2017年6月号の概略

  • 5月は米国株式を筆頭に世界株式が高値を更新。目先の不確実性を乗り越え、「業績相場」を鮮明にしている。
  • 6月のFOMCでの追加利上げは想定の範囲内。英国とフランスの総選挙結果が波乱となる可能性は低いと予想。
  • インド株式が最高値を更新。モディ政権が進める構造改革と、中国を凌ぐ長期成長期待を海外投資家が高評価。

(1)世界の株式市場は「業績相場」を鮮明に

5月は米国株式も世界株式も主要株価指数が史上最高値を更新する堅調となりました。こうした強気相場の背景を一言で表せば「業績相場」となるでしょう。「業績相場」とは、相場全体と個別銘柄の両方に使われる言葉で、企業業績の好転や拡大期待に伴って株価が上昇する相場を言います。「株価は企業の将来を映す鏡である(株価は業績)」との格言もあり、ここで言う「企業の将来」とは景況感の改善(悪化)や競争力の改善(悪化)を示します。現在の米国市場や世界市場で起きているのは、歴史的にみて依然緩和的な金融環境であるなか、景気の緩やかな改善を受けた企業業績(売上や利益)拡大を見込んで株価が上昇している現象です。図表1は、2006年以降の米国株式(S&P500指数)と世界株式(MSCI世界株式指数)の推移を上段に、同期間の指数ベースEPS(1株当り利益)の実績と見通し(2017から2019年は市場予想平均)を下段に示したものです。昨年央以降、リスク要因の顕在化や警戒感による幾度の調整を経ながら、企業業績(EPS)の拡大を期待して株価が上昇してきたことがわかります。下段でみる通り、米国株式の2017年予想EPSは史上最高益(水準)を3年ぶりに更新する二桁増益が見込まれ、世界株式の予想EPSも史上最高益を10年振りに更新する二桁増益が予想されています。米トランプ大統領の政策遂行能力、朝鮮半島の緊張、欧州政治動向を巡る不透明感(不確実性)は未だ払拭できませんが、事態が一時より落ち着いてきたことで、「市場が悪材料に慣れてきた(織り込んできた)」との見方もできます。

図表1:米国株式、世界株式、業績動向

(注:指数ベースの予想EPS(1株当り利益)はBloomberg集計による市場予想平均、
出所:Bloombergより楽天証券経済研究所作成)

(2)今年は新興国株式の優勢が鮮明に

こうしたなか、今年前半は新興国株式(エマージングマーケット)が相対的に優勢な推移となっています。図表2は、昨年(2016年)末を100として、新興国株式の動きを象徴するMSCI新興国株式指数、先進国株式を象徴するMSCI先進国(G7)株式指数、日本株式(TOPIX)の推移を示したものです。今年に入っては、新興国株式が日本株式はもちろん世界株式をもアウトパフォーム(リターン面で優勢に推移)してきたことがわかります。新興国株式が堅調である主な要因としては、(1)昨年11月の米大統領選挙を契機とした米長期金利とドルの上昇が一服し、新興国からの資金流出リスクが収まった、(2)昨年春まで「資源バブル調整」を経た国際商品市況が回復基調を維持している(新興国には一次産品を主な収入源にしている国が多く、景気の持ち直し要因となってきた)、(3)国によっては構造改革に進展がみられる、(4)先行して上昇してきた先進国株式と比較して「割安感」や「出遅れ感」がある、などが挙げられます。特に(4)については、MSCI先進国(G7)株式指数の予想PER(株価収益率)が17.6倍であるのに対し、MSCI新興国株式指数の予想PERは12.9倍と低位に留まっています(6月2日時点)。また、人口動態(新興国では労働人口が増加基調にある)、1人当たりの所得の水準(いまだ増加余地が大きい)、生産性の改善余地(構造改革の進展次第)を勘案すれば、新興国の成長率が先進国を上回るトレンドに大きな変化はないと考えられます。IIF(国際金融協会)によれば、非居住者(海外投資家)による新興国のリスク資産(株式や債券など)への投資は、昨年12月から6カ月連続で流入超と報告されています(5月時点)。

図表2:新興国株式、世界株式、日本株式の相対推移

(出所:Bloombergのデータより楽天証券経済研究所作成(2017年6月2日))

(3)6月に注目されるリスクイベント

図表3に、6月に世界株式や為替相場を上下させそうなイベント(材料)をまとめてみました。FRB(米連邦準備制度理事会)は、13-14日に開催されるFOMC(米連邦公開市場委員会)で追加利上げを決定するとみられています。FOMC直後の記者会見でイエレン議長が、(1)今後の利上げペース、(2)期待インフレ率の低下、(3)出口戦略(量的緩和政策の縮小)などに、どう言及するかが注目です。政治動向では、昨年の大統領選挙にロシアが介入した疑惑をめぐり、トランプ大統領が解任したコミー前FBI(連邦捜査局)長官が8日に議会証言(上院特別委員会)する予定です。同大統領には、コミー氏に対する「捜査妨害疑惑」が浮上しており、大統領との会話を記録したとされるメモの内容が焦点となっています。コミー氏の証言内容次第では、トランプ政権はさらにダメージを受けかねず、景気対策の実現期待を後退させる可能性があり注意が必要です。また、8日に予定されている英国の総選挙では、メイ首相が率いる与党・保守党を最大野党の労働党が猛追しています。保守党が勝利できない場合、EU(欧州連合)との離脱交渉に暗雲が広がる可能性があります。11日に予定されているフランス国民議会選挙では、5月の選挙で当選したマクロン大統領が率いる中道新生党「共和国前進」の優勢が報道されています。

図表3:6月の注目イベントなど(一覧)

(注:「注目度」は、金融市場への潜在的な影響度を定性的に判断して付記したものです)
(出所:各種報道などより楽天証券経済研究所作成)

<グローバル投資戦略-注目されるインド株式と関連上場投信>

本コラムでは、投資ニーズに応じた各種投資戦略をご紹介しています。今月は、年初来堅調に推移している新興国市場のなかで、特に注目度が高まっているインド株式と関連上場投信をご紹介してまいります。

(1)インド株式が堅調である背景は?

新興国市場のなかでもインド株式の堅調が注目されています。主要株価指数であるSENSEX指数は節目とされた3万ポイントを4月に超え、5月も過去最高値を更新。同指数は年初来17.5%上昇しています。モディ政権による政治や行政の改革期待だけでなく、中国を凌ぐ高い実質成長率見通しに外国人投資家があらためて注目。海外マネー(投資資金)流入で通貨ルピーも底堅い動きとなっています(図表A)。また、インド経済の重石とされてきた高インフレが落ち着き始めたことも、金利の安定見通しを介して株式市場を支えています。さらに、インド経済は比較的外需(輸出)依存度が低く、世界市場の不透明要因とされる「トランプリスク」や「チャイナリスク」から影響を受けにくいことも選好理由となっているようです。インドでは、州政府の地方税を含む税制が複雑で、ビジネス(企業)にとり高コストでした。モディ政権が今夏に導入を目指すGST(物品・サービス税)導入や金融機関の不良債権処理など構造改革が進めば、海外投資家によるインド株式の見直しがさらに強まる可能性があり注目したいと思います。

図表A:インド株式と通貨ルピーの対円相場

(出所:Bloombergのデータより楽天証券経済研究所作成(2017年6月2日))

(2)モディ政権が進める構造改革に高い評価

インド株式の堅調は「モディノミクス相場」とも呼ばれています。就任して3年となるモディ首相の構造改革を評価・期待する相場と言う意味です。昨年11月に実施した「高額紙幣の廃止」に続き、5月中旬のインド国民議会ではGST(物品・サービス税)を7月に導入する方向となりました。これまで地方自治体(州)ごとに課税していた間接税を国家として統一するもので、高コスト体質の改善や税制の透明性・簡素化が、内外企業の競争力向上と経済成長の促進に寄与するとの期待に繋がっています。こうした構造改革で、インフレが安定化すれば、市場が不安視していたインド中銀による利上げ(金融引き締め)不安は後退することになります。図表Bでみるとおり、中長期でみたインドの実質成長率は中国(6%台)を上回るペースが見込まれています。一方、インフレ率(消費者物価指数の前年同月比伸び)は比較的安定して推移すると見込まれ、政策金利、長期金利、為替(ルピー)見通しも比較的安定しています(市場予想平均)。さらに長期で展望すると、インドの総人口(13億935万人)は中国の総人口(13億8271万人)に迫る増勢をみせています(IMF/2017年4月調査)。国連の調査(2015年予想)では、インドの総人口は2022年までに14億人に達して中国と同水準となり、その後は中国を上回り続け、2030年までに15億人、2050年までに17億人に達する見通しです。労働人口の増加、1人当りGDP(所得)の増加、構造改革の進展と海外からの資金流入で生産性が向上するなら、インドが新興国市場の雄(リーダー)となることも期待できそうです。

図表B:インドの経済、金利、為替見通し(市場予想)

(注:2017年以降の予想は市場予想(Bloomberg集計による専門家予想平均))
(出所:Bloombergのデータより楽天証券経済研究所作成(2017年5月末時点))

(3)インドの株式指数に連動を目指す上場投信

こうしたインド市場に投資を展開していくには概ね3つの方法があります。(1)インドの個別銘柄に投資する、(2)インドの株式市場に分散投資する公募投信(ファンド)に投資する、(3)インド株式に分散投資するETF(上場投資信託)に投資する、の3種類です。これらのうち、個別銘柄に投資するリスクを分散し、投資に伴うコストを抑制することができる「指数連動型分散投資」に注目したいと思います。

インド株式に分散投資する円建てETN(上場投信=ETFの一種)が東京証券取引所に上場されています。「Next Funds インド株式Nifty50連動型上場投信」(東証コード:1678/野村アセットマネジメント運用)は、インドの大型株指数である「Nifty50指数」(円換算)への連動を目指すETNです。「Nifty50指数」とは、インド・ナショナル証券取引所の代表的な株価指数で、時価総額が大きく流動性も高い大型50銘柄の株価を浮動株調整後の時価総額比率で加重平均された株式指数です。ETNとは、「Exchange Traded Note」の略で、「上場投資証券」または「指標連動型上場投信」と呼ばれる投資商品で、基準価額や取引価格が株価指数に連動するように運用されています。当該ETN(1678)の概略と最近のパフォーマンスを図表Cにまとめました。特徴として、(1)最低投資金額が約1万5000円と比較的手軽であること、(2)運用純資産がhp約50億円で、売買口数(20日平均)も約20万株と東証上場ETF(ETN)としては比較的流動性があること、(3)インド株式の堅調を反映し、取引価格が年初来20%上昇(円ベース)していることがわかります。上述のとおり、インドは経済成長期待が高いなか、モディ政権が将来の成長率底上げのために構造改革を進めています。海外投資家と同様、こうしたインドの中長期的な投資魅力に注目するなら、インド株式への分散投資を手軽に実践できるETF(ETN)は検討する価値があると考えています。

図表C:インド株式への連動を目指す東証上場投信ETN)

(出所: Bloombergのデータより楽天証券経済研究所作成(6月2日))