11月8日の米国大統領選挙は、トランプ候補が306人の選挙人を獲得し勝利しましたが、実は法的にはまだ次期大統領に確定したわけではありません。11月8日の選挙は、一般有権者の選挙で、得票数の多い候補がその州の選挙人を総取り出来ます。そしてその選挙人を全米で過半数獲得した候補が勝利となります。従って、得票数はヒラリー氏の方が多かったにもかかわらず、選挙人獲得数がトランプ氏の方が多かったため、トランプ氏が勝利となりました。

その後のマーケットは、トランプ次期大統領の政策期待から、金利高、株高、ドル高となっていますが、本当にトランプ氏が次期大統領に決定するのは、その後の選挙人による投票によって決まります。選挙人の投票日は12月第2水曜日の次の月曜日、今年は12月19日が投票日になります。そして年明け1月6日に連邦議会両院合同会議が開かれ、その場で選挙人票が集計され、最終的に当選者を認証する手続きとなります。そして新大統領は1月20日に就任します。これが米国大統領選挙の最終日程です。

2016年米国大統領選挙

何をいまさら日程を確認するのか、手続きはあるにしても形式の問題であってトランプ氏が選挙人を過半数獲得した時点で次期米国大統領はトランプ候補で決まりではないかと思われていることでしょう。なぜ、最終日程を確認したかというと、マーケットで選挙人が造反するのではないかという噂が燻っているからです。もし、選挙人の内、37人が造反した場合、年明けにはヒラリー候補が大統領になっているかもしれません。

「何を馬鹿げたことを!」と思いながら、「本当に可能なのか?」と思って調べてみたら、過去に造反した選挙人が9人いるそうです。選挙人は一般有権者が選んで勝利した大統領候補に投票することを誓約します。しかし、選挙人が誓約を違えて別の候補に投票することは、連邦法上は自由とのことのようです。州によっては造反選挙人に対する罰則を設けているようですが、大半の州では投票自体は有効とされているようです。現実には、2012年の大統領選挙までに、誓約違反投票が選挙結果に影響を及ぼした事例はないということです。過去の造反者が約60年間で9人いたかもしれませんが、一度に37人の造反者が出るとはさすがに考えられませんが、念のため上記の日程は頭の中に入れておいた方がよいかもしれません。

Calexit(カリグジット)

こういう噂が燻るのは根強いトランプ氏に対する嫌悪感が背景だと思われますが、トランプ氏は絶対嫌だという行動は、連日報道される全米主要都市での抗議デモだけでなく、州単位でも盛り上がりを見せています。カリフォルニア州では(フランスを上回る世界6位の経済規模)、州独立に向けた住民投票の実施を呼びかける「Calexit(カリグジット)」が盛り上がっています。国民投票でEU離脱を決めた英国の「Brexit」にちなんだ呼び名ですが、トランプ氏の勝利確定後、この運動への登録者数が急増したとの話です。また、カナダへの移住希望者も急増しているようです。8日の投票日の夜には、カナダ移民局のインターネットサイトに移住希望者が殺到し、このサイトが一時閲覧不能になったとの話です。

トランプ政権の保守強硬人事

これらの抗議デモや反対者の動きを監視し、押さえつけるためか、あるいは公約で掲げた不法移民への対応を厳しく対応するためか、トランプ氏が最初に決めた新政権の、安全保障政策に関わる主要3ポストの人事は保守強硬派を起用し、「タカ派」色を強く出しました。移民政策の執行権限を持つ司法長官には、不法移民に厳しい態度で知られるジェフ・セッションズ上院議員。CIA長官には草の根の保守強硬派「茶会運動」所属のマイク・ポンぺオ下院議員。また、国務長官、国防長官と並ぶ最重要ポストのひとつ、国家安全保障担当大統領補佐官には、強硬な発言によってオバマ政権で解任されたマイケル・フリン氏を起用しました。

安全保障政策に関わる主要3ポスト

現在のマーケットは、トランプ政策への期待から活況となっていますが、良い面のみに焦点が当たっており、負の側面は全く無視されています。負の側面とは、不法移民問題、関税引上げ、TPP脱退、NAFTA再交渉などの保護主義ですが、もし、これらの負の側面に焦点が当たると、マーケットのセンチメントはがらっと変わる可能性があります。

大統領就任までは選挙中の過激な公約を封印し、現実路線を進めているように見えますが、このような人事起用をみていると、大統領就任後、封印していた選挙中の顔を再び出すのではないかと勘繰りたくなります。そうなると、マーッケトが追いかけるテーマに負の側面が勝ってしまう局面もあるかもしれません。マーケットが新政権の人事に注目するのは、経済要因が一気に政治リスクに晒される可能性があるからです。今後、最重要ポストである国務長官、国防長官候補が起用されて来ます。また、財務長官にも注目です。通貨安政策に強硬に反対する財務長官が起用されれば、日本もターゲットのひとつになるかもしれません。

ある外資系証券の調査によると、1992年以降の平均で、大統領選挙日を起点に2~3カ月先までドル高・円安傾向が続くという分析をしています。新政権への期待による動きと思われますが、異例の新大統領の下では、どのような動きになるのか非常に注目です。