【今日のまとめ】
- 銀行の評価尺度は総資産利益率
- バンク・オブ・アメリカはメリルリンチ部門での会計ミスで増配見送り
- シティグループはストレステストに落ちたが、立ち直りつつある
- JPモルガンはジェイミー・ダイモンCEOの病気で後継者問題が表面化
- USバンコープは地味ながら抜きん出た収益性を維持
- ウエルズファーゴは住宅ローン市場の伸び悩みに苦しんでいる
銀行の業績
銀行はメーカーのようにモノを作って売っているわけではないので、通常、我々が問題にする「売上高」に相当するのは「純金利収入(Net Interest Income)」と「非金利収入(Non-interest Income)」を足したものになります。非金利収入には各種サービス・フィーや投資銀行業務からの売上が含まれます。
「お金がお金を生む」という表現がありますが、銀行の商売のタネは文字通りおカネです。そこで自分の資産を活用して、どれだけ利益を挙げているか? の最もシンプルな評価尺度は総資産利益率(ROA)になります。
普通、ROAで2%くらい稼げれば、米国の銀行としては「一人前」です。しかしリーマンショック後の厳しい経営環境で、ハッキリ言ってアメリカの銀行はあまり儲かっていません。
儲かっていないもうひとつの原因は昨今の超低金利にあります。銀行は調達金利と貸付金利の差(それを純金利マージンといいます)で儲けるわけですが、純金利マージンは債券のイールドカーブによってかなり決まってきます。イールドカーブとは短期金利から1年、10年、30年と言う風に、償還期限に応じて債券利回りをプロットした線を指します。
乱暴に言えば、イールドカーブが急こう配になっているとき銀行は儲けやすく、イールドカーブが水平に寝そべっているときは儲けにくいです。現在はイールドカーブが平坦で、米銀各行の純金利マージンは圧迫を受けています。
金利コスト以外の諸々のコストの総和を総収入で割り算した比率が非金利費用対売上高比率、ないしはエフィシェンシー・レシオと呼ばれるものです。
この数値は低い方が効率経営と言えます。
米銀の足下の業績が伸び悩んでいる一因は、新規の住宅ローン需要の低迷にあります。
大手銀行のうちJPモルガン、バンク・オブ・アメリカ、シティの各行は大きな投資銀行部門を持っています。最近のボラティリティ(=マーケットの変動)の低下で、債券・為替・コモディティ部門を中心に投資銀行の市場部門はどこも儲かっていません。
またリーマンショック以降、投資銀行がレバレッジをかけてトレーディングすることに対し、行政監督当局や投資家は厳しい目を向けるようになっています。
明るい材料としては企業向けの貸付が伸び始めていることが挙げられます。
バンク・オブ・アメリカ
バンク・オブ・アメリカ(ティッカーシンボル:BAC)は1998年にネーションズ・バンクとバンカメリカが合併して出来た大手銀行です。同行は2008年に住宅ローンのカントリーワイドを、2009年にメリルリンチを買収しました。
とりわけカントリーワイドの買収はリーマンショックの直前であり、最悪のタイミングでした。
現在、同行はその後処理に追われています。足下の住宅ローン需要は再び伸び悩みの兆候を見せていますし、リーマンショック前の不適切な営業姿勢に関し、米国政府と和解交渉を進めています。その関係で巨額の賠償金を支払うことになる公算が高いです。
同行は3月に実施されたストレステストに合格し、増配を発表したものの、その後、メリルリンチ部門で会計ミスが発覚し、増配を見送ることが決まりました。
シティグループ
シティグループ(ティッカーシンボル:C)は海外事業に強い大手銀行です。同社は保険会社トラベラーズやリテール証券会社スミスバーニーを売却し、事業戦略を絞り込んでいます。
シティグループもバンク・オブ・アメリカ同様、リーマンショックで大きく傷つきました。
今年実施されたストレステストでは同行の資本政策策定手順に不備があるという理由から米国政府は同行を不合格にしました。このため「年間20¢の配当を払う」というシティグループ側の希望は却下され、年間配当は4¢に据え置かれることになりました。
シティグループは7月14日に住宅ローン証券に関する米国政府との和解に到達し、70億ドルの和解金を支払うことになりました。また第2四半期の決算では企業向け貸付が好調で、幾分、立ち直りつつあることをうかがわせました。
JPモルガン
JPモルガン(ティッカーシンボル:JPM)は総資産ベースで全米最大の銀行です。同社はサブプライム危機を比較的上手く切り抜け、その際に経営危機に陥ったワシントン・ミューチャルとベア・スターンズを傘下に収めました。
ジェイミー・ダイモンCEOはその経営手腕を高く評価されていますが、後継者の育成は上手く行っておらず、幹部の定着率は悪いです。そんな折、ダイモンCEOが喉頭癌であることがわかり、カリスマ経営者の後継者問題がにわかに重要視されはじめています。
USバンコープ
USバンコープ(ティッカーシンボル:USB)はミネアポリスに本社を置く地銀です。同行は伝統的な商業銀行ビジネス主体で、大手銀行に比べて低コスト体質で、収益性も高いです。
商業向け融資が好調で、融資成長率(+6%)はグループ内で最高の部類に入ります。
エクスペンス・レシオは52.4%で、これも大手銀行の中では最も優れた数字です。
融資残高に占める貸倒れ比率は0.63%で、これはウエルズファーゴなどに比べると劣りますが、立派な数字です。
同社の場合も住宅ローン市場の伸び悩みが業績の足を引っ張っています。
ウエルズファーゴ
ウエルズファーゴ(ティッカーシンボル:WFC)はサンフランシスコに本社を置く大手銀行で、時価総額ベースでは全米最大です。
同行は1998年に住宅ローンに強いノーウエスト銀行と合併しました。その関係で現在でも住宅ローンのオリジネーションでは全米で最大です。
ウエルズファーゴはリーマンショックを比較的上手く乗り切りました。その際、経営危機に陥ったワコビアを傘下に収めています。このM&Aでそれまでの米国中西部ならびに西海岸の地銀という位置づけから、全米をカバーする支店網を持つ、最大手の一角にのしあがりました。
同社の融資残高に占める貸倒れ比率は0.56%で、大手銀行では一番低いです。
住宅ローン市場の伸び悩みは、同社の業績にとりマイナス要因です。