【今日のまとめ】

  1. AOLはモバイル、動画広告の自動最適化でリーダー企業となっている
  2. アマゾンは利益を後回しにする経営戦略が投資家から嫌われている
  3. イーベイはペイパル部門の成長がけん引役となっている
  4. フェイスブックは広告主が積極的にFB広告を試している
  5. グーグルはクリック単価の下落を見ている
  6. IAC/インタラクティブは動画サイト、デート・サイトに期待
  7. リンクトインは売上成長が著しい
  8. ネットフリックスは海外市場での成長が見込まれる
  9. パンドラ・メディアはアクティブ・リスナー成長が鈍化している
  10. プライスライン・グループはトラベル市場回復の恩恵をこうむる
  11. ツイッターはタイムラインに公告を増やす余地が大きい
  12. ヤフーはアリババの持ち株を一部処分した金で自社株を買い戻す?

インターネット・セクターの近況

インターネット・セクターに関しては2013年11月25日に公開された「インターネット・セクターについて」で既に紹介しました。しかしあれから半年以上経っているので各社の近況をアップデートしたいと思います。なお前回紹介した銘柄に加えて新しくIAC/インタラクティブとツイッターにも言及したいと思います。

コード 銘柄名 事業内容
AOL AOL ウェブ・コンテンツ
AMZN アマゾン オンライン・リテイラー
EBAY イーベイ ネット・オークション
FB フェイスブック ソーシャル・ネットワーク
GOOGL グーグル 検索エンジン
IACI IAC/インタラクティブ コンテンツ、デート・サイト
LNKD リンクトイン 求人ソーシャル・ネットワーク
NFLX ネットフリックス 映画ストリーミング・サービス
P パンドラ・メディア インターネット・ラジオ
PCLN プライスライン・グループ オンライン・ディスカウント旅行予約
TWTR ツイッター ソーシャル・ネットワーク
YHOO ヤフー ウェブ・コンテンツ

AOL

AOLは「aol.com」、「ハフィントンポスト」、「テッククランチ」、「engadget」、「MAKERS」などのサイトを運営し、ディスプレイ広告や検索広告から売上を得ています。

これに加え、同社は急成長しているサードパーティーのビジネスを持っています。これは他社から広告在庫を取得し、最適化し、ターゲットを絞り込んだうえでAOL自社サイトならびに他社サイト上に表示することで対価を得るビジネスです。このような広告の最適化業務は、とりわけモバイルや動画広告の分野でニーズが高いです。

最後に同社はサブスクリプションのビジネスを持っています。これはAOLのルーツであるダイヤルアップによる接続サービスの顧客ベースを継承したものです。

各部門の売上構成比は下のパイチャートのようになっています。

各部門の売上成長率は下のグラフのようになっています。

とりわけサードパーティー部門の+60%という急成長が目を引きます。AOLはAdap.tv、Gravity、Convertoなどネット広告自動最適化の分野で様々なニッチ企業を買収した結果、この分野でリードしています。

AOLの第2四半期決算はEPSが予想44¢に対し45¢、売上高が予想5.94億ドルに対し6.1億ドルと、それぞれ予想を上回りました。

第2四半期のコンテンツの分野での総ユーザー成長率は前年比+18%でした。これは他のコンテンツ企業と比べ遜色ない成長です。特にハフィントンポストは世界で9,700万人のユーザーを抱えており、モバイル版ハフポのユニーク・ビジターは前年比+200%で伸びています。現在、ハフィントンポストのユーザーの48%は米国外です。

8月13日現在のAOLの2014年のコンセンサスEPS予想は$2.05、2015年は$2.58です。つまり同社は2015年のコンセンサスEPS予想に基づいて株価収益率(PER)16.9倍で取引されていることになります。

アマゾン

アマゾン(ティッカーシンボル:AMZN)の第2四半期決算はEPSが予想-15¢に対し-27¢、売上高が予想193.3億ドルに対し193.4億ドルでした。売上は前年同期比で+22%成長しているものの、投資家は赤字幅が予想より大きかったことを嫌気しました。さらにアマゾンは第3四半期も赤字になるとのガイダンスを示しました。

アマゾンの利幅は、もともと余り大きくないところへもってきて、最近は営業利益ベースで赤字を計上することが度々あり、投資家は利益を犠牲にし、マーケットシェアを追求する同社の戦略が本当に正しいやり方なのか疑問を抱き始めています。

ユニット成長率もだいぶ下がってきています。

決算発表前の2015年のコンセンサスEPS予想は$1.05でしたが、8月15日現在、それは赤字の14¢に転落しています。同様に2015年の予想は$3.05から$1.94に下がっています。2015年のEPS予想に基づく現在の株価収益率は171.97倍であり、この尺度では割高に見えます。

アマゾンが黒字にならない主な理由はデータセンターや新しいデバイスなどへの投資負担が大きいことによります。長期で見れば、これらへの先行投資は経営戦略として正しいのかも知れません。しかし目先、投資家は(もっと利益重視の経営に改めて欲しい)と願っているように見えます。

イーベイ

イーベイ(ティッカーシンボル:EBAY)の第2四半期決算はEPSが予想68¢に対し69¢、売上高が予想43.8億ドルに対し43.7億ドルという結果でした。売上高は前年同期比で+12.6%でした。

同社の利益のけん引役になっているのはネット上での決済サービス、ペイパルです。ペイパルのトランザクション総額は予想530.9億ドルに対し550.5億ドルでした。同部門の売上高成長率は前年同引き+29%でした。うちマーチャント・サービス・ボリュームは+35%、イーベイでの取引にまつわる支払いは+13%でした。ペイパル口座数は予想1,538万口座に対し、1,520万口座でした。

イーベイは積極的に自社株を買い戻しています。今年上半期は35億ドル相当の自社株買戻しが実行されました。

今後、消費者が買い物したときの代金を支払う際、スマホをはじめとする色々なデバイスを使うことが一般化するでしょう。するとそれらのデバイスを通じ、パーソナライズされた来店客へのプロモーションを行う事、さらに支払をスピーディーにすることは商店主にとって重要になります。その場合、ペイパルを支払い方法のひとつに加えるというのは自然な流れだと思います。つまり今後もペイパルの重要性は増し続けると考えられるのです。

イーベイの2014年のコンセンサスEPS予想は$2.97、2015年は$3.38です。すると2015年のEPSに基づいた株価収益率は15.57倍ということになります。

フェイスブック

フェイスブック(ティッカーシンボル:FB)の第2四半期決算はEPSが予想32¢に対し42¢、売上高が予想28.06億ドルに対し29.1億ドルと良かったです。

マンスリー・アクティブ・ユーザーは前年同期比+14.3%の13.2億人、モバイル・マンスリー・アクティブ・ユーザーは前年同期比+30.6%の10.7億人でした。

モバイル広告がフェイスブックの広告売上全体に占める割合は62%でした。これは前年同期の41%から増えています。

広告主はフェイスブック広告でいかに効果を上げるかを試すため、積極的に出稿するようになっています。

一方、フェイスブック側では当初「あまりタイムライン上に公告を出し過ぎると、タイムラインがゴチャゴチャしてしまうので、それは控える」と言っていたのですが、ユーザー調査からフェイスブック・ファンはむしろ広告を楽しんでいることが判明したので、もっと積極的に枠を広げてゆくことが出来ることがわかりました。

これらのことから来期以降もフェイスブックの売上は急成長すると見られています。

フェイスブックはチャットアプリのWhatsApp、バーチャル・リアリティのOculus VR、動画広告のLiveRailなどを相次いで買収しています。これらの買収が売上に寄与するのは未だ先の話ですが、イノベーションのモメンタムを維持する意味では大事な買収と言えます。

フェイスブックのコンセンサスEPS予想は2014年が$1.62、2015年が$2.02となっています。同社株は2015年のコンセンサスEPSに基づく株価収益率で36.45倍で取引されています。

グーグル

グーグル(ティッカーシンボル:GOOGL)の第2四半期決算はEPSが予想$6.13に対し$6.08、売上高が予想156.1億ドルに対し159.6億ドルでした。

ペイド・クリックは前年比+25%、コスト・バー・クリックは前年比-6%、トラフィック・アクイジション・コスト(TAC)は去年の第2四半期の30.1億ドルに対し今期は32.9億ドルでした。総売上高に占めるTAC比率は23%で去年同期の25%から若干減少しました。

コスト・パー・クリックはウェブ上のアドセンス広告がクリックされる毎に広告主がグーグルに対して支払うフィーを指します。これが下がっているということは、広告単価が下がっていることを示唆しています。いまフェイスブックやツイッターの場合、単価は上昇しているので、興味深い対比を成していると言えます。

これはひとつにはフェイスブックやツイッターなどで広告を出すことは広告主にとって未だ新鮮味のある試みであり、広告主がグーグルからフェイスブックやツイッターに流れていることを示唆すると同時に、最適な訴求方法を模索して広告主が色々なことを試していることが原因だと思われます。

これに対してグーグルの場合、アドセンス広告はもうすっかり定着した観があります。そこでは広告主全体の予算が余り増えない一方で、ウェブサイトの数やアドセンス広告の表示回数は増えているのでクリック単価は下落せざるを得ないわけです。

グーグルの売上高はこのようにネット広告市場全体のパイの大きさを反映したものとなっており、それは安定的に増えています。従って長期で見た同社の収益は比較的安定していると言えます。

グーグルのコンセンサスEPS予想は2014年が$26.44、2015年が$31.57です。2015年のコンセンサスEPSに基づいた株価収益率は18.49倍です。

IAC/インタラクティブ

IAC/インタラクティブ(ティッカーシンボル:IACI)は各種ウェブサイトを運営しています。同社はサーチ&アプリ、マッチ、ローカル、メディアなどの部門から成っています。

サーチ&アプリ部門はAsk.com、About.com、Dictionary.com、Citysearch.comなどのサイトを運営しています。

マッチ部門は、くだけた言い方をすればデート・サイトです。Match.com、OkCupid、SpeedDate、DateHookup、Twoo、Tinderなどのサイトを運営しています。

メディア部門は動画サイトVimeoなどから成っています。

それぞれの部門の成長率は下のグラフのようになっています。

このうちマッチ部門は会費制を採用している場合が多く、売上予想が立てやすいです。また営業利益ベースで言えば全体の48.6%を稼ぎ出しており、サーチ&アプリに次いで重要な部門です。ローカルならびにメディアの部門は殆ど利益を生んでいません。

同社は一部ビジネスを再編中であり、足下の業績は良くありません。しかし将来的にはデート・サイトや動画サイトの成長が業績に貢献してくると思われます。

【略号の読み方】

  • DPS一株当り配当
  • EPS一株当り利益
  • CFPS一株当りキャッシュフロー
  • SPS一株当り売上高

IAC/インタラクティブのコンセンサスEPS予想は2014年が$2.17、2015年が$3.76です。2015年のEPS予想に基づいた株価収益率は17.92倍です。

リンクトイン

リンクトイン(ティッカーシンボル:LNKD)の第2四半期決算はEPSが予想39¢に対し51¢、売上高が予想5.1億ドルに対し5.34億ドルでした。売上高成長率は前年同期比+47%でした。この売上の増加には全ての部門が等しく貢献しています。

リンクトインはプロフェッショナル向けにパブリッシング・プラットフォームを拡充する、スポンサード・アップデート機能を設ける、モバイル・アプリを強化するなど、一連のサービスの拡充に力を入れています。またBtoB向けのソリューションを提供しているBizoを買収しました。

リンクトインのコンセンサスEPS予想は2014年が$1.87、2015年が$2.75です。2015年のEPSに基づいた株価収益率は79.95倍です。

ネットフリックス

ネットフリックス(ティッカーシンボル:NFLX)の第2四半期決算はEPSが予想$1.15に対し$1.15、売上高が予想13.4億ドルに対し13.4億ドルと、いずれも予想に一致する数字でした。

国内ストリーミング顧客は+57万人の3,624万人、海外ストリーミング顧客は+112万人の1,380万人でした。トータルでの顧客数は+4%の5,000万人となりました。

下半期もサービス向上、販売促進強化などにより順調な成長が期待できるほか海外市場での成長も引き続き高水準が予想されます。現在は英国が中心ですが、今年中にドイツ、オーストリア、スイス、フランス、ベルギー、ルクセンブルクの各国でサービスを開始する予定です。

海外市場は新規進出に伴う立ち上がりのコストで赤字ですが、既に英国では赤字幅の縮小が見られています。

ネットフリックスのコンセンサスEPS予想は2014年が$3.88、2015年が$6.60となっています。2015年のEPSに基づく株価収益率は69.56倍です。

パンドラ・メディア

パンドラ・メディア(ティッカーシンボル:P)の第2四半期決算はEPSが予想の3¢に対して4¢、売上高が予想の2.19億ドルに対して2.19億ドルでした。アクティブ・リスナー数は前年同期比+7.5%の7,640万人でした。この増加率は市場が予想していたのより少し低い数字でした。

同社は売り上げの大半を広告に頼っており、広告主はローカル企業が多いです。このため広告取りをするための営業隊を同社は抱えています。つまりこと営業に関する限り、同社はネット企業というよりラジオ局に近いわけです。ストリーミング・サービスのライバルは多いですが、このような広告モデルを大規模に展開しているのはパンドラ・メディアだけであり、それはユーザーが無料でストリーミングを楽しめるサービスといえば、どうしてもパンドラにならざるを得ないという差別化を生んでいます。

同社はコンテンツ・コストをいかに下げるかが課題となっています。こちらの面では余り進捗はありません。

パンドラ・メディアのコンセンサスEPSは2014年が18¢、2015年が52¢です。2015年のコンセンサスEPSに基づいた株価収益率は54.17倍です。

プライスライン・グループ

プライスライン・グループ(ティッカーシンボル:PCLN)の第2四半期決算はEPSが予想の$12.06に対して$12.51、売上高が予想の21.4億ドルに対して21.2億ドルでした。

第2四半期のグロス・トラベル・ブッキングは前年同期比+34%でした。これは事前のガイダンスである+22~+32%より良かったです。

同社はネット旅行予約市場でリーダー的な地位にあり、今後、世界経済の回復に伴い旅行市場が上向くと、その恩恵をこうむります。また他社に比べると営業マージンが大きく、しっかり利益が出る体質になっています。

プライスライン・グループのコンセンサスEPS予想は2014年が$52.4、2015年が$64.57となっています。2015年のEPS予想に基づいた株価収益率は19.67倍です。

ツイッター

ツイッター(ティッカーシンボル:TWTR)の第2四半期決算はEPSが予想赤字1¢に対し黒字3¢、売上高が予想2.83億ドルに対し3.12億ドルと良い内容でした。

第3四半期に関しては売上予想3.24億ドルに対し、新ガイダンス3.3~3.4億ドルが提示されました。2014年通年に関しては売上予想12.7億ドルに対し、新ガイダンス13.1~13.3億ドルが提示されました。

今期の決算の内容に戻ると、MAU(マンスリー・アクティブ・ユーザー)は予想2.56億に対し、結果2.71億(+24%)でした。モバイルMAUは2.11億(+29%)でした。タイムライン・ビューは1,730億回(+15%)でした。ツイッターのユーザー・アクティビティは鈍化しているのではないか? と考える投資家が多かったので、これらのユーザー・データは投資家を喜ばせました。

ツイッターはFIFAワールドカップ期間中、それぞれのゲームに合わせてユニークな広告キャンペーンをスポンサーとタイアップして実施しました。このキャンペーンはたいへん有効であり、将来、同様のキャンペーンを展開することが可能であることが確認されました。

ツイッターの場合も、フェイスブックと同様、広告主がツイッターをどう利用し、広告効果を上げるか、いろいろ試行錯誤中です。広告主はおおむねツイッターでのキャンペーンの効果に満足しています。

またツイッターの場合、タイムライン上に公告が表示される頻度はまだまだ少なく、それは将来、もっと広告を増やす余地が大きいことを示唆しています。

ツイッターのコンセンサスEPS予想は2014年が10¢、2015年が36¢です。2015年のEPSに基づいた株価収益率は124.33倍です。

ヤフー

ヤフー(ティッカーシンボル:YHOO)の第2四半期決算はEPSが予想38¢に対して37¢、売上高が予想10.8億ドルに対して10.4億ドルという落胆すべき内容でした。ヤフーは2008年を頂点として、それ以降、売上高が年々下降線を辿っています。今年もこの調子で行けばまた去年に比べて売上高が減少することは確実です。一方、コスト削減努力でEPSは何とか横ばいを保っています。

ヤフーはアリババの株式の23%を保有しており、目先はアリババの新規株式公開の材料で同社株が囃されています。当初ヤフーはアリババの新規株式公開に際して持ち株のうち2.08億株を売り出す予定にしていましたが、これを1.4億株に減らしました。投資家としてはヤフーの事業の中で元気が良いのはアリババだけなので、なるべくアリババの持ち株を売らないで欲しいと考える人が多いです。アリババの1.4億株を売り出すと、約90億ドルが転がり込みます。ヤフーはこれを自社株買戻しに使うと思われます。また場合によっては特別配当を出すことも考えられます。

ヤフーのコンセンサスEPS予想は2014年が$1.42、2015年が$1.32です。2015年のEPSに基づいた株価収益率は27.63倍です。