10月号の概略

  • 9月の世界市場は、米FOMC、米大統領選挙、欧州銀行不安などを巡る疑心暗鬼で揺れる展開となりました。
  • 10月も、投票日まで1カ月強に迫る米大統領選挙、欧州情勢、原油相場の行方を見極める動きとなりそう。
  • 「あすなろ投資戦略」-グローバル分散投資の参考モデルである「カルテット運用法」について解説します。

(1)9月の市場変動要因を10月も引き継ぐか?

9月の世界市場が警戒視したのが米大統領選挙動向、原油相場、ドイツ銀行の経営不安などです。米大統領選では、クリントン民主党候補に「健康不安説」が浮上。政策面で不透明感が強いトランプ共和党候補の優勢が悪材料視されました。ただ、9月26日の候補者TV討論会が「クリントン優勢」で終わると、市場に「安堵感」が広まりました。一方、株価の重石となっていた原油相場の軟調については、9月28日にOPEC(石油輸出国機構)が約8年ぶりとなる減産合意に達したと報道され、原油相場が反発に転じたことが米国株の支援材料となりました。と言っても、大統領選挙本選(11/8)に向け10月に2回の大統領候補者討論会を残しており、原油相場も「減産を巡る詳細」が正式決定されるOPEC総会(11/30)まで楽観は禁物と思われます。一方、欧州の金融機関最大手であるドイツ銀行に経営不安説が浮上。米国での住宅債務担保証券販売に絡む不正取引疑惑で、米司法省から多額(約140億ドル=約1兆4,000億円)の課徴金が課されるとの観測が広まり、同行の自己資本が毀損するとの警戒感から株価は過去最安値を更新しました(9/29日時点)。ドイツ銀行の信用リスクを示すCDS(債務不履行損失保証料率)は上昇し、「欧州発の金融危機」を彷彿させました(図表1)。ただ、課徴金が同行の引当金の範囲内に減額されるとの見方や、世界のデリバティブ市場(相対取引)での存在が大きく、「Too big to fail」(影響が大きすぎて経営破たんさせられない)との見方で、ドイツ政府やECB(欧州中央銀行)による金融支援も想定されます。ドイツ銀行の株価は9月30日に急反発しましたが、10月もグローバルリスク要因として警戒が必要と考えられます。

図表1:ドイツ銀行の株価と信用リスク指標(CDS)

(注)CDS(Credit Default Swap)=債務不履行損失保証料率(上記の場合、ドイツ銀行の信用リスク水準を表す)
(出所)Bloombergのデータより楽天証券経済研究所作成(2016年9月30日)

(2)9月の日米金融政策会合で低金利環境は長期化?

9月のイベントとして注目度が高かった日米中央銀行による政策決定会合(9/20-21)では、日銀がこれまでの金融緩和策の効果に関する総括的検証を発表するとともに、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」の導入を決定。金融政策の操作対象(目標)を「量」から「金利」に変更し、インフレ率(物価上昇率)が2%を上回るまで10年債利回りをゼロ近辺に留めていく方針を示しました。一方、FRB(米連邦準備制度理事会)は年内に追加利上げを実施したい意向を表明する一方、9月は追加利上げの見送りを決定。利上げの見送りそのものは想定していた範囲内でしたが、市場はFOMC(連邦公開市場委員会)メンバーによる政策金利見通し下方修正に注目しました。下記の図表2は、昨年末以降四半期ごとに発表されてきたFOMCメンバーによる政策金利見通し(平均:中央値)と最新の市場予想平均(FF金利先物市場で計算される見通し)を示したものです。メンバーの政策金利見通しが下方修正されてきた経緯と、実際の市場見通し(コンセンサス)が「年内の利上げ見送り~2017年に利上げがあっても1回程度と見込んでいる」状況を示唆しています。今後も暫くは、日米ともに低金利環境が長期化すると考えられます。

図表2:米国の政策金利見通し

(出所)FRB、Bloombergのデータより楽天証券経済研究所作成(2016年9月30日)

(3)10月に注意したい主要イベントは?

終盤戦を迎えた米大統領選挙戦は、いまだクリントン候補とトランプ候補の支持率が拮抗する激戦となっています。既述の通り、第1回候補者討論会は「クリントン優勢(トランプ劣勢)」で終わりましたが、10月は第2回(11/9)と第3回(11/19)のTV討論会が予定されており、トランプ陣営による巻き返しも想定されます。米国市場は、クリントン候補の優勢を織り込んでいるだけに、トランプ候補が支持率を盛り返す事態となれば、来年の経済政策や外交政策を巡る不透明感が再び強まり、米国株や米ドル相場に下押し圧力がかかる可能性を排除できません。こうした動きとなれば、外部環境の変化に比較的脆弱な国内株式も波乱を余儀なくされるでしょう。10月も大統領選挙の行方には引き続き注意したいと思います。一方、7日に発表される米雇用統計(9月分)と28日に発表される米GDP(7-9月期)は米金融政策の先行きを占う上で注目されます。これら米経済指標の発表値が予想以上に強いものとなれば、「12月FOMCでの利上げ観測」が強まりそうです。また、日銀が月末(10/31-11/1)の金融政策決定会合(「展望レポート」公表予定)で追加緩和策を発表すれば、ドル円相場や日本株式の追い風となる可能性があります。ご参考までに、主要イベントごとに「世界市場への潜在的影響度」を定性的に判断し、それぞれに「H(高)」、「M(中)」、「L(低)」と記しました(図表3)。

図表3:注目したい10月の主要イベント(重要経済指標など)

(注)金融市場への潜在的な影響度を定性的に判断し、「H(高)」、「M(中)」、「L(低)」と付記しました。
(出所)各種報道などより楽天証券経済研究所作成(2016年10月初時点)

あすなろ投資戦略

本コラムでは、「あす(将来)はきょう(現在)より良くなろう」をイメージし、投資ニーズに応じた投資戦略をご紹介しています。今月は、グローバル分散投資の一例(参考モデル)として「カルテット(四重奏)運用法」をご紹介します。

(1)国内株式の低迷で見直されるグローバル分散投資

本年は、国内(日本)株式が低迷を続けるなか、「グローバル(国際)分散投資」の意義があらためて見直されつつあります。図表1が示す通り、2016年の年初来パフォーマンスで外国株式(日本を除く世界株式)に比較して国内株式が大きく劣後している一方、資産クラス別では(金利低下の恩恵を受けた)債券のパフォーマンスが優勢であり、金やリート(不動産投信)などオルタナティブ(株式や債券など伝統的な資産クラスと特徴を異にする代替的資産クラス)も堅調に推移しています。本年は、「国内株式だけでなく外国株式にも分散投資する」、「株式だけでなく、債券やオルタナティブにも分散投資する」ことが運用資産のリターンを安定化させる(リスクを抑制する)ことに貢献できたことを象徴する市場展開となっています(9月時点)。「卵は一つの籠(かご)に盛るな」(Don’t put all your eggs in one basket)は「分散投資の意義」を伝える昔からの格言です。国内経済の低迷が長期化するなか、日本の資産(株式、債券、円)だけで投資や資産運用を実践するリスクには留意が必要でしょう。投資環境の変化次第で変わるリターンの度合いやリスク(リターンのブレ)のタイミングを考慮し、内外資産(市場)に幅広く分散投資をすることで、運用資産全体のリスク低減を目指していくことが大切だと考えています。

図表A:年初来の資産クラス(市場)別リターン

(出所)各種市場平均指数、Bloombergのデータより楽天証券経済研究所作成(2016年9月末)

(2)「カルテット(四重奏)運用法」の意義と実践例

分散投資における資産クラス別のウエイト(株式や債券への投資比率)は、投資家それぞれのリスク許容度やニーズ(選好)に適合して決定されるべき-とされていますが、本質的には「リスク・リターン特性が異なる資産クラスに幅広く国際分散投資することが重要」と考えています。こうしたグローバル分散投資のニーズに応えるため、「カルテット(四重奏)運用法」を参考モデルとしてご紹介したいと思います。本モデルは、「わかりやすさ(簡便性や運用管理のしやすさ)」を重視し、(1)4種類の資産クラス(株式、債券、REIT、金)にバランス良く資産を配分(株式3割、債券3割、リート3割、金1割)し、(2)株式、債券、リートそれぞれで国内(日本)と海外(外国)に等配分投資する、(3)年末年始にリバランス(市場変動で生ずる比率のズレを等配分に戻す調整売買)を実施する-を想定しています。株式、債券、リート、金に分散投資する目的は、各資産のパフォーマンスが一定や一本調子ではなく、投資環境の変化次第で好調と不調が入れ替わりやすい特徴があるからです(図表B)。内外の資産(市場)にバランスよく分散投資し、運用資産のリスク(リターンのブレ)を抑制していく効果が期待できます。

図表B:カルテット運用法の資産配分モデル(参考)

(注)上記はあくまで一般的なイメージであり、実際の値動きが異なるケースもあります。

(3)カルテット運用法を長期積立投資で実践する

グローバル分散投資を実践していく上で検討したいもう一つの投資手法が「長期積立(定時定額)投資」です。まとまった資金を一度に投資せず、予め決めたタイミング(例:毎月末、毎四半期末、毎年末)で一定額ずつを投資し続ける方法です。例えば、市場データが入手できる限りの時点まで遡り、2003年末(約12年前)を起点として、「当初は100万円を投資元手に、毎年末毎に100万円を積み立てながらカルテット運用を実践し続けた」と仮定した投資をシミュレーションで振り返りました(図表C)。2003年末から2015年末までの累計積立額が簿価ベースで1,300万円(=100万円×13回)であったのに対し、時価ベースの投資総額は運用成果を反映して2,155万円まで成長したことがわかります。定時定額投資では、市場が低迷した(単価が安くなった)時には比較的多くの量を購入でき、市場が堅調だった(単価が高くなった)時には少ない量しか購入しないこと-が自動的に実践できました。こうして資産を効率的に成長させる手法は「ドルコスト平均法」と呼ばれています。長期的な視野に立った「カルテット運用法による積立(定時定額)投資」を、「貯めながら増やす資産運用法」として注目していきたいと思います。

図表C:カルテット運用への長期積立シミュレーション(市場実績)

(注1)2003年末に100万円を投資し、定時(年末ごと)に定額(100万円)を追加投資してきたと仮定。
(注2)波線(赤)は、「カルテット運用法」を実践してきた場合の円換算パフォーマンス(2003年末=100)を示す。
(出所)各種市場平均指数(円)、Bloombergのデータより楽天証券経済研究所作成(2015年末時点)

(4)具体的な実践法<参考例>

上述したように、資産運用にも異なる音色を組み合わせた四重奏(カルテットによるハーモニー)を取り入れていただきたいと思います。この資産運用でのハーモニーとは、単なる「調和」というよりも「お互いのリスクを和らげ合う分散投資効果」と考えていただければ幸いです。こうしたグローバル分散投資を実践していくには、それぞれの資産クラス(市場)のパフォーマンスに連動を目指す低コストのインデックス(市場指数)連動型投資信託やETF(上場投資信託)を活用することをお勧めします。資産運用では、リターン追求だけではなく、リスクやコストを意識しながらポートフォリオ(組み合わせ運用)を構築していくことが大切だと考えています。