米国大統領選挙のトランプ勝利から、まもなく1ヵ月が経とうとしています。減税とインフラ投資、規制緩和という政策期待から金利と株が上昇し、金利高と株高に吸い寄せられるようにドル高となりました。米10年物金利は2年3ヵ月ぶりの高値、株は史上最高値更新、ドルインデックス(ドル全体の指数)は13年振りの高値と、FRBの利上げ予想も吹っ飛ぶほどの期待が一気に溢れ出した様相となっています。マーケットの期待を表現するようにトランプ次期大統領は、米国の10年間の平均成長率を3.5%に高め、最終的には4%まで引き上げると公約しています。期待先行で上昇した金利、株、ドルが維持されるためには、この公約した成長が実現できるかどうかにかかっています。しかも3年後、5年後ではなく、少なくとも来年半ば以降には何らかの成果が目に見えてこないと期待は剥落し、市場の動きは逆流してくることが予想されます。従って、今後の為替予測のシナリオを考える際には、この公約の3-4%の米国成長率がキーポイントになることを頭に入れておく必要があります。

2017年OECD経済見通し

公的機関は、トランプ新政権後の米国や世界の景気をどのように予測しているのでしょうか。いち早くOECD(経済協力開発機構)が11月28日に2016年、2017年、新たに2018年の経済見通しを公表しています。下表がその見通しです。

OECD経済見通し(%、2017年11月28日公表)

世界全体の実質GDPの伸びは、2016年は据置きの+2.9%ですが、2017年は各国の財政政策で成長率が高まると予測し、3.3%と+0.1%の上方修正としています。今回新たに予測を出した2018年も2017年より0.3%引き上げ3.6%としています。

米国はどうでしょうか。2016年も2017年も+0.1%、+0.2%と上方修正し、2016年、2017年、2018年を1.5→2.3→3.0%と来年から再来年にかけて成長が加速する予測を出しています。トランプ次期大統領の公約を織り込んだ予測となっているようです。

日本はどうでしょうか。事業規模28兆円の経済対策の効果から、2016年は+0.2%、2017年は+0.3%と上方修正されていますが、2018年にかけて0.8→1.0→0.8%と伸びが鈍化しています。2018年は財政健全化への取り組みが優先されることが成長の足かせになるようです。

ユーロ圏はどうでしょうか。ユーロ圏も2016年、2017年それぞれ+0.2%上方修正されていますが、2018年にかけて、1.7→1.6→1.7と成長の伸びがみられません。

景気の底を打ったとみられている中国はどうでしょうか。中国も2016年、2017年それぞれ+0.2%上方修正されていますが、2018年にかけて、6.7→6.4→6.1と成長が減速する予測となっています。過剰生産の解消に取り組むことが影響して減速するが、財政政策が下支えするため大幅な減速は避けられるとの見通しです。

これらの予測を見ていると、世界の景気は各国の財政出動によって成長が伸びるという見通しですが、成長が加速しているのは米国のみで、日本とユーロ圏は横ばい、中国は減速となっているのは心もとない見通しです。もし、米国の政策実現が遅れ、2017年も2016年と横ばいの成長となれば、中国が減速見通しの中では世界全体の景気は停滞する可能性があります。景気が減速すればエネルギー需要も減少するため、原油価格は上がりようがありません。

また、OECDは貿易制限策が増えていることに警鐘を鳴らし、保護主義的な政策は成長の阻害要因になると指摘しています。しかし、OECDは指摘しているだけで、トランプ政策の保護主義や移民規制などの負の要因を見通しの中では加味していないようです。TPP離脱表明、NFTAの見直し、関税引上げなどの保護主義的な動きや、メキシコ国境との壁建設、移民制限などの動きは米国の経済にとっていい影響を与えるとは思えません。

米経済の潜在成長率2%

現在の米国の巡航速度(潜在成長率)は2%と言われています。下表は最近の米国の実質GDP(成長率)の推移です。

最近の米国実質GDP推移(%)

直近の7-9月期米国GDPは3.2%と3%超えの数字が出ましたが、他国の天候不順による大豆輸出の増加という一時的要因が背景のようです。2013年からの米国GDPの推移をみてみると、確かに2%前後が現在の巡航速度のようです。トランプ新政権はこれを10年平均で3.5%にするという公約です。米国内の調査機関によると、1兆ドルのインフラ投資による成長の押し上げ効果は+0.5%、減税の効果は0~+1.7%との試算が出ています。この試算だと3%超の成長が見込める可能性がありますが、一方で減税の財源確保として1兆ドルの歳出カットが予定されているとの話があります。

その場合、インフラ投資の効果と相殺され、3%に届かない可能性があります。また、現在進行中のドル高や金利高は成長の押し下げ要因になります。ドル高は輸出を抑制します。10%のドル高は3年程度でGDPを0.7%押し下げるとの試算があります。金利高は企業の設備投資や個人の住宅借入れに影響し、景気を押し下げることになります。更に保護主義的な動きによる成長阻害要因を考慮すると、3.5%成長はかなりハードルの高い数字かもしれません。そして3.5%のハードルが相当高いなとマーケットが感じ始めた時が、相場の流れが変わる時かもしれません。