンバーガー市場は年商720億ドルの巨大市場です。これは外食カテゴリーの中では一番大きく、第二位のピザ市場の二倍以上あります。
一方、グローバルで見るとハンバーガー市場は1,350億ドル市場であり、伝統的に外食産業で最も儲かるカテゴリーでもあります。下は代表的レストラン・チェーンのグローバル・システム売上高(*)です。赤がハンバーガー・チェーンです。
マクドナルド(ティッカーシンボル:MCD)、バーガーキング(ティッカーシンボル:BKW、ウエンディーズ(ティッカーシンボル:WEN)の上位三社でグローバルのハンバーガー市場の85%を寡占しています。
このようにハンバーガー市場は既に序列が決まっており、一見、新規参入は困難のように思えます。
しかし最近、このスケールの大きさが不利に働き始めています。
先ずメジャーなハンバーガー・チェーンは「美味しくない」という不名誉な評判が定着しています。権威ある「コンシュマー・リポーツ」誌が実施した美味しいハンバーガー・チェーンに関する調査では、大手の中で最高の評価を得たウエンディーズ(6.8ポイント)ですら21社中14位に甘んじました。バーガーキング(6.6ポイント、19位)、ジャック・イン・ザ・ボックス(6.6ポイント、20位)、マクドナルド(5.8、21位)の三社は最下位でした。
このランキングで「全米で一番美味しいハンバーガー」に輝いたのはハビット・レストランツ(8.1ポイント)でした。
消費者の関心事
消費者はファーストフード・レストランで出される料理の食材がどこから来ているのかに強い関心を持ち始めています。また効率よく配達するために冷凍された食材などについても、だんだん批判の目を向け始めています。
その代り、地元で採れたフレッシュな野菜や肉を使い、レストランの中で全部調理するというビジネス・モデルを強く支持しています。冷凍された食材を使わないので、解凍のための電子レンジもキッチンの中に置いていないわけです。
このようなコンセプトで大成功した企業に、メキシコ料理のチポトレ・メキシカン・グリル(ティッカーシンボル:CMG)と、サンドイッチやスープのパネラ・ブレッド(ティッカーシンボル:PNRA)があります。
また最近上場された地中海料理のファースト・カジュアル・レストランにゾーイズ・キッチン(ティッカーシンボル:ZOES)があります。
このようなフレッシュな食材を使い、店舗内で全て調理するというコンセプトをハンバーガー・チェーンに応用した企業がハビット・レストランツ(ティッカーシンボル:HABT)とシェイク・シャック(ティッカーシンボル:SHAK)です。
レストラン株が「出世」する局面とは
レストラン株は、まずコンセプトがしっかりしているかどうかがカギになります。それは価値提案という言葉に置き換えても良いでしょう。
「フレッシュでヘルシー」というのはひとつの価値提案ですし、「とにかく早くて安い」というのもひとつの価値提案です。マクドナルドに代表される、第一世代のハンバーガー・チェーンは「早くて安い」という切り口を重視しました。第一世代のハンバーガー・チェーンが今苦戦している理由は、この「早くて安い」という価値提案を消費者が受け入れなくなってきているからです。
ストア・コンセプトは、それが単に時代の要請に応えているというだけでなく、普遍性が無くてはいけません。つまりひとつのロケーションで成功したフォーマットを、他の地域でも容易に再現できないといけないのです。もっと言えば、次々に出店し、成功を繰り返すことが出来ないといけないのです。
こうしてストア・コンセプトが良く練れていることが証明されれば、後はひとつの州、ないしは地域での成功を、全米に、そして全世界に展開してやりさえすれば良いのです。
レストラン株に投資していちばん投資成果が上がりやすい局面とは、ストア・コンセプトの良さが証明された後で、それを愚直に全米展開にあてはめてゆく局面です。
この段階では総店舗数が比較的少ないので、新規出店が売上高成長に与える影響が大きいです。
未だ出店していない地域へどんどん進出する関係で、自社店舗同士が競合するリスクも少ないです。
またストア・コンセプトに新鮮味があるので既存店売上比較は伸びやすいですし、売り場面積当たり売上高などの生産性を示す指標も高い数値を示す場合が多いです。
そうしたポイントを念頭に、最近上場されたハンバーガー・チェーンの内容を吟味したいと思います。
ハビット・レストランツ
ハビット・レストランツは1969年にカリフォルニア州サンタバーバラで創業されたハンバーガー・チェーンです。
フレッシュで高品質な食材を使い炭焼き用のグリルで、直火で焼いたハンバーガーを野菜などのトッピングとともに出すというコンセプトで、ハンバーガーとしては軽くてヘルシーな印象が強いです。
また一切、作り置きしない方針を貫いています。このため来店客から注文を受けるまでハンバーガーをグリルの上に載せることはしません。そのことは逆に言えば注文した品が出来上がるまで待ち時間があることを意味します。ハビットの場合、平均して7分間、待たされます。
来店客は注文し終わると四角いプラスチック製のページャーを渡され、テーブルに着席してそのページャーが点滅するまで待ちます。従って注文カウンター付近での混雑はありません。
店舗は自然光をいっぱい入れる開放的な設計がされており、床は板張りで、インテリアはモダンです。
同社は長い間サンタバーバラ近郊の三店舗だけを細々と経営してきました。しかし2008年に同社のCEOになったラッセル・ベンデルは(消費者の嗜好が高品質の食材をその場で調理したものへ移ってきているので、今こそ積極的に展開すべきだ)と考え、経営戦略を大転換しました。
その後の店舗数は下のグラフのように推移しています。
現在、同社の店舗の大半はカリフォルニア州です。しかし今後、全国展開をしてゆき、ゆくゆく2,000店舗まで持ってゆきたい考えです。
同社は過去10年以上に渡って既存店売上比較がずっとプラスです。
週間平均来店客数は4,574人で顧客単価は$7.56です。店舗当たり平均ユニット・ボリュームは170万ドル、レストラン・コントリビューション・マージンは20%以上、キャッシュ・オン・キャッシュ・リターンは40%以上です。
売り場面積当たり売上高は818ドル/平方フィートで、これはチポトレ・メキシカン・グリルの841ドル/平方フィート、パネラ・ブレッドの555ドル/平方フィートと比べても遜色ありません。
同社の過去5年間の売上高成長率は+44%でした。
過去5年間の修正EBITDA(利払税前償却前利益)成長率は+66%でした。
下は同社の純利益のチャートです。
シェイク・シャック
シェイク・シャック(ティッカーシンボル:SHAK)はニューヨークを本拠としたハンバーガー・チェーンです。
2001年にニューヨーク市がさびれてしまったマジソン・スクエア・パークをお化粧直しするプロジェクトを計画した際、市民の憩いの場として公園内にホットドッグ・スタンドを設けたら良いのではないか?という提案がありました。そこで同公園からそう遠くないところに数々のレストランを展開しているユニオン・スクエア・ホスピタリティ・グループ(USHG)に営業権が与えられたわけです。
このホットドッグ・スタンドが市民から好評だったので、ニューヨーク市はUSHGに恒久的なキオスクを公園内に設置してよいという許可を出しました。これがシェイク・シャック一号店のはじまりです。
USHGはユニオン・スクエア・カフェ、ならびにグラマシー・タヴァーンというニューヨーク屈指の高級レストランを経営しています。その関係で、彼らがハンバーガー・スタンドを作ったときも、グルメ志向の本格的なハンバーガーを目指したわけです。具体的には分厚くて脂の乗っている、ずっしりとした満足感のあるハンバーガーがシェイク・シャックの特徴です。
またハビット・レストランツ同様、新鮮な食材にこだわり、消費者が安心して楽しめる、食の安全性を最優先した調達方針を採っています。
同社は公園、博物館、空港など、市民が自然に集まってくる場所に出店します。店舗のデザインはモダンです。シェイク・シャックはスターバックスと同様、ある種のライフスタイル・ブランドになっており、昼食時の同社の店舗には長蛇の列が出来ます。
同社はニューヨーク州に15店舗、ワシントンDCに4店舗、フロリダ州に4店舗、ペンシルバニア州に3店舗など、米国内に合計36店舗を展開しています。このうち31店舗は自社店舗で5店舗はライセンス契約です。
それに加えて海外ではアラブ首長国連合に10店舗、クウェートに6店舗、ロンドンに1店舗など、合計27店舗を展開しています。これらの海外店舗はいずれもライセンス契約で運営されています。去年の年末時点での総店舗数は63店舗でした。
2015年中には少なくとも10店舗を新規開店する計画です。
シェイク・シャックの既存店売上比較は下のようになっています。
シェイク・シャックの顧客単価は$9.90です。これはかなり高い方です。またシェイク・シャックの平均ユニット・ボリュームは500万ドルです。マンハッタンはとりわけ平均ユニット・ボリュームが高く、740万ドルあります。それ以外の地域は380万ドルです。
レストラン・コントリビューション・マージンはマンハッタンの店舗が30%、それ以外が22%です。
キャッシュ・オン・キャッシュ・リターンは65%で、出店してから1年半で元が取れます。
シェイク・シャックの売上高は下のグラフのように推移しています。過去3年間の売上成長率は年率+62%でした。
同社の2013年の純利益は211万ドルでした。