本連載の4月11日掲載「厚生年金基金廃止なら、老後資金準備への影響はどうなる?」において、厚生年金基金改革法案の影響が個人の資産形成にどう及ぶか、について説明をしていましたが、その後の続報を案内していないことに気がつきました。
たいていの法案は一発で国会で成立することはなく継続審議になるものですが、この法案については与野党の意見の相違がほとんどなかったため、6月19日に成立をみました。法案提出から約2カ月というスピード成立です。
法案が施行されるのは2014年4月1日です。今回はその影響について一度ご紹介し、老後資産形成へ与える影響についてもう一度考えてみたいと思います。
厚生年金基金はなくなっていくことに
厚生年金基金制度は、1966年にスタートした歴史のある企業年金制度です。一時期は1200万人を超える会社員がカバーされていましたが、代行返上や解散等の影響を受け、2013年3月末では426万人とほぼ3分の1まで減少していました。
今回の法案では、強制的な廃止は行われないものの、財政的に悪化している基金(全体の約4割)については施行後5年以内の解散を求め、そうでない残りの基金についてもかなり厳しい財政基準を満たさなければ随時解散を求めていく方向が示されました。はっきりいって、多くの基金は解散を選ばざるを得ない法改正となっています。
厚生年金基金の大きな特徴は、本来国に納める厚生年金保険料の一部を民間で管理・運用・給付させることでしたが(だから厚生年金、の名を冠する)、制度が仮に解散するとなってもこの部分について個人にしわ寄せは及ばないこととなっています。今後厚生年金基金に加入していた人においても、国の厚生年金分まで減額される心配はありません(積立不足がある場合、会社には応分の負担が求められる)。
ただし「本来の企業年金部分(プラスアルファ部分、加算部分という)」についての取り扱いは基金ごとに異なってきます。来年以降、どのような選択肢が出てくるか一足早くご紹介しましょう。
厚生年金基金のなくなり方はそれぞれ 条件を確認しよう
厚生年金基金の終了は、それぞれの厚生年金基金ごとに判断します。つまり、「時期」「方法」は基金ごとに決定される情報を待たなければならないということです。個人が任意に時期や選択肢を選ぶことはできません。
まず、「残余財産の有無」により対応が異なります。国に厚生年金相当分を返したところ、不足が生じておりこの穴埋めをするのが精一杯、という場合、本来あったはずのプラスアルファの積立は受け取れないまま終了ということになります。この場合は、労使協議のうえ、会社が責任を負うかどうか検討することになります。
厚生年金分を返した後、分配される資産はあるが、100%の積立水準に達していないため、数割減額されて分配されることもあり得ます。これは基金ごとの財政状況によって異なってきます。
次に「資産引き継ぎの選択肢」が示されます。選択肢をざっと書けば以下のとおりです。
- 基金が新たな企業年金を作りそこに資産を移す
a. 確定給付企業年金を作り移す
b. 確定拠出年金を作り移す - 各企業に企業年金を作ってもらいそこに資産を移す
a. 確定給付企業年金を作り移す
b. 確定拠出年金を作り移す
c. 中小企業退職金共済へ移す - 個人に分配する
a. 個人が現金で受け取る
b. 企業年金連合会に移す
政省令がすべて出そろっていない段階ですが、「1」を基金が決断した場合はそれが優先され、「2」を基金が認めた場合は企業が選択肢から検討し、「3」は前述の選択肢が用意されない場合に選べることになると思われます(すべての選択肢が提示されることもありうる)。
いずれにせよ、厚生年金基金がまず検討し決断、それを受けて企業が検討し決断、さらにそれらの選択肢を踏まえて個人が決断という順番になるでしょう。解散にあたっては加入者の3分の2の同意が必要で、説明資料等が配布されることになります。必ず内容を確認をしてください。
特に、どれだけ受け取りの見込額が下がるのか、元の条件と比較して確認しておきましょう。
個人型確定拠出年金が利用可能になるというメリットも
もし、厚生年金基金はなくなり、確定給付企業年金への移行も行われなかったとしたら(企業型の401kも実施されていない)、企業年金という老後資金準備の柱がひとつ減ってしまうことになります。この分について、できれば自分で資産形成を考えたいところです。
来年からスタートするNISAはその選択肢の一つになりえますが、厚生年金基金の解散により得られるメリットがひとつだけあります。それは個人型の確定拠出年金に加入できることです。
個人型の確定拠出年金はNISAよりも強力な税制優遇があります。自分の老後のために自腹を切って積立を行うと、所得税や住民税の軽減が実現します。これはNISAにはないメリットで、口座維持手数料がかかりますが、税負担軽減で十分元が取れる水準です。運用益非課税のメリットはNISAと同等に得られますし、掛金を積み立てた期間を勤続期間にみなして退職金と同等の非課税枠を受取時にも享受できます。
残念ながら楽天証券では個人型確定拠出年金の取り扱いはありませんが、多くの金融機関で取り扱いがありますので、ぜひ検討をしてみてください。すでに投資信託の購入経験がある人にとって、確定拠出年金の運用選択肢はほとんど同様ですし、オンライントレードの経験がある人にとって確定拠出年金の運用指図画面も似ていますので、困ることはないでしょう。
法律の施行が2014年4月からで、それぞれの厚生年金基金が検討、決断を下すには数カ月から数年かかると思いますが、きちんと影響をみきわめて、対策を講じておきたいところです。