昨年から何度か、「第3の企業年金」というような言葉が新聞紙面をにぎわせています。従来型の確定給付企業年金について、新たな制度設計を認めよう、というものですが、この制度、早ければ4月から認められるようになります。
あなたがもし、「社員と会社がリスクを分担する」と言われて、これはいいしくみだと早合点しているなら要注意です。
確定拠出年金は個人が、確定給付型企業年金は会社がリスクを負う
企業年金制度は大別すれば確定給付型と確定拠出型に分かれます。
確定給付型は「掛金を会社が出し、管理・資産運用も会社が行い、最終的な給付額(および年数)まで会社が面倒をみてくれる」制度です。
確定拠出型はこれに対し、「掛金を会社が出し、管理はしてくれるが、資産運用の判断は社員自身が行い、最終的な給付額(および年数)はその結果によって決まる」制度です。
簡単にいえば、確定拠出年金は個人が運用のリスクを負い、確定給付企業年金(もしくは厚生年金基金)は会社が運用リスクを負っています。
同じしくみを運用の巧拙でもう一度比較してみましょう。
確定給付企業年金の場合、運用がうまくいっても給付が自動的にアップすることはありません。その代わり運用が上手くいかない場合、会社がすべてを穴埋めします。
(ただし穴埋め資金のため、ボーナスが下がったり賃上げが見送られることがある。また、労使合意によって全員を対象に給付カットを行うこともあるので、運用リスクのツケは社員にも及ぶ)
確定拠出年金の場合、運用がうまくいったら個人が総取りできる一方、うまくいかなかった場合はその成果で納得しなければいけません。その代わり個人の資産のみ運用リスクを負えばいいので、OBの年金資産に運用損が生じたツケを若い世代のボーナスカットにしわ寄せするようなこともありません。
リスク分担型のDBがこのたび選択できるようになる
確定拠出年金タイプと確定給付企業年金タイプは制度のしくみも運用のリスクの取りようも対照的な制度といえます。
もともと確定給付タイプのみだったところに、今までにない制度を作ったわけで、確定拠出年金タイプがその対極にあるわけです。
確定給付タイプには、キャッシュバランスプランと呼ばれる亜種もあって、こちらは「マイナス運用の結果は会社が埋めるが、運用実績を給付額に反映させることのできるしくみ」となっています。10年もの国債の平均金利などをベースに上下限を決めるので、一定の範囲で利回りが保証されていることになります。
今回、これに加え「リスク分担型DB」(DBというのは確定給付企業年金のこと)が開設できるようになる予定です。これがいわゆる「第3の企業年金」です。
名前だけみるとリスクを分担するわけですから、いい雰囲気ですが、実はこれ、なかなかのくせ者なのです。
「会社と社員のリスク分け合い」というのはイメージと実態はずいぶん異なる
おそらく、ほとんどの人は会社と社員がリスクを分け合うといえば、運用が不調のとき、会社が半分は負担するが半分は私たちが受け入れるというものでしょう。
しかし制度としてはそんな単純な「分担」にはなりません。会社が分担するのは「リーマンショッククラスの損失を想定しその一定割合を予め特別な掛金を負担しておくこと」です。
これに対し、社員側が分担するのは「リーマンショッククラスの損失が現実に生じて大きなマイナスになったとき、会社が予め負担した掛金を超えた分については自動的に給付カットされる」という条件なのです。
なぜ、会社と社員側のリスク分担アプローチが異なるかというと、理由は2つほどあります。
まず、会社は掛金を損金算入することで利益が下がり法人税額にも影響します。これは税当局としてはおもしろくないので掛金は安定的に出すことが原則となっていることです。
また株価が下がっているときは景気が悪いときですから会社も追加負担できない可能性があります。積立不足発生時でお金を出せないことが制度廃止につながる恐れもあるため、「積立不足発生前に積立不足を見越して会社はカネを出す」とせざるを得ないのです。
(さらに、この方式にもとづけば退職給付会計上、確定拠出年金みなしとし退職給付債務の問題から解放される可能性があり、認められれば企業サイドにはメリットがあります)
社員個人はリスク分担型DBをどう受け入れるべきか
そうすると、個人にとってリスク分担型DBのしくみは「基本的には会社の予定利率(近年では年2.5%くらいが多い)に則った運用をお任せで期待できる金融商品」であるものの、「マーケット急落時には給付カットを予め受け入れ自動的に引き下げられる運用方法(そのつど労使合意を取らない)」ということになります。
これはなかなか難しい運用条件です。運用の手間暇を考えれば決して悪い条件ではないものの、年2.5%程度の利回りと急落時の強制給付カットの抱き合わせが適当な条件かは判断が難しいところです(運用好調が給付増になる可能性もありますが…)。
会社はおそらく「会社と社員がリスクを分け合う理想的なしくみ」といった雰囲気で制度変更の説明をし、労使合意を取り付けてくることでしょう。そこは注意が必要です。
もし読者に労働組合の執行部の人、あるいは執行部に近い人がいたら、「リスク分担型DBへの制度変更は、労使がリスクを分け合う理想的な形とは限らない。むしろ給付カットを強制されるしくみかもしれない」と考えてみてほしいと思います。
残念ながら、個人レベルで行える対策はあまりありません。こうした制度への切り替えは労使合意によって全社的に行われるため、一律にしくみは適用され、ひとりひとりの好みは反映されないからです。
個人レベルでの対策は、確定給付企業年金のポートフォリオ(情報開示される)をチェックしながら、自分のポートフォリオのリスクを調整し、リスク過剰にならないよう意識することでしょう(アセット・アロケーションに企業年金資産も組み入れる)。リスク分担型DBが高いリスクを取った運用をしているなら、個人の運用ではリスクを控えめにするなどバランスを取ってみるわけです。
結論としては「単純でおいしい話はない」ということです。(これは、個人の運用商品選択においても同様の教訓です)
何においても、「理想的なリスクの分担がある」とは考えないことが大切です。