【今日のまとめ】

  • ウォルマートの顧客はガソリン価格の低下の恩恵を特に受ける
  • ターゲットは去年のクレジットカード情報漏えい事件から立ち直ろうとしている
  • ノードストロームは裕福層から圧倒的に支持されている
  • メイシーズは積極的に自社株を買い戻している
  • JCペニーは業績が悪く、債務の返済に焦点を当てた守りの経営をしている

小売セクターに影響を与える要因

小売セクターは消費者のマインドに大きく左右されます。消費者のマインドは失業率が低くなればなるほど改善することが知られています。10月の失業率は5.8%と、連邦準備制度理事会(FRB)がノーマルな失業率と考える水準まで下がってきています。

もうひとつ支出に影響を与える要因はガソリン価格です。これはアメリカ人の大半がクルマ通勤していることと関係しています。1¢ガソリン価格が下落する毎に消費者のポケットに10億ドルのキャッシュが入ると言われています。

したがって、このところのガソリン価格の下落は、クリスマス商戦に追い風が吹いていることを意味します。

ウォルマート

ウォルマート(ティッカーシンボル:WMT)は年商4,760億ドル(2014年度)を誇る世界最大の小売店です。現在の店舗数はスーパーセンターと呼ばれる大規模店舗が3,288、ディスカウントストアが508店舗、サムズクラブが632店舗、ネイバーフッド・マーケッツが407店舗となっています。これらに加えて南米、アジア、カナダ、英国などで6,107店舗を展開しています。

ウォルマートは店舗の大部分を自社保有しています。米国のウォルマートの売上高のうち食料雑貨類(グローサリー)が55%を占めています。

売り場面積当たり売上高は433ドル/平方フィートです。同社の総従業員数は220万人です。

ウォルマートは1945年にサム・ウォルトンによって創業されました。最初の店舗はアーカンソー州ニューポートで開店しました。1962年までは雑貨屋でしたが、この年、アーカンソー州ロジャーズに初めて「ウォルマート・ディスカウントシティ」と呼ばれるディスカウントストアを開店したのが現在のウォルマートのコンセプトの始まりでした。そこではエブリデー・ロー・プライス(EDLP)と呼ばれる安売り戦略が採られています。(ちなみにEDLPの対局に位置する戦略にハイ・ロー・プライシングと呼ばれる方法があります。これはスーパーマーケットがチラシや特売日を設けることで買い物客を呼び込む方法です)

こんにちウォルマートのスーパーセンターは売り場面積7万から26万平方フィートを誇り、平均すると17.9万平方フィートとなっています。これに対しネイバーフッド・マーケッツは比較的新しいコンセプトであり、平均売り場面積は4万平方フィートです。

ウォルマートの既存店売上比較はこのところずっと低迷してきたのですが、第3四半期(10月期)の決算で、久しぶりにプラスに転じました。このところのガソリン価格の下落が寄与しているものと思われます。

ウォルマートは11月27日の感謝祭の翌日の「ブラック・フライデー」の特売日を、今年は実施しないと発表しました。これは来店客がスマホで瞬時にバーゲンを発見できるようになったため、特売日の効果が薄れたことが原因です。

その代り、11月27日から12月1日にかけて、来店客がウォルマートで売っている商品が他でもっと安い値段で売られていることを告げた場合、その場で価格をマッチングするというキャンペーンを行う予定です。

これはウォルマートのマージンにとって短期的に圧迫要因になると予想されます。しかし品揃え面ではウォルマートが有利なため、客足をウォルマートへ向けさせるには効果的な措置だと思われます。

ウォルマートの決算の〆は1月です。従って下のグラフで2014年とあるのは2014年1月31日に〆た1年間の決算という意味です。

【略号の読み方】

  • DPS一株当り配当
  • EPS一株当り利益
  • CFPS一株当りキャッシュフロー
  • SPS一株当り売上高

ターゲット

ターゲット(ティッカーシンボル:TGT)はカラフルでファッショナブルなマーチャンダイジングに定評のあるディスカウントストアです。

同社はもともとミネアポリスに本店を置くデイトンズという百貨店でした。ターゲットはそのディスカウントストア部門として1962年からスタートしたコンセプトです。その後、デイトンズはライバルの百貨店、ハドソンと合併し、デイトン・ハドソンになります。

2000年にデイトン・ハドソンはターゲットに社名変更し、その後、同社にとって重要性の低下した百貨店を売却し、ディスカウントストアに特化し、今日に至っています。

現在のターゲットの総店舗数は1,793で、カリフォルニア、テキサス、フロリダなどに特に強いです。

店舗の大きさは平均すると13.4万平方フィートです。総従業員数は36.6万人です。主な商品は家庭用品(売上の25%)、ハードライン(18%)、アパレル&アクセサリー(19%)、食品(21%)となっています。

同社の既存店売上比較は下のように推移しています。

2013年はターゲットにとって悪い年でした。この年は既存店売上比較がマイナスに転じたことに加えて12月にターゲットのクレジットカード情報がハッキングされ、個人情報が漏えいしました。このニュースが伝えられるとターゲットから一層客足が遠のき、トランザクション回数は年初来-1.8%で推移しています。

ターゲットは遠のいた客足を挽回するために積極的な値引きを行っています。

ターゲットの会計年度は1月末〆です。従って下のグラフで2014年とあるのは2014年1月31日で〆られた12カ月の業績を指します。

ノードストローム

ノードストローム(ティッカーシンボル:JWN)はシアトルで1901年に靴屋として開業され、その後、百貨店になりました。現在、全米に117店舗を展開しており、全国展開している百貨店としては最高級の部類に入ります。とりわけ同社の店員の接客態度、顧客サービスには定評があります。

同社は、これとは別に140店舗の「ラック」と呼ばれるオフプライス・ストアを展開しています。

売り場面積当たりの売上高は474ドル/平方フィートです。総従業員数は6万3千人です。売上高の12.3%をインターネットで上げています。

同社の売上構成は下のグラフのようになっています。

同社の売り子は歩合制を採用しており、ひとりひとりの店員が、まるで自営業のように自分の営業成績に強い関心を持っています。このためクリスマスカードを常連客に送るなど、パーソナルなタッチのサービスを行っています。

同社のこのようにユニークなカルチャーは、ノードストロームがもともと靴屋、ならびに靴の修理屋からスタートしたことと無縁ではありません。靴のサイズは、それを穿く人の足にピッタリと合う必要があるので、いろいろなサイズの在庫を取り揃える必要があります。さらに靴選びに際しては、サイズやスタイルに関する、売り子とのやりとりが不可欠になります。

そのような事情から、ノードストロームは常に大きな在庫を抱え、品揃えを万全にするとともに、顧客との対話を重視してきました。

商品に不満がある場合は、着た後の服でも快く返品に応じます。そのような姿勢が裕福層の間で支持され、カルト的なフォロワーが形成されています。

同社の既存店売上比較はリーマンショック後低迷しましたが、その後は株式市場の上昇とともに力強く伸びています。同社は裕福層がターゲット顧客なので、資産価格の変動に業績がとりわけ左右されやすいです。

同社の会計年度は1月末〆で、2014年1月31日に〆られた12カ月を2013年度と呼んでいます。

メイシーズ

メイシーズ(ティッカーシンボル:M)は「Macy's」ならびに「Bloomingdale's」という米国を代表する百貨店を展開しています。

総店舗数は839で、その内訳はメイシーズが789店舗、ブルーミングデールズが37店舗、ブルーミングデールズのアウトレットが13店舗となっています。

売上の内訳は下のグラフのようになっています。

メイシーズの扱う商品は景気が良い時に売れやすいハンドバッグや高級化粧品などから構成されている関係で、既存店売上比較は景気や消費者のマインドを敏感に反映します。

同社は来店客が探している商品を、スマホを通じてその場で在庫の有無を確認できるシステムを導入しています。またmacys.comやbloomingdales.comなどのウェブサイトで顧客が注文した商品を、最寄りの店舗でピックアップできるサービスも始めています。メイシーズの場合、全米に839も店舗があるので、ネットと実店舗を組み合わせた「マルチチャンネル」と呼ばれるこの戦略は他社が真似しにくい競争優位と言えそうです。

メイシーズは積極的に自社株を買い戻しており、過去3年半で発行済み株式数は15%近く減少しました。それが一株当たりの業績の改善に寄与しています。

メイシーズも決算の〆は1月末日で、2013年とは2014年1月で締めた12カ月を指します。

JCペニー

JCペニー(ティッカーシンボル:JCP)は1902年にジェームズ・キャッシュ・ペニーによって創業された百貨店です。

同社は全部で1,094店舗の百貨店を全米で展開しており、特に地域的な偏りはありません。売り場面積当たり売上高は107ドル/平方フィートです。総従業員数は11万7千人です。

同社の売上構成は次のようになっています。

同社は近年業績を落としていたのですが、起死回生を図るためアップルからスカウトした百貨店ビジネスに疎い前CEOが消費者のニーズからかけ離れたマーチャンダイズ戦略を打ち出したことで一気に顧客離反が進み、現在は極端なスランプに陥っています。

JCペニーも1月末が決算の〆となっており2013年度とは2014年1月に〆た12カ月を指します。

同社のバランスシートには54億ドルの負債が載っており、これは自己資本の64%に相当します。高い借入コスト(8.125%)で社債を発行しているため、利払い負担も増大しています。