今日のまとめ

  1. 「一人っ子政策」や戸籍制度の緩和が発表された
  2. なかでも戸籍制度の緩和は農村戸籍保持者の社会保障充実のために欠かせない
  3. セーフティーネットが不十分だったので貯蓄性向が高すぎた
  4. 改革は自動車などの高額アイテムの消費を刺激する

3中全会で重要な決定が

先週、中国で共産党第18期中央委員会第3回全体会議(=略して3中全会)が開催されました。

海外のメディアは「一人っ子政策」の緩和を主に報道しています。中国の就労人口が今後減少に転じる見込みであることを考えれば、この緩和は歓迎すべきことです。

3中全会では、その他にも金利・為替制度の自由化、土地改革など、幅広い分野における改革が打ち出されました。

その中でも特に投資家が注意すべき改革は、戸口(フーコー)制度の緩和です。

戸口制度とは

戸口とは、日本語の戸籍に相当します。この主な目的は農村人口が都市に急速に流れ込んでしまうことを抑制する点にあります。このため最初から都市に生まれている人には城市戸口(都市戸籍)を、農村に生まれた人には農村戸口(農村戸籍)を与えています。

農村戸口を持つ人は、原則として都市に移り住むことは禁止されていますので、日本で転勤になったとき、家族が新しい土地に行ったとき、転入届に相当する手続きが出来ないわけです。

すると子供は転校生として公立の学校に転入することも出来ません。同様に出稼ぎ先の福祉や公共サービスなども事実上受けられないカタチになっているのです。

しかし出稼ぎ労働者はそのような不都合を承知で都市にやってきて仕事を見つけました。その意味では、戸籍による都市への人口流入抑制は、成功しなかったと言う事も出来ます。

予算や貯蓄性向の面からこの問題を考えると

さて、中国政府の財政支出の面から見ると農村のために使われた支出は総支出の六分の一程度です。農村人口が、中国全体の人口の過半数を占めているのに、その農村に対して使われている予算が少額で済んでしまっているひとつの原因は、労働者が都市に出てしまって、「不在」になっているので、地方政府の実際のサービス負担が、登記上の負担より小さいためです。

逆の言い方をすれば、農村戸口を持っている労働者は、都市に出てきているがゆえに、みすみす受けられる公共サービスの一部を放棄せざるを得なかったと形容することも出来るでしょう。

政府が面倒を見てくれないわけですから、頼れるのは自分だけになるわけです。すると出稼ぎ労働者は普通の城市戸口保有者より何かの時のための備えのため、貯蓄を多くすることになってしまいます。貯蓄性向が高いのは社会のセーフティーネットが未整備だからという風に考えることも出来るわけです。

中国の政府の予算は、他の先進国などと比べると極めて健全です。それは良い事には違いないのですが、その裏には、このようなアンダー・スペンディング(過小支出)の問題が隠れているのです。

今回の改革と投資への意味合い

今回の戸籍制度の改革では大都市への人口流入に関してはこれまで通り、厳格な制限が堅持されています。しかし地方の中規模の都市への人口流入に関しては戸籍制度が緩められました。

もちろん、これは地方政府の負担増加要因になります。でも逆に言えば地方都市への出稼ぎ労働者は安心して消費を楽しむことが以前より出来るようになることを意味します。

社会福祉制度の充実が、自動車をはじめとするビッグ・チケット・アイテム(高額消費材)の売れ行きに影響することは、既にアメリカなどでも実証済みです。

中国はこれまでの輸出一辺倒の経済から、内需依存型の経済へと構造転換している最中です。消費の健全な成長は、その体質改善の中核となる取り組み課題です。

今回の戸口制度の緩和は、この問題を根本的なところから直してゆこうとする試みであり、大いに評価できます。