2016年の世相を表す「今年の漢字」に「金」が選ばれました。オリンピックの日本人の金メダルラッシュや、政治と金(カネ)に絡む問題が多かったことから選ばれたようです。「金」が選ばれるのは2000年、2012年に次いで3回目で、オリンピック開催年の年は、「金」が選ばれやすいようです。しかし、京都の清水寺の森清範貫主の筆さばきは、毎年ほれぼれする動きです。

さて、為替市場で「今年の漢字」を考えたらどうなるのかなと思いを巡らしてみると、『驚』という漢字が浮かびました。まさに今年の相場は政治要因が多く、「驚き」の連続でした。来年のシナリオを考えるためにも、今年一年の「驚き」を振り返ってみたいと思います。

BREXITの驚き

6月23日には、イギリスのEU離脱を問う国民投票が行われましたEU離脱は得策ではないという経済的観点からイギリス国民は「EU残留」を選ぶだろうと予想されていましたが、結果は「EU離脱」でした。しかも、投票時間が始まってすぐの出口調査では「EU残留」というニュースが流れたこともあり、その後「EU離脱決定」と伝えられるとその反動も加わりポンド円は急落しました。投票日前日155円台だったポンド円は、投票日にはこの早とちりの出口調査の結果を受けて160円台に上昇しました。しかし、その後133円台まで急落しました。一日で約27円の円高となりました。ドル円は投票日前日までは104円前後でしたが、出口調査を受けて106円台まで上昇し、その後99円に急落しました。一日の下落率(円高率)は過去最大の値動きとなりました。

英国のEU離脱決定は移民に対する反対の声が予想以上に大きかったということを物語っていました。この動きは欧州大陸にも伝播し、現政権に対する反対票という形で12月のイタリアの国民投票は否決され、イタリア首相は辞任しました。同日のオーストリア大統領選のやり直し決選投票では、リベラル派が辛うじて勝利しましたが、難民や移民に不寛容な政策を掲げる右派政党の支持を伸ばしたのは間違いありません。来年の3月のオランダ総選挙、4月のフランス大統領選挙、9月頃のドイツ総選挙の行方に影響してくることは十分に予想されます。もし、極右政権が誕生すれば、難民、移民排斥の動きが激しくなり、場合によってはEU離脱の動きが広がり、保護主義色が強くなることも予想されます。欧州経済にとってはマイナス要因となります。ECBのドラギ総裁は、量的緩和の縮小と延長方針を出しましたが、緩和期間は長引くかもしれません。

メイ首相は、来年3月までにEUに対して離脱通知を行い、交渉を開始すると明言しています。しかし、ロンドン高等法院は11月3日、英国がEU離脱手続きを正式に開始するためのEU基本条約(リスボン条約)第50条発動には議会の承認が必要になるとの判決を下しました。政府は最高裁に上訴し、最高裁は、判断は年明けになるとの見方を示しています。事態はややこしくなってくるかもしれません。

  • 「議会承認必要なし」との判断になっても、年明け(1月中旬ごろか)の判断になるとその後の通知、交渉の時期が大幅に遅れる可能性がある。イギリス経済にとっても進出企業にとっても将来への不安を払しょくできない事態が長引き、経済にとってはマイナス要因。
  • 「議会承認必要」の場合、下院議員の過半数が残留を支持しているため、来年3月末までに議会承認を得られるかは不透明。新たに離脱交渉に関する法案を求める声も出ており、また、政権が議会工作に失敗すれば、メイ首相は総選挙を実施し、改めて国民にEU離脱の是非を問うシナリオも予想される。いずれにしろ、決着までに長期化する可能性が高い。

国際機関は英国の成長率見通しを来年にかけて減速すると予想しています。IMFが10月に公表した見通しによると、2016年の成長率は1.8%、2017年は1.1%と減速予想になっています。11月に公表したOECDの英国見通しは、2016年の成長率は2.0%ですが、2018年までに半分の水準に低下するとの見方を示しました。3月の通知・交渉開始が遅れれば遅れる程、英国経済にとってはマイナス要因となり、ポンドのマイナス要因になる可能性が高まります。

トランプ次期大統領誕生の驚き

11月8日の米国大統領選挙では、米国メディアの大方の予想を裏切りトランプ氏が勝利しました。トランプ氏勝利よりも驚いたのは、その後の株高、金利高、ドル高の動きです。米国大統領選挙とトランプ新政権の政策については、このコラムで何回かお話しましたが、政策の負の側面を無視し、いいとこ取りの政策期待だけで上昇し、しかも1カ月経っても持続していることには驚きました。最近、ようやく政策時期と効果、金利高とドル高の弊害に関心が強まってきおり、2017年の成長はあまり期待できず、効果が出るのは2018年以降との見通しが出てきています。小さな政府を目指す共和党との議会調整が上手くいかず、1兆ドルのインフラ投資の規模や時期が予想より小さくなり遅れるとの話や、減税は議会も通りやすいが減税の財源確保として1兆ドルの歳出カットの話もあるなど現実的な話が出てきています。来年の1月20日の大統領就任以降、現実路線に対してマーケットがどの程度認識するのかどうかが焦点となりそうです。現時点では米国内からは強気の声しか聞こえてきませんが、投資家たちはクリスマス休暇を取り、じっくりと考えて年明けどういう行動に出て来るのか注目です。高くなった相場から更に買い上げてくるのか、今年のように初めは売りから入ってくるのか海外時間の動きに注目です。

OPEC、非OPEC減産合意の驚き

11月30日にサウジアラビアが譲歩してOPECは減産合意しました。また、12月10日にはOPECと非OPECの減産合意が15年振りに成立しました。時間がかかるだろうと思っていましたが、来年1月から実施予定と予想以上のスピードで合意に至ったのは驚きでした。サウジとロシアはよっぽど国内事情が苦しかったのだろうということが想像できます。この合意を受けて原油は一時55ドル台をつけましたが、来年も一段高が期待できるのでしょうか。一筋縄では行きそうにないかもしれません。9月にOPEC減産合意の方向を打ち出してからも生産量を伸ばしていたり、過去のこういう合意では達成率が6割程度という話も聞こえてきます。また、減産合意の動きを受けて米国のシェールオイルの増産の動きが早速出始めています。世界経済が低迷している現状では、供給サイドの動きが重要であり、減産が遅々として進まず、米国の増産が目に見えてくれば原油は上がらず、場合によっては再び下落してくるシナリオも考えておく必要がありそうです。

FRB利上げ1回の驚き

この14日のFOMCでFRBは利上げ決定というのが大勢の見方ですが、実施されれば今年の利上げは結局1回だったということになります。昨年の予想では、2016年は2回から3回の利上げと予想されていましたが、どんどん後倒しとなり結局昨年と同じ12月に1回となるのは、じわっと伝わる驚きです(万が一、今回利上げなしとなれば、これは大きな驚きとなります)。

今回のFOMCでは来年の利上げシナリオが焦点になりますが、トランプ政策効果を考慮して強気のシナリオになるのか、政策効果の時期や議会調整を加味して期待ほどタカ派色ではないシナリオになるのかに関心が集まっています。予想以上にハト派色が強いと、来年を待たずに相場転換のきっかけになるかもしれません。このシナリオも描いておく必要があります。また、トランプ新政権下では空席理事2名が埋まるとタカ派色が強くなるとの見方がありますが、現時点でFOMCが人事まで考慮して来年の利上げシナリオに反映さすとは思われません。

以上が大きな驚きですが、トルコのクーデターやテロ事件などの驚きもありました。今年は、本当に驚きの連続の一年でした。来年はどういう年になるのか、皆さんも今年一年を振り返っていろいろと考えてみて下さい。今年の出来事は来年に続く出来事が多く、来年のシナリオを考えるベースとなります。まだまだ発火点でしかないかもしれません。