株価が毎日乱高下、急転直下の日々
いわゆるチャイナ・ショック以降、株価はジェットコースター相場の様相を呈しています。上がったと思えば下がり、下がったと思えば上がる、そんな感じです。
寄り付いたときの前日比の上げ下げが午後にかけて拡大し、上げないし下げの傾向が拡大する、というより、その日のうちに戻してみたり、その日のうちにさらに反転するようなマーケットが続いており、文字通りジェットコースター的なめまぐるしい動きです。
こういう騰落が続くと、投資初心者ほどマーケットに翻弄されてしまいます。ちょっと手を出して、裏目に出続けている人もいるのではないでしょうか。
しかし、普通の会社員の530万人が日々の細かい値動きなど気にせず落ち着いた投資行動を取っているとしたらどうでしょうか。実は確定拠出年金(日本版401k)の加入者の多くは、こうしたマーケットでどっしり構えて焦らず投資をしているのです。
今回は「なんとなく投資」からのステップアップとして、ジェットコースター相場の対応方法を考えてみます。
小刻みにせわしなく動く相場に落ち着いて対応する能力を学ぶべく、今回は確定拠出年金利用者の投資行動を参考にしてみてはどうでしょうか。
401kのほとんどの加入者は泰然自若 その理由とは
すでに全国530万人が自分の確定拠出年金口座をもっており、これは預貯金や保険商品などの安全資産への預け入れと、投資信託での運用が行える口座です。リスク資産運用の選択肢は投資信託に限定されるものの、銀行や証券会社で証券口座を開設していることとほぼ同義です。
ところが、この口座、投信窓販などと比べて投資行動が全く異なることが知られています。
特徴1・騰落に影響せず買い続ける
まず、市場の騰落に新規買い付けの行動がほとんど影響されないことです。一般的に市場が急落すると新規の購入は減り、市場が上昇中(ないしピーク時)に購入が増える傾向があります。
投資行動としては市場の上昇前、つまり下落基調の時期に購入したいわけですが、個人投資家は合理的に行動できません。
しかし、確定拠出年金では毎月固定的な掛金入金にもとづく買い付けが行われ、またその購入指示をこまめに変更することがないので、結果として上げ相場でも下げ相場でも泰然自若としてリスク資産を組み入れることになります。
購入額が一定である、ということは長い目でみると市場が好調時には口数を少なく、下落時には口数を多く保有することとなり、結果として市場の回復時には有利な投資行動を選択したことになります。
チャイナショック前のデータですが、2015年3月末の資料では、約100万人が年率10%以上の投資成績を得ているそうです。
特徴2・解約率が低く長期保有傾向が高い
また、解約率の低いこと、つまり長期保有の傾向が強いことも確定拠出年金投資の基本的スタンスとなっています。
市場の急落時に狼狽売りの注文を出して、数日後の回復時に「何もしなければよかった」と後悔することがしばしばありますが、確定拠出年金の解約比率は銀行窓販の半分程度である、というレポートがあるほどです。
ひんぱんな回転売買を行うことは、無用な譲渡益課税を招くだけでなく、販売手数料や信託財産留保額等の売買コストも生じます。効率的な投資行動を考えれば、リバランスなどを行うわけでない限り、中長期保有を心がけるほうが効果的です。
そもそも、確定拠出年金の投資においては個別株は選べず投資信託を活用します。投資信託は基準価額は一日一度しか改まらないので、マーケットの日中の値動きをウオッチすることはほとんど無意味です。
終値を見て注文をしたとしても、注文が翌日の基準価額や翌々日の基準価額で受け付けられることもしばしばで(投資信託の条件による)、今日の上昇を見た売り注文は明日の下落を反映した売買になるかもしれません。
むしろ数日の値動きではなく中長期的な目線で売買を考えるとき、確定拠出年金のようにのんびりスタンスで投資を行うほうがいいわけです。
特徴3・インデックス運用をベースとしている
確定拠出年金においてはインデックス運用をコアとしている傾向が強く、アクティブファンドのシェアは2~3割程度にとどまります(国内株のみ約5割)。日本株に限れば日経平均株価よりTOPIXに集中しているのも特徴で、一般的な投信販売と真逆の投資傾向になっています。
しかし、これも中長期保有で、こまめなケアを行わない(回転率が低いので)ことを考えればローコストの資産形成として機能していることになり、有意義になっています。
特に確定拠出年金では銀行の窓販や証券会社の取り扱いにもない低コストの投資信託が含まれており、これを組み入れることはさらなる有利な資産形成につながります。
(※余談ですが、楽天証券が確定拠出年金専用ファンドをネット証券で取り扱いし始めたことはエポックメイキングな出来事です。取り扱い商品の数がさらに広がれば、個人投資家にとって歓迎できることでしょう)
「何もしない」投資は「なんとなく投資」ではない
ムダな売りを省くことは投資効率の最大化を考えるとき重要なポイントですが、ムダな売りを省くということはつまり、「何もしない」をする、ということです。
「なんとなく投資」からステップアップしようとするとき、投資頻度を上げることがベテランへの道のりだと思っているならそれは誤解です。
確かに完全にピークを過ぎて回復の見込みがないのであれば、売ることが必要ですが、中長期的に回復が期待できるのであれば売らないこともまた戦略のひとつです。
頻繁な売買頻度を求めていないのであれば、ジェットコースター相場では何もせずしばらくのんびり構えてみる方が効果的です。少なくとも「上げると思って買ったら下がった(でも売ったらまた戻った)」のような短期的上下動に引きずられずにすむからです。結果として損得ゼロであっても売買手数料分のマイナスが生じます。
仮に売るとしても部分的な売却にとどめて、「全額売り→全額買い」のような投資スタイルは選ぶべきではありません。個別銘柄や個別商品を見るのではなくポートフォリオ全体を意識し、もともと考えていた資産配分は維持した方がいいでしょう。
バンガード社のCEOビル・マクナブ氏も、同社のHPで「市場が乱高下しているとき、何をすべきか?それは「何もしない」こと」というメッセージペーパーを公開しています。私も同感です。
相場を見て「何もしない」をあなたの投資の選択肢に加えることができると、投資のレベルはステップアップすることでしょう。