今日のまとめ

  1. 航空宇宙防衛関連セクターは民間向けと政府向けビジネスに二分できる
  2. 民間向けビジネスは新製品サイクルの大きなうねりに左右される
  3. 政府向けビジネスは低成長だが業績や配当利回りが読み易い
  4. ロッキード・マーチンとゼネラル・ダイナミクスは女性CEOにより経営されている
  5. 政府向けビジネスは低成長だが業績や配当利回りが読み易い

航空宇宙防衛関連セクターの概観

米国の航空宇宙防衛関連セクターは大きく分けて、ボーイングに代表される民間向けビジネスと、米国国防省を顧客とする政府向けビジネスに二分できます。

このうち民間向けビジネスは景気に左右されますし、新製品のサイクルに左右されます。旅客機は何十年も使用されるため、新製品のサイクルは大きなうねりになりやすいです。

一方、政府を顧客とする防衛のビジネスは、景気変動に左右されるというよりも政府の予算や購買計画に左右されます。契約は長期が多く、利幅は契約時に決まってしまうことが多いです。

ソ連の崩壊に続いて1990年代に米国の防衛産業が不況になった際、国防省は防衛関連企業のM&Aを奨励し、一握りの財務的にしっかりした企業に発注を集中することで健全な企業を残す方針を打ち出しました。

この結果、例えば航空母艦ならハンチントン・インガルス、戦車ならゼネラル・ダイナミクスというように「あの会社に発注するしかない」という独占的な状態になっています。

銘柄 コード 主な製品
ボーイング BA 旅客機、防衛関連
ゼネラル・ダイナミクス GD アブラムス戦車、バージニア級潜水艦、IT
ハンチントン・インガルス HII フォード級航空母艦、サンアントニオ級LPD
ロッキード・マーチン LMT F-35戦闘機、人工衛星、ミサイル
ノースロップ・グラマン NOC グローバル・ホーク無人偵察機、サイバー防衛
レイセオン RTN トマホーク・ミサイル、レーダー防衛システム
スピリット・エアロシステムズ SPR 旅客機の機首、胴体、主翼部分の下請け

このためこれらの企業が倒産するリスクは低いです。また大手企業の中には高配当の銘柄も少なくありません。

つまり政府向けビジネスに関わる企業は、成長を買うのではなく、景気に左右されない安定した配当を目当てに投資する対象なのです。

ボーイング

ボーイング(ティッカーシンボル:BA)は大型旅客機のメーカーとして有名です。同社の売上高のうち63%は民間部門で、残りが防衛関連です。

現在、同社はちょうど新製品サイクルに入っており、次期主力機の787ならびに777xの受注が着実に伸びています。

去年の12月の時点での受注残は4,800機、金額にして3,450億ドルです。これは同社の年間売上高の約4年分に相当します。

同社の受注活動は極めて順調であるため、目下の投資家の関心事はちゃんと納品が出来るかどうかに移っています。

去年マスコミを騒がせた787のバッテリーの不具合は、今のところ鎮静化しているように見えます。また難航した労働組合との交渉も妥結し、777xは同社のルーツであるワシントン州シアトル周辺で組み立てることが決まっています。

【略号の説明】

  • DPS一株当り配当
  • EPS一株当り利益
  • CFPS一株当りキャッシュフロー
  • SPS一株当り売上高

ゼネラル・ダイナミクス

ゼネラル・ダイナミクス(ティッカーシンボル:GD)は防衛関連の売上高ではロッキード・マーチンに次いで二番目に大きい会社です。フィービー・ノヴァコビックという女性CEOに率いられています。

同社は四つの部門から構成されています。航空宇宙部門はガルフストリーム・ジェットなどを作っています。戦闘システム部門はアブラムス戦車などを作っています。海洋システムはバージニア級潜水艦などを作っています。IT部門はミサイル誘導装置などを作っています。

イラクやアフガニスタンに展開していた米軍が帰還したため、戦闘システムの受注は縮小傾向にあります。防衛費削減のトレンドを受けて、今後海洋システムの売上高もマイナスになることが予想されています。

ゼネラル・ダイナミクスのバランスシートは強固で、業績は読み易いです。配当利回りは2.35%程度です。

ハンチントン・インガルス

ハンチントン・インガルス(ティッカーシンボル:HII)は現在アメリカで航空母艦を建造する事が出来る、唯一の企業です。同社は三か所に分散していた造船所を集約する方向にあります。

同社が受注したサンアントニオ級LPDは契約条件が同社に不利で、これがマージンの圧迫要因となってきましたが、その納品が近く完了するので今後の収益性は改善すると見られます。

このように同社は売上高の成長というよりは手持ちの役務の作業効率の改善からEPS成長をひねりだしています。国防予算の圧縮のプレッシャーがある中、新しい艦船の建艦は少ないですが、既存の空母などのメンテナンスの仕事は絶え間なくあるので売上高の凸凹はそれほどでもありません。

ロッキード・マーチン

ロッキード・マーチン(ティッカーシンボル:LMT)は防衛関連売上高では全米No.1です。同社はマリリン・ヒューソンという女性CEOにより経営されています。

同社は過去最大の防衛関連プログラムであるF-35多目的戦闘機をはじめ、タイタン・ロケットなども製造しています。売上高の82%は米国政府向けで、残りは同盟国への輸出です。

F-35は合計2,400機の納品を予定していますが、現在は未だ最初の100機が完成した状態に過ぎず、今後長年に渡って同社の業績を下支えするプログラムになると予想されています。

将来の売上が極めて読み易いビジネスであることから、同社は積極的に利益を株主に還元しています。過去5年間の配当成長率は年率21.5%でした。現在の同社株の配当利回りは3.45%です。

ノースロップ・グラマン

ノースロップ・グラマン(ティッカーシンボル:NOC)はグローバル・ホーク無人偵察機やサイバー防衛関連のシステムを作っています。同社の売上高の90%はアメリカ政府で、米軍への依存度は航空宇宙防衛関連企業の中でも最も高いです。

その米軍はアフガニスタンから引き揚げているので、同社の得意とするドローン(無人偵察機)の需要も頭打ちです。

しかし長期で見た場合、偵察機の無人化のトレンドは今後も続くと思われます。また用途も拡大することが予想されます。

同社は業績の安定性に比して配当性向が同業他社より低く、未だ増配余地を残しています。

レイセオン

レイセオン(ティッカーシンボル:RTN)はトマホーク・ミサイルやレーダー防衛システムなどを作っています。売上高に占める米国政府比率は70%です。

同社は最近、海外の商談が好調です。マージンも拡大基調にあります。自社株買い戻し余地、増配余地も大きく、目先はこれらが株価を動かす材料になると思われます。

スピリット・エアロシステムズ

スピリット・エアロシステムズ(ティッカーシンボル:SPR)は元々ボーイングのカンザス州ウィチタにある工場がルーツとなっています。ウィチタはボーイングの他にもビーチクラフトなどの航空機メーカーがあり、昔から航空産業のメッカとして知られてきました。

その後、同社はボーイングからスピンオフされ、現在はプライベート・エクイティ・ファンドのオネックスの傘下となっています。2006年に新規株式公開(IPO)され、現在に至っています。

同社はボーイング737、787などの機首部分、胴体、主翼の一部などの製作を請け負っています。現在の受注残は380億ドルで、これは同社の売上高の6年分に相当します。