2017年7月号の概略

  • 6月は欧米を中心に世界株式が調整。金融政策の正常化観測で長期金利が上昇。ドル円に底入れ感強まる。
  • 7日発表の米雇用統計は米景気を巡る不透明感を払拭できるか。G20での米中、米露の首脳会談も要注目。
  • 資産形成の方法論としてGPIFの運用方針を参考に。長期投資、国際分散投資、積立投資が安定運用の鍵。

(1)世界株式の年初来リターンには強弱がある

先週で2017年も上半期(1-6月期)を終えました。そこで、世界株式の年初来パフォーマンスを振り返ってみます。図表1は、主要株式市場の年初来リターン(MSCI株価指数の騰落率)を降順にしてランキングしたものです。今年前半は、香港(+20.1%)とインド(+13.9%)のリターンが出色であるのがわかります。先進国の中では、米国(+8.4%)が最も高く、長期市場実績(年率平均7-8%)を凌ぐ「強気相場」を維持しています。なお、6月単月では世界株式は約1%下落しましたが、ECB(欧州中央銀行)のドラギ総裁が金融政策の正常化(将来の利上げや出口戦略)を示唆したことがユーロ高に繋がり、欧州株が4%以上下落しました。その一方、ドル円に底入れ感が強まってきたことを主因に日本株が比較的底堅く推移したことで「ランキング上での日本株の出遅れ修正」がみられました。年後半の欧米市場では、「金融政策の正常化」を巡る材料が株式と通貨の動意に影響を与えると見込まれます。

図表1:世界株式の年初来騰落率とバリュエーション(一覧)

(注:MSCI指数ベース、予想値はBloomberg集計による市場予想平均、出所:Bloombergより楽天証券経済研究所作成(6月末時点))

欧米市場では、金融政策を巡る不透明感が安定化するまで神経質な動きを余儀なくされそうです。ただ、緩やかながら世界経済が成長し続けていることで、業績の拡大期待には根強いものがあります。図表1で示した予想PER(株価収益率)でみる通り、下半期入りした市場は徐々に18年の予想PERを視野に入れてくると考えられます。

即ち、主要先進国の株式市場が概して「業績相場」入りしている状況を重視したいと思います。特に、日本株に関しては、予想PERや予想PBR(株価純資産倍率)の面で他先進国市場との比較で割安感があります。また、債券市場利回りと比較した予想配当利回りの水準は、国内投資家にとり魅力があると思われます。ドル円相場の堅調(円安)の進展次第で、日本株の「出遅れ修正」(見直し買い)がさらに進む可能性があり注目したいと思います。

(2)米景況感の立ち直りと長期金利動向に注目

年後半も、「世界株式の基調を占う鍵(かぎ)は米国経済と株式市場の行方」と言っても過言ではないと思います。米国市場の動向が、欧米の外国人投資家のセンチメント(投資家心理)を介して売買行動に影響を与えるからです。そうした観点で、「適温相場」とも呼ばれる「低インフレ・低金利下での緩やかな景気拡大」が続くか否かに注目です。今春以降の米国市場では長期金利が低下傾向となりました。その要因として、トランプ政権の景気対策への期待剥落と米景気の鈍化(ソフトパッチ)観測が挙げられます。図表2は、米ダウ輸送株20種平均、米長期金利、ドル円相場の推移を示したものです。6月のFOMC(米連邦公開市場委員会)で、イエレンFRB議長は米景気の減速は一時的」との認識を示し、追加利上げを実施しました。6月以降、国内景気の先行きに敏感とされるダウ輸送株20種平均が戻り基調を鮮明にしています。そして先週は、米長期金利とドル円が底入れを鮮明にしつつあります。6月27日に発表された、6月の消費者信頼感指数は市場予想を上回り堅調な水準を示しました。アトランタ連銀が公表しているGDPナウキャスト(足元の景気予測)によると、4-6月期の実質GDP成長率(前期比年率)は+2.7%と、1-3月期の実績(+1.4%)より回復する見込みです。今後の米景気指標が「底堅さ」を示せば、米長期金利とドル円の戻りが後押しされ、日本株の出遅れ修正の追い風となる可能性があり要注目です。

図表2:米ダウ輸送株と長期金利と為替相場

(注:ダウ輸送株20種平均は2016年7月初=100とした場合の推移)
(出所:Bloombergのデータより楽天証券経済研究所作成(2017年6月末時点)

(3)7月に注目されるイベントや材料

図表3に、世界株式や為替相場を上下させる可能性があるイベント(材料)をまとめました。7日に発表される米雇用統計(6月分)は、米国の景況感と金融政策の変化を巡る市場の認識(コンセンサス)に影響を与えやすいため要注目です。また、7日から8日にかけてドイツで開催されるG20(主要20カ国・地域首脳会議)と米中、米露首脳会談にも注目です。トランプ大統領は、「パリ協定」(地球温暖化防止の国際枠組み)からの離脱を表明し、欧州各国との対立が鮮明化しています。また、朝鮮半島情勢や台湾問題を巡る米国と中国の対立が顕在化する兆しもあります。米国の政権運営を巡る不透明感が高まる結果となれば、市場心理の悪化を介して米国株やドル円の下押し圧力となりかねません。7月は主要金融当局(日銀、ECB、FRB)それぞれの政策決定会合が開催されますが、政策変更がされないとしても、「将来の出口戦略」に関する高官のコメントに市場は神経質な反応を示す可能性があります。

図表3:7月の注目イベントなど(一覧)

(注:「注目度」は、金融市場への潜在的な影響度を定性的に判断して付記したものです)
(出所:各種報道などより楽天証券経済研究所作成)

<グローバル投資戦略-「貯蓄から資産形成へ」の方法論>

本コラムでは、投資ニーズに応じた各種投資戦略をご紹介しています。今月は、資産形成の具体的な方法論として、公的年金基金の運用機関であるGPIFのポートフォリオ方針に倣う手法について解説したいと思います。

(1)公的年金基金の運用方針に倣う資産形成

一般個人の方々に「貯蓄から資産形成へ」とのニーズが徐々に高まっています。とは言うものの、具体的にどのような資産形成を実践していけばよいかには様々な意見、方法論が議論されています。そこで筆者は、皆さんの公的年金基金を運用しているGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が目標にしているポートフォリオモデル(資産配分の基本方針)を参考にしたいと思います。2014年10月にGPIFが改訂した「新・基本ポートフォリオ」(新しい資産配分目標)をみると、「国内株式25%(±9%)、外国株式25%(±8%)、国内債券35%(±10%)、外国債券15%(±4%)」となっています。投資のプロが安定性を重視した最適な配分と考えるポートフォリオが「株式5割+債券5割」で、「外貨建て資産(外国株式+外国債券)が全体の4割」である点が特徴です。GPIFは、「デフレを脱却した今、債券を中心とした運用では必要な利回りを得られない」と表明して注目されました。

図表A:資産クラス別の長期パフォーマンス(円)

(出所:各種市場平均指数(円換算)、Bloombergのデータより楽天証券経済研究所作成(2017年5月時点))

(2)GPIG型国際分散投資のシミュレーション

GPIFのポートフォリオ運用の基本となっているのが国際分散投資の考え方です。GPIFは、「分散投資を行うことで、長期的にリスク(リターンのブレ)を抑制できることが、これまでの国内外の経験則や投資理論で明らかにされている」としています。とは言うものの、2014年10月に前述したポートフォリオ改革を発表するまでは、「国内株式12%(±6%)、外国株式12%(±5%)、国内債券60%(±8%)、外国債券11%(±5%)、短期債券5%」との基本方針に沿った運用が実施されていました。この「旧・ポートフォリオ方針(旧GPIF型投資戦略)」では、超低金利環境の長期化で期待リターンが低くなっていただけでなく、金利上昇リスクに晒される国内債券の比率が過度に高かった保守性が批判されていました。そこで、収益性を重視した株式の配分を増やし、成長期待が日本より高い海外(外国)の投資配分を増やすことで、年金財政上で必要な利回りを確保する方針を打ち出しました。なお、新・ポートフォリオ方針にみられる「ポートフォリオ全体のうち5割程度を株式で運用する」戦略は、長期的な視野で必要利回りを確保しようとする海外の公的年金基金では常識となっています。図表Bは、「新GPIF型分散投資」と「旧GPIF型分散投資」の資産配分比率(中心値)で投資をした場合のパフォーマンス(円)を比較したものです。

図表B:新・旧GPIF型分散投資のパフォーマンス比較

(注:新GPIF型分散投資=国内株式25%+外国株式25%+国内債券35%+外国債券15%、
旧GPIF型分散投資=国内株式12%+外国株式12%+国内債券60%+外国債券11%+短期債券5%)
(出所:各種市場平均指数(円換算)、Bloombergのデータより楽天証券経済研究所作成(2017年5月時点))

(3)定時定額投資を続ける資産形成を

長期的な視野で着々と資産を形成するにあたり、注目いただきたい手法が積立(定時定額)投資です。まとまった資金を一度に投資するのではなく、予め決めたタイミング(例:毎月末や毎四半期末)ごとに一定金額を投資し続けていく方法で、「貯めながら増やす資産運用法」とも言えます。例えば、上記した「新・GPIF型分散投資」(新ポートフォリオ方針の基準ウエイトに沿い、国内株式、外国株式、国内債券、外国債券に分散投資する戦略)について、1996年末(約20年前)を起点にして毎月末に5万円を積立(定時定額)投資し続けてきたと仮定します(図表C)。すると、累計積立額(簿価)は1,230万円(=5万円×246回)に留まったのに対し、時価ベースの元本総額は約2,077万円と約1.7倍に膨らんできたことがわかります(2017年5月末時点)。定時定額投資では、ポートフォリオ全体が下落(マーケットが下落)した時は多くの量(口数)を購入でき、ポートフォリオ全体が上昇(マーケットが上昇)した時には少ない量(口数)しか買わないことで、「ドルコスト平均法」(Dollar-Cost-Averaging)と呼ばれる投資単価の安定化効果を見込むことが可能です。上記した専門家(GPIF)のポートフォリオ方針に倣えば、個人投資家もリスクを抑えながら比較的安定的な資産形成を再現できると思います。GPIFの資産配分を参考にし、運用コストが低いインデックスファンドに資金を配分して積立(定時定額投資)を続ければ、公的年金の運用パフォーマンスと似た資産形成を構築することができると考えています。

図表C:新GPIF型分散投資の積立投資シミュレーション

(注:新GPIF型分散投資=国内株式25%+外国株式25%+国内債券35%+外国債券15%)
(出所:各種市場平均指数(円換算)、Bloombergのデータより楽天証券経済研究所作成(2017年5月時点))