増えるDINKSというライフスタイル

DINKS、つまり共働きで子どもがいない夫婦に特化したマネープランの本はあまりありません。今回はDINKSの資産運用のポイントについて考えてみたいと思います。

国勢調査によれば、全国の世帯のうち既婚女性の世帯類型をみると「夫婦のみ」が32.5%、「夫婦と子」という世帯が46.4%を占めるそうです。かつてはこの2つの世帯類型はおおむね2倍の差があったことを考えると、「夫婦のみ」世帯が増えていることが分かります。

(もちろんこれは概数です。「親と同居」が大きく減少していることも「夫婦のみ」世帯が増える一因ですし、夫婦のみ世帯が必ずしもDINKSではないことはお断りしておきます)。

DINKSについては、子育てという目の前に迫る費用負担がありませんので、毎月の家計で赤字になることはあまりありません。しかし、なんとなく資産形成をしておけば、それなりにお金が貯まるだろう、と考えるといくつか危ういポイントがあります。

DINKSの家計をまず整理してみる

さて、DINKSの場合、マネープラン上特徴としてあげられるポイントは、

  • A:共働きであり合計年収が高いことが多い
  • B:子どもがいない分、養育・教育費用の負担が生じない
  • C:生活水準は総じて高いことが多い
  • D:夫婦ともに正社員の場合、退職金を2カ所からもらえ、夫婦ともに厚生年金を受けるため、老後の資産形成が充実している

というあたりです。

家計をシンプルに考えると「収入-支出=貯蓄」ということになりますが、収入は多く(A)、支出については支出減要素(B)と支出増要素(C)の双方がある、ということになります。

支出減要素(B)と支出増要素(C)のどちらが上回るかが、DINKS世帯のひとつのポイントです。ここをトータルでプラスにしなければ貯蓄も増えませんし、投資元本を確保することもできないからです。

子育て費用は、学費だけではなく食費や被服費など細かいお金の積み重ねです。あるレポートでは、大学卒業までの年収の25%程度を振り向け続けると概算しています。内閣府の調査では中学卒業までのすべての子育て費用の累計が約1,780万円とされており、高校と大学の学費が900~1,000万円ということを考えると、約3,000万円(ひとりあたり!)がかかることになります。

ポイントは、「B>C」とすることで、目の前の生活の充実にもお金を使いつつ、将来にも差額をストックして備えていくマネープランが重要です。

しかし、美味しいものを食べたり、いい服を着たり、楽しい旅行に出かけるなど、目の前の生活の充実にも予算をつぎ込みがちなのがDINKSの悩みです。

DINKSのリスク許容度を考える

資産運用に目を向けてみたとき、ファミリー世帯と比べてDINKS世帯は高いリスク許容度を持つところに強みがあります。

合計年収は高く、また夫婦がどちらも稼ぐことで、安定的な「稼ぎ」を得ることが最大の強みです。山崎元氏はよく「年間の最大損失額を概算し、年間貯蓄額以下に抑えるよう投資額の上限を定めなさい。そうすれば単年度で資産が目減りすることはない」という趣旨の指摘をしていますが、DINKSはこの点でも有利です。共働きでしっかり稼いでいることの強みをDINKSは発揮することができるわけです。

資産形成上のリスクを取りにくい要素として、具体的な資金ニーズが眼前に迫っていることがあげられますがここでもDINKSは強みがあります。住宅購入の頭金や、来年大学に入学する子の入学金などは投資資金に適しませんが、DINKSについては住宅購入資金の問題のみ注意すればよく、リスク許容度として考えれば老後に向かってリスクを取り続けられるということです。

一方でセカンドライフの目標額は高くなる

先ほどDINKSの特徴として「ダブルで退職金、ダブルで厚生年金」と説明しましたが、他の夫婦と比べて退職時の受取額は2人分、厚生年金も2人分もらえることで、経済的豊かさでも一歩リードしたセカンドライフになりそうです。

厚生年金をダブルで2人がもらうとモデル的には月31.3万円くらいです。子育てファミリーの場合、女性の正社員であった期間にもよりますが、月額20万円台の前半から後半になります。退職金をダブルでもらえば、モデル退職金にもよりますが1,000~2,000万円ほどの余裕が生まれます。

ところが、ここでもDINKSは簡単に安心できません。なぜなら、生活水準の問題は、一生涯考えなければならない「生活コスト増」の要素になるからです。どんなに多く年金をもらっても、生活水準が高い場合、公的年金で足りることはないのです。

ファミリー層が「子どもにかけていた負担はゼロになったし、ゼイタクをしないで暮らしていこう」と月額25万円くらいでくらせば、公的年金と1人分の退職金だけでなんとかやりくりできます。

しかし、DINKSが「リタイアしたからといって生活水準は落としたくないね」とばかりに、月額40~50万円の暮らしを続けてしまえば、毎月9~19万円の取り崩しということになり、標準的な老後(約20年)で、2,160~4,560万円が消えていく計算です。特に後者の場合、ダブルの退職金でも底をつく金額ということになります。

一般に、老後のために3,000万円の確保を目指したいといわれますが、DINKSの場合は、上方修正をかけて4,000~5,000万円くらい貯めたい、とがんばってみたいところです(ダブルの退職金を除いて純粋に3,000万円貯める、と整理してもよい)。これなら、老後もかなり豊かな生活をエンジョイできます。

セカンドライフも楽しくDINKSとして過ごすためにリスクを取った運用を考える

DINKSは貯蓄原資を蓄えやすく、かつリスク許容度が高いわけですから、ハイペースで貯蓄を行い、その一部についてリスク資産で運用をしていくことで、セカンドライフの豊かさにたどりつけます。

仮に夫婦の合計年収が1,000万円である40歳のカップルが、年収の15%相当を貯蓄できれば、元本だけで60歳時点で3,000万円になります。毎月の積立は8万円、ボーナスのたび27万円という数字はファミリー世帯や専業主婦世帯では実行困難でも、DINKSの場合、ひとりあたり負担は半分になりますし、家計改善を本気で行えば十分実行可能なはずです。

このペースで積み立てた原資の5割をインデックス運用に回し、年率4%確保できたとすれば(残りの5割は定期預金として年率0.5%と仮定)、60歳時点の最終受取額は3,860万円です。自信があれば期待リターンの高まる運用に手を出してもかまいませんが、リスク管理の負担を考えれば納得のいく受取額ではないでしょうか。

最初の積立元本が、年収の7.5%相当であっても1,930万円の資産とダブルの退職金になりますから、セカンドライフの余裕にはある程度のメドが立ちます。これなら現実的なチャレンジだと思います。

子どもがいるファミリー世帯は、子どもが変化し続けていくことが、夫婦間の刺激になります。最初は自ら歩くこともできなかった子が、気づけば友達を作り、恋をして社会人になっていく姿を見守ることで何十年も新たな喜びを得ることができるわけです。ただし、お金も相当かかり、自分たちの楽しみや喜びを諦めることも多々あります。

紆余曲折あってDINKSというライフスタイルを選ぶことになった夫婦は、こうした変化や刺激を子どもに委ねることはできません。むしろ子どもに依存せず、自分たちでフレッシュな感動をみつけ続けていくことが必要です。そのためにはやはりある程度の資金が欲しいところです。

DINKSが積極的に投資に向き合ってみることで、長い人生の豊かさを切り開くきっかけが得られるかもしれません。ぜひ資産形成に取り組んでみてください。