投資コストを払うことは全て悪ではない

投資について学び始めると、ほぼ確実に「不要なコストを払わないように」と注意喚起されます(もしそう書かれていないならその投資教育コンテンツは問題ありです)。

しかし、投資コストを払うことをすべて悪のように考え始めたらそれはちょっと行きすぎかもしれません。今回は投資のコストについて「なんとなく投資」を脱却するヒントを考えてみたいと思います。

コストを払うことについてのバランス感覚を持つことがポイントです。あなたが支払う投資のコストがあなたの投資スタイルも勘案して適当な水準かどうか、考えてみるのです。

例えとして、車検や車のメンテを考えてみる

マイカーを所有している人は、いろんなコストを支払いますが、車のメンテナンスコストと車検コストはバカにならないものです。

そこで考えるのがこうしたコストを抑える方法です。ディーラーでお任せではなく、オートバックス等のパーツショップに出かければパーツ代金や作業工賃が比較的安くなります。

それより安くする方法もあります。自分で作業もやってしまえば、パーツ代だけですむでしょう。これは一番のローコストです。

しかし、ライトやタイヤの交換は専用工具が必要だったり、専門的なノウハウが求められます。私は初めて買った車で、興味本位でライトの交換を自分で試みたことがありますが、1時間では終わらず、これは技術を持つサービススタッフに任せたほうがいいと痛感しました。

車検も同様です。費用だけを抑えたいのであれば、ユーザー車検にいけばもっとも割安です。しかし自ら書類を整え陸運局に足を運ぶ必要があります。やりとりも自分でしなければいけません。

そのために自分自身がある程度の知識を必要としますし、一日分の有給を取れば、あなたの日給相当が費やされたことになります。

たいていの場合、ユーザー車検を考えたもののちょっと大変だな、とディーラーやオートバックス等のカーショップ等に車検を依頼すると思います。しかし、このコストは現実的に必要かつ妥当なコストといえるでしょう。

自分ですべてやるほうが割安かもしれないが時間も手間もかかることは無視できない

車検の例でコストとサービスの関係についてはイメージしやすくなったと思います。

同じ結果(車検通過)をできるだけローコストで追求することは大切です。ディーラーとカーショップに見積もりを取って比較することは、「同じサービスをローコストで買うが、一定のコストは受け入れる」ということです。

資産運用でも、現物株の売買において同じサービス(つまり売買)をよりローコストで実現することは重要です。ネット証券の多くは手数料体系を競い合っていますが、よりローコストのところを選択するのは合理的な努力です。

しかし、ローコストを追求したところ、そのために付加的負担が生じた(例えば自分の時間を2日消費した)というようなことも起こりえます。たとえば、国内株での資産運用を考えるが、毎日マーケットをチェックしたり、銘柄選択のための情報収集に時間を割くことは現実的に難しいという人もいます。

車のマニアは自分で情報収集し工具を用意し、タイヤ交換するのが楽しいかもしれません。ユーザー車検も車好きなら楽しい時間となるでしょう。しかしほとんど人にとって、その労力は苦痛となるかもしれません。

個別株で売買するための事前情報収集にかかる時間や負担を、インデックスファンドやETFが肩代わりしてくれていると考えれば、これは自分で車をメンテする(=個別株を自分で売買する)費用より、ディラー等にメンテを任せて工賃を払う(=ETFや投資信託で売買する)費用がかかってもよいのだ、と理解できるはずです。

投資信託のコストそのものを「意味のある費用」にする

こういう話題を取り上げると、「金融機関に手数料を支払うことを正当化するのか」と批判されそうですが、話はもう一段階掘り下げて考えるべきです。

「コストを無条件に払うのではなく、妥当なコストを払う」ということを考えた人は、「なんとなく投資コストを払う素人」ではなく、一歩ステップアップした個人投資家になれるからです。

先ほどの例でいえば、なんとなくディーラーにお任せで車検を頼むのではなく、サービスの質は変わらないことを確認のうえで近くのガソリンスタンドやカーショップにも比較見積もりをし、最安値のところで車検をするような意識です。

同じような資産運用を行い、リスクも運用結果も同水準であれば、当然ながら運用コストは低い方が望ましいのが明らかです。これはインデックスファンドやETFの活用を主体的に選択、コストを支払うことになるでしょうが、意味ある選択になります。

販売員の口車に乗って、新発売で運用実績も明らかでない高コストの投資信託を買うのとは、コスト意識もまったく違います。

普通に働く個人は投資にだけリソースを割けるわけではありません。仕事に集中して稼ぐことをおろそかにできません。

パートナーや子どもがいる場合、家族との時間を無視して投資に時間を割くこともまたオススメできません。人生の主目的は投資ではないからです。

だとすれば、「意味のあるコスト」として適切な水準の投資コストを支払い、投資のいくつかの部分についてはアウトソースしてもいいのです。

コストを適切に支払うための投資の選択肢

幸いにして、低コストの分散投資手法は選択肢が増えています。

まず、ETFはまさに「意味ある低コスト」の有力な選択肢です。売買コストは現物株に準じて証券会社を比較し支払い、保有コストは投資信託より低コストで支払うことで、複数銘柄を内包した分散投資が可能になります。

投資信託については高コストになりがちなことが問題でしたが、投資家サイドが検索し選択することで低コスト運用も実現可能になりました。

楽天証券取り扱いの投資信託を検索すると(スーパーサーチ機能が便利)、「たわらノーロード 日経225」が年0.2106%、「たわらノーロード 先進国株式」が年0.243%の低コストで国内外の株式に分散投資可能です(いずれもノーロード)。

バランス型ファンドについても「三井住友・DC年金バランス70(株式重点型)」が年0.2592%で投資可能ですから(もちろんノーロード)、国内外の債券と株式に単一商品で投資しつつ低コストの運用が可能となっています(同ファンドは、確定拠出年金向けの低コスト商品が一般にも購入可能となったものです)。

年間2%の運用手数料を払っていたバランス型ファンドはもはや論外です(約10倍も費用を払って、パフォーマンスが10倍差がつくことはあり得ない!)。ここに示したような低水準の投資コストであれば、私は個人にとって選択肢たりうるかなと思います。

車検をどこにするか2年に一度だけ悩むように、商品選びのときだけ少しの手間(最初のフィルタリングの手間)をかけ、少しの時間を費やしてみましょう。

その後はメンテナンス負担も少なく(つまり自分の人的コストも抑えられた)、投資のコストも抑えた「意味のある低コスト」運用になるのではないでしょうか。