【今日のまとめ】

  • バイオテクノロジーとは遺伝子工学の切り取り・貼り付け技術を利用した創薬を指す
  • 最初のバイオ企業はジェネンテック
  • バイオ創薬は既に沢山の成功例が出ており、大手バイオ株は業績を手掛かりに買える
  • ギリアドは充実した抗ウイルス薬のポートフォリオを持つ
  • アムジェンは最も安定した収益を誇っている
  • バイオジェン・アイデックは多発性硬化症治療薬で勢いに乗っている
  • リジェネロンは遅咲きだが滲出型加齢黄斑変性治療薬でホームランをかっ飛ばした

バイオテクノロジーとは

株式市場におけるバイオテクノロジー株の定義とは、遺伝子工学(genetic engineering)の切り取り・貼り付け(cut & paste)技術を駆使することで病原菌(microbes)を大量生産し、ピンポイントで病気の原因を突き止め、その原因に直接働きかける薬を創薬しようとする企業の株を指します。

この手法を最初に確立した企業はジェネンテックです。

ジェネンテックは1976年にサンフランシスコでハーバート・ボイヤーとボブ・スワンソンの二人によって創業されました。ジェネンテックは組換DNA(recombinant DNA)技術を創薬に利用した最初の企業であることから、業界関係者からはこれが最初の「真の」バイオテクノロジー企業だと認識されています。

それ以降、多くのベンチャーがこの技術による創薬に挑戦してきました。

普通、創薬は、最短距離でも15年の年月を必要とします。そこでは先ず五千以上のターゲットの中から新薬候補が選ばれます。フェイズ・ワン(第一相臨床試験)と呼ばれる、安全性テストの段階で、五つほどのターゲットに絞り込まれます。

言い換えれば、この第一段階の時点で、すでに確率は1,000分の1なのです。

次にこの五つのフェイズ・ツー(第二相臨床試験)と呼ばれる患者に治験薬を投与し、用量や有効性を判断する試験を行います。

そして最後にフェイズ・スリー(第三相臨床試験)と呼ばれる試験を行い、治験薬を投与した患者と、既存の治療法を受けた患者との薬効の差を比べる試験を行います。こうして最終的に米国食品医薬品局から承認を得られる薬は五つにひとつ程度です。つまり5,000分の1の確率です。

ちゃんと売上も利益もある!

このように研究開発に長い年月を要することから、バイオテクノロジー株は「夢を買う」という色彩が強く、長いこと赤字続きでした。しかし近年になって新薬が続々と承認されるに至り、バイオテクノロジー企業の多くが素晴らしい売上成長や利益成長を記録し始めています。

つまり「夢を買う」時代は終わり、業績を手掛かりに投資する時代が到来したのです。

大手バイオ企業の成功に続いて、最近はニッチ創薬もブームになっています。その背景にはFDAが希少疾病薬(orphan drug status)という扱いを積極的にプロモーションしはじめたことと無縁ではありません。

希少疾病とは、とてもめずらしい、患者数の少ない病気を指します。

昔は、そのようなレアな疾病は(患者数が少ないから、わざわざ薬を作っても採算にあわないだろう)と薬品会社が敬遠してきました。

すると珍しいけど、とても重い病気に罹っている患者さんは、いつまで経っても治療薬の登場を望めないわけです。

そこで希少疾病薬の認定に際しては、7年間の独占販売権を開発者に与え、その間、わざと競争ゼロの状態を作り出します。競争が無いので、開発者は高い薬価を設定できます。そのような高価な薬が商業ベースで成功するかどうかは、患者さんの支払い能力ではなく、むしろ治療費の払い戻しを受けられるか? に勝負がかかってくるのです。

治療費の負担をするのは、保険会社などのペイヤー(支払者)です。いま、生命に危険を及ぼすような重病だけをペイヤーが「治療費が高い」という理由で却下すれば、ペイヤーの利潤追求のために、公平な支払いを忌避しているという批判が出ます。このため重篤な病気で、しかも珍しい病気の場合、ペイヤーが高い薬価にケチをつけることは殆どありません。

FDAはさらに既に市場に出回っている治療法より遥かに効き目があると思われる新薬候補については、ブレイクスルー・セラピー(breakthrough therapy=画期的新薬)という認定を行い、承認までのプロセスをなるべく短時間に圧縮する便宜措置を取ることを約束しています。

こうした一連の事を背景に、現在、アメリカのバイオテクノロジー・セクターはブームの様相を呈しています。

ジェネンテックが新規株式公開された当時の、1980年代の第一次バイオテクノロジー・ブーム、ゲノム創薬への期待が高まった1990年代の第二次バイオテクノロジー・ブームと今回のブームが根本的に違う点は、今回は売上高も利益も出ている会社が、ファンダメンタルズ分析から買われているという点です。

ギリアド・サイエンシズ

ギリアド・サイエンシズ(ティッカーシンボル:GILD)は1987年に創業されたバイオファーマシューティカル企業で、充実した抗ウイルス薬のポートフォリオを持っています。

下は2013年の同社の主力薬の売上高です。

英語名 用途 日本語表記 売上(千ドル)
Atripla HIV-1抗ウイルス薬合剤 アトリプラ 3648496
Truvada 抗HIV薬 ツルバダ 3135771
Viread 抗ウイルス薬 ビリアード 958969
Complera 抗HIV薬 コンプレラ 809452
Stribild 抗HIV薬 スタリビルド 539256
Sovaldi C型肝炎治療薬 ソヴァルディ 139435
Hepsera 抗ウイルス薬 ヘプセラ 81095
Emtriva 抗ウイルス薬 エムトリバ 27405
Letairis 肺動脈高血圧治療薬 レタイリス 519966
Ranexa 抗狭心症薬 ラノラジン 448624
Ambisome 抗真菌薬製剤 アンビゾーム 351827

これらの薬のうち、今、最も売上高が爆発的に伸びているのは去年の暮れに米国食品医薬品局から承認されたばかりのC型肝炎治療薬、ソヴァルディです。実際、2014年の第1四半期にはソヴァルディだけで22.7億ドルを売り上げました。これは第1四半期のギリアドの全社売上高の実に47%に相当します。

従来のC型肝炎治療薬は注射でした。それに対しソヴァルディは経口薬であり、投与が簡単です。また副作用も少ないとされています。

このような、患者にとってすぐに実感できるメリットに加えて、ソヴァルディは業界関係者には重要な意味を持っています。なぜなら同薬は次世代のヌクレオチド酵素阻害薬であり、これは米国食品医薬品局が初めて認可するケースだからです。

ソヴァルディの大成功で、ギリアドの売上高は去年の実績112億ドルから今年は217億ドル前後までほぼ倍増すると予想されています。

しかしソヴァルディは一日10万円もする高い薬なのでペイヤー、つまり医療費を負担する保険会社から「薬価設定が強気過ぎる」と大きな反発を受けています。

それに加えて今年中にもアブヴィ(ティッカーシンボル:ABBV)がライバル薬を出すとみられており、そちらは安い価格設定になると言われていることから、競争激化が心配されます。

下は同社の業績です。

【略号の読み方】

  • DPS一株当り配当
  • EPS一株当り利益
  • CFPS一株当りキャッシュフロー
  • SPS一株当り売上高

アムジェン

アムジェン(ティッカーシンボル:AMGN)はロスアンゼルス郊外のサウザンドオークスに本社を構える、1980年に創業されたバイオテクノロジー企業です。

下は2013年の同社の主力薬の売上高です。

英語名 用途 日本語表記 売上高(百万ドル)
Neulasta/NEUPOGEN 白血球増殖薬 ニューラスタ/ニューポジェン 5790
ENBREL リウマチ治療薬 エンブレル 4551
Aranesp 貧血・心不全治療薬 アラネスプ 1911
EPOGEN 赤血球増殖剤 エポジェン 1953
XGEVA 骨病変治療薬 デノスマブ 1019
Prolia 骨病変治療薬 プロリア 744
Sensipar/Mimpara 肝臓疾患 センシバー 1089

同社は長年にわたって着実に売上高を伸ばしてきた実績があり、収益の見通しの立てやすさではバイオテクノロジー・セクターの中で一番だと言えます。

目下はデノスマブの海外展開で売り上げの伸長を目指しています。また買収したオニックス・ファーマシューティカルズの製品が売上高に貢献し始めています。

アムジェンの新薬のパイプラインは充実しています。とりわけコレステロール薬エヴォロクマブの臨床試験に関心が集まっています。

下はアムジェンの業績です。

バイオジェン・アイデック

バイオジェン・アイデック(ティッカーシンボル:BIIB)は多発性硬化症治療薬を得意とするバイオファーマシューティカル会社です。

下は2013年の同社の主力薬の売上高です。

英語名 用途 日本語表記 売上高(百万ドル)
Avonex 多発性硬化症治療薬 アボネックス 3005.5
Tysabri 多発性硬化症治療薬 タイサブリ 1526.5
Tecfidera 多発性硬化症治療薬 テクフィデラ 876.1
Fampyra 多発性硬化症治療薬 ファムピリジン 74
Fumaderm 乾癬(かんせん) フマダーム 60.2
Rituxan 非ホジキン・リンパ腫治療薬 リッキサン 1125

目下の同社の急成長薬はテクフィデラで、これは多発性硬化症の経口薬です。同薬は米国と欧州で承認されていますが、とりわけ欧州では10年間の独占販売権が認められました。欧州には多発性硬化症の患者が多いため、市場そのものが大きいし、ペイヤー、つまり保険会社の費用負担率が米国より高いため、普及が早いと考えられます。

この他、3月に血友病B治療薬、アルプロリックス(Alprolix)が米国食品医薬品局から承認されました。さらに最近、血友病A治療薬、エロクテート(Eloctate)も承認されています。

このようにバイオジェン・アイデックは勢いに乗っています。

下は同社の業績です。

リジェネロン・ファーマシューティカルズ

リジェネロン・ファーマシューティカルズ(ティッカーシンボル:REGN)は1988年にレン・シュライファーによってニューヨーク州のタリータウンで創業されたバイオテクノロジー企業です。

同社は当初、ルー・ゲーリック病(筋委縮性側索硬化症)治療薬の開発を目指しますが、副作用が大きく、開発を断念します。さらに肥満治療薬も米国食品医薬品局から却下されます。

しかし滲出型加齢黄斑変性治療薬、アイリーア(Eylea)の承認で、ようやく大型薬をモノにすることが出来ました。加齢黄斑変性(英語病名:AMD)はアメリカだけで毎年20万人もの新しい患者が発生している病気で、百万人以上がこの疾病に苦しんでいます。

病状が進行すると、クルマを運転できなくなる、外出するのも億劫になるという「社会的失明」、つまり社会生活が出来なくなってしまいます。加齢黄斑変性にはウエット(滲出型)とドライ(委縮型)の二つのタイプがあります。日本人がかかりやすいのはウエット型で、網膜上に余分な毛細血管が出来てしまい、それが出血すると視力が曇るというメカニズムです。

実は病気が進行しているにもかかわらず、最初はゆっくりとした変化なので、日常生活に支障は無く、余分な毛細血管からの出血が始まった途端、目が見えにくくなるという厄介な病気です。

アイリーアは、抗血管新生薬治療法と呼ばれるアプローチで、血管内皮増殖因子(VGEF)と呼ばれる物質です。

下は同社の業績です。

アイリーアは未だ売上が伸びている最中であり、今年も前年比+30%近い成長が見込まれています。